進行別 がん標準治療 徹底的な治療をする。これが精巣がんの治療方針
転移していても治る可能性がある
がんとしての性質は、「極めて進行が早いのが特徴です」と垣本さん。こういうと、悲観的になる人もいると思います。しかし、一方で精巣がんは治りやすいがんでもあるのです。「精巣がんの治療法は、ほとんど確立されているといっていいです」と垣本さんは語っています。精巣がんは、抗がん剤や組織型によっては放射線治療がよく効くがんです。
手術による精巣摘出を基本に、こうした治療をしっかりと行うことで、治る可能性が非常に高いのです。精巣以外に転移のない1期ならば、ほぼ100パーセント近く、2期以上の進行がんでも80~85パーセントが治っています。
他の多くのがんと違って、転移していても、治る可能性は十分にあるのです。そのかわり、治療も徹底して行われます。「治療も厳しいし、長期に及ぶこともあります。その意味では患者さんには決して楽な治療とはいえませんが、頑張ればそれだけの効果が期待できるがんです。闘うだけの価値があるがんなので、私たちも頑張るし、また患者さんにも途中で脱落しないで頑張って治療を続けて欲しいのです」と、垣本さんは強調しています。

精巣がんの検査
触診と超音波検査、そして血液検査による腫瘍マーカーのチェックで、精巣がんかどうかは、ほとんどわかります。触診では「ふつう精巣は表面がツルンとしていますが、精巣の外にがんが出てくるとゴツゴツした感じになる」のだそうです。
また、精巣がんでは腫瘍マーカーが診断や治療効果の判定、治療方針などに大きな位置を占めています。
絨毛上皮組織から産生されるβ-HCG(ヒト絨毛性ゴナドトロピン)、AFP(アルファフェトプロテイン)、LDH(乳酸脱水素酵素)がこれです。
LDHは腫瘍のタイプに関係なく、がんの大きさや量によって上昇しますが、他のマーカーはそれぞれのがんのタイプによって変化します。これまでの検査でなお診断に迷うようならば、MRIが追加されることもあります。
治療と病理診断のために、即刻手術
前記の検査で、精巣がんと診断された場合、組織型や転移の有無に関わらず「できるだけ迅速に、手術をするのが基本」です。病院によっては、検査で精巣がんと判明した時点で、即日手術が行われます。
大阪府立成人病センターの場合、手術件数が多いので即日とはいきませんが、それでも数日以内には手術を行うそうです。それだけ、がんの進行が早いということなのです。

ここで、標準手術として行われるのが高位精巣摘除術と呼ばれる精巣摘出の手術です。精巣には、これに通じる動静脈や精子の通り道である精管などが集まった精索(血管や精管などの束)が腹部から延びています。こうした血管などを通して、がんは広がっていきます。
そこで、精巣と精子の通り道である精巣上体と一緒に、精索を切除して摘出します。
高位というのは、できるだけ精索を上のほうで切る、という意味です。
垣本さんによると、「手術自体は難しいものではなく、腰椎麻酔をした上で鼠径部を切開し、腫瘍も含めた陰嚢内容物と精索を一塊で取り出します。時間にして、30分程度の手術」だそうです。
これと平行して、CTなどによって転移の有無や部位の検査を進めます。
つまり、精巣がんでは、原発巣の摘出と病理診断を兼ねて、まず全例に手術が行われるわけです。
これによって、前表のように1期から3期まで、ステージ分類が行われます。また、摘出した組織の病理検査から、がんの組織型もはっきり確定されます。

早期(1期)がんの治療
手術が終われば経過観察
治療法は、1期か1期以降か、つまり早期がんか進行がんか、さらにセミノーマか非セミノーマかによって、決定されます。1期は、精巣のみにがんがとどまり、転移がない段階です。現在、この段階で発見される人が一番多いそうです。
●非セミノーマ
垣本さんによると、現在日本では「非セミノーマの場合は、高位精巣除除術が終われば、経過観察が中心」だといいます。つまり、手術で治療は終了し、その後の経過を定期的に診ていくことになります。治療は、短時間の手術だけで終了するわけですから、患者にとっては一番負担が少なくて済むわけです。精巣も健康な側が残っているので、性機能にも問題はありません。
ただし、海外では予防的な意味合いで所属リンパ節である後腹膜リンパ節の郭清を行うところもあるそうです。後腹膜リンパ節は後ろ側にあるので、郭清を行うとなると、「腹部の中央(正中)を大きく縦に切り、腸を持ち上げて裏側の腹膜を切開し、リンパ節を郭清することになります」と、垣本さん。手術は長時間に及び、腸に障害を起こしたり、神経を傷つけて射精障害を起こす危険もあります。そのため、日本ではあまり行われていないそうです。