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がんゲノム検査で治療選択肢が急激に増える! 治療標的になる遺伝子変異や融合遺伝子が多い甲状腺がん

監修●清田尚臣 神戸大学医学部付属病院腫瘍センター特命准教授
取材・文●半沢裕子
発行:2022年8月
更新:2022年8月


がんゲノム検査で治療はどのように進化したのですか?

今まさにがんゲノム検査により、甲状腺がん治療に変化が起きてきています。

これまでも分子標的薬の多くは、特定の遺伝子異常がある場合に使われてきました。例えば、ある分子標的薬の効果が期待できる遺伝子異常があるかどうかを調べる「コンパニオン診断薬」を用いて検査を行い、その検査が陽性(=対応する遺伝子異常が陽性)であれば該当する分子標的薬が使えるというようなものです。コンパニオン診断薬では通常1種類から数種類の遺伝子異常について調べます。

一方で、がんに関係する遺伝子異常を調べる遺伝子検査には「がん遺伝子パネル検査」もあります。高い精度で一度に100~300程度の遺伝子異常を検査することができ、2019年から保険適用になっています。

がんゲノム医療は、このがん遺伝子パネル検査により見出された遺伝子異常に対して、効果が期待できる薬剤や参加できる治験がないかを探すという仕組みで、標準治療の終了が見込まれる人や標準治療がないような希少がんの人などが対象になります。甲状腺がんは、治療に紐づくような遺伝子異常がみつかることが比較的多く、このような検査の良い適応だと考えられています。

例えば、乳頭がんではBRAF V600E遺伝子変異の頻度が6割程度と高く、この変異があると再発率が高く、生存率が低いことが知られています。

同時に、甲状腺がんは他のがん種に比べて融合遺伝子を持っている可能性が高いこともわかっています。乳頭がんではRET融合遺伝子を最大で4割くらいに、またNTRK融合遺伝子などが認められる方もいます。

NTRK融合遺伝子陽性には、TRK阻害薬ロズリートレク(一般名エヌトレクチニブ)とヴァイトラックビ(一般名ラロトレクチニブ)が使えます。

また、今年2月には、RET阻害薬のレットヴィモ(一般名セルペルカチニブ)が、「RET融合遺伝子陽性の根治切除不能な甲状腺がん」と「RET遺伝子変異陽性の根治切除不能な甲状腺髄様がん」に適応になりました。

このレットヴィモを使用するためには、先ほど説明したコンパニオン診断薬の1つである「オンコマインDx Target TestマルチCDx」もしくはがん遺伝子パネル検査で、RET融合遺伝子陽性もしくはRET遺伝子変異陽性であることを調べておく必要があります(表4)。

もう1つは、BRAF遺伝子異常に対する治療薬の可能性です。

BRAF遺伝子変異を持つ固形がんを対象とした第Ⅱ相試験「ROAR試験」におけるBRAF阻害薬+MEK阻害薬(タフィンラー+メキニスト併用療法)を解析をした試験結果を見てみましょう。

206例中36例が甲状腺未分化がんで、BRAF V600E変異を持つ33例を見てみると、奏効割合が58%、生存期間中央値は14.5カ月、2年生存率が31.5%と、驚くべき結果が出ています。BRAF V600E変異陽性固形がんにこの治療法は非常に効果的で、今年6月、「BRAF V600E変異陽性の進行固形がん」に対し、タフィンラー+メキニスト併用療法が、FDA(米国)で承認されました。日本では、承認に向けた動きが出てきたところです。

このように使える薬が増えているのは、特定の遺伝子異常に効果のある分子標的薬が盛んに開発されていることに加え、これまでのような特定のがんに対する適応ではなく、特定の遺伝子異常を有する悪性腫瘍であれば使用できるような臓器横断的適応が認められるようになったことも大きいです。

TMB-High(遺伝子変異量が多い)やMSI-High(高頻度マイクロサテライト不安定性)というような遺伝子異常を起こしやすい悪性腫瘍に注目した臓器横断的適応症も認められており、これらの患者さんにはキイトルーダ(一般名ペムプロリズマム)の有効性が期待できます。このように特定の遺伝子異常は効果のある分子標的薬の適応となる可能性があるため、とくに甲状腺がん患者さんでは積極的にがんの遺伝子異常を調べることが重要なポイントになります(図5)。

融合遺伝子=転座により2つの異なる遺伝子がつながってできる遺伝子のことで、腫瘍の増殖を活性化させることがある

患者として知っておくべきことは?

もしあなたが手術後に薬物療法を受け、それが「効かなくなりました」と言われたら、主治医の先生に「自分はがんゲノム診療を受けられないのですか」と聞く機会ができるのです。ですから、患者さんは「がんゲノム診療」のことも知っておくことがとても大事だと思います。

がん遺伝子パネル検査などで、そのような遺伝子異常を有する患者さんを見逃さず、治療につなげたいと思っています。

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