治療歴を問わずオプジーボの有効性が認められた 原発不明がんの治療薬が世界に先駆け初承認

監修●中川和彦 近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門主任教授
取材・文●柄川昭彦
発行:2022年3月
更新:2022年3月


予後不良タイプにはプラチナ併用療法が行われてきた

予後不良の原発不明がんに対しては、確立された標準治療はない。ただ、一般的には「プラチナ併用療法」と呼ばれる化学療法が行われてきた。プラチナ製剤「シスプラチン(一般名)またはパラプラチン(一般名カルボプラチン)と、タキソール(一般名パクリタキセル)やタキソテール(一般名ドセタキセル)など、プラチナ製剤以外の抗がん薬を組み合わせる2剤併用療法である。

「プラチナ併用療法は広く行われていますが、無治療群と比較する臨床試験を行って有効性が証明されたわけではないので、原発不明がんの標準治療とは呼べません。そこで『みなし標準治療』と呼んでいます。原発不明がんに対するプラチナ併用療法の奏効率は、20~30%という報告があります。しかし、比較試験の結果ではないので、標準治療は確立されていない、ということになっているのです」(中川さん)(図3)

標準治療が確立されていないどころか、実は原発不明がんに対する治療薬は、世界中のどこでも承認されていなかった。日本のPMDA(医薬品医療機器総合機構)も、アメリカのFDA(米国食品医薬品局)も、ヨーロッパのEMA(欧州医薬品庁)も、原発不明がんに対する治療薬として承認した薬剤は1つもなかったのである。こうした状況が、2021年12月に大きく変わることになった。

原発不明がんの治療薬が世界で初めて承認された

これまで多くのがんの治療薬として承認されているオプジーボ(一般名ニボルマブ)が、世界に先駆け、日本において原発不明がんの治療薬として承認された。この承認の根拠となったのは、近畿大学医学部内科学腫瘍内科部門などが主導し、国内の10施設で実施された医師主導治験である「NIVOCUP試験」だった。

この第Ⅱ相臨床試験の対象となったのは、抗がん薬による治療歴のある原発不明がんの患者さん45人(既治療群)と、抗がん薬による治療歴のない原発不明がんの患者さん11人(未治療群)の計56人だった。

この人たちにオプジーボによる治療を行ったところ、主要評価項目である既治療群の奏効率は22.2%(95%信頼区間:11.2~37.1%)だった。今回の試験結果は奏効率22.2%だが、同じような試験を100回行った場合、そのうちの95回は奏効率が11.2~37.1%の間に入るという意味である。

そして、信頼区間の下限値が事前に設定した閾値(いきち)奏効率の5%を���えていたため、主要評価項目を達成したと評価された。

「原発不明がんは標準治療が確立されていないため、比較する相手がいないということで、シングルアームの臨床試験となりました。そこで得られた奏効率をどう評価するかですが、一般に奏効率が5%以上あれば、何らかの抗腫瘍効果を示していると考えられます。今回の試験結果は、信頼区間の下限値が11.2%で、これが5%を超えていたことにより、原発不明がんの既治療例にオプジーボは有効であると評価されたわけです」(中川さん)

また、未治療群と既治療群を加えた全例における奏効率は21.4%(95%信頼区間:11.6~34.4%)で、治療歴に関わらずオプジーボが有効であることが認められた。

既治療群の全生存期間(OS)中央値は15.9カ月で、これはかなり長い。比較試験ではないのではっきりしたことは言えないが、一般的に、既治療例にプラチナ併用療法を行った場合の生存期間はだいたい5~6カ月ほどだという。再燃するまでの期間を示す無増悪生存期間(PFS)は4.0カ月しかないが、全生存期間が長いのが特徴だ(図4)。

「PFSはさほど長くないのに、全生存期間が長い。これは他のがん種に対するオプジーボの治療データと同じような傾向を示しています。よく効く人は全体の2割ほどだけれど、生存期間は延ばしてくれる。2割に入っていない患者さんにも、免疫力を高めることにより生存に寄与しているのかもしれません」(中川さん)

NIVOCUP試験の結果により、原発不明がんの治療薬として世界で初めて承認されたオプジーボだが、比較試験が行われたわけではないので、これが原発不明がんの標準治療になったというわけではないそうだ。標準治療が確立されるには、更なる研究が必要とされている。

今後の原発不明がん研究の2つの方向性

今後の原発不明がんの研究は、2つの方向に進んでいくことになりそうだ。

「今回、原発不明がんが薬剤承認の対象として認められたことで、これからは新たな薬剤の開発も進むでしょうし、オプジーボと他の薬剤を併用する併用療法も登場してくるでしょう。たとえば、オプジーボとヤーボイ(一般名イピリムマブ)の併用療法や、それに抗がん薬を加えた3剤併用療法の臨床試験が計画されています」(中川さん)

もう1つの方向性は、原発不明がんの原発巣を推定する方法の研究だという。

「新たな原発巣の推定方法を編み出すことが求められています。簡便で、精度が高く、安全で、安価な検査方法を確立する必要があるでしょう。また、肺がんの治療などでは、ドライバー遺伝子の異常が治療法に直結しています。今後は、原発巣を推定するだけでなく、治療法にも関わってくるような診断方法が求められる時代になると思います」(中川さん)

世界初の承認をきっかけに、原発不明がんに関する研究が急速に動き出すことになりそうである。

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