深い部位に微細な施術 ロボット支援手術のメリットを発揮
09年、日本でも子宮がんに活用
ダヴィンチのがん治療への適応は、2000年代に入り、米国で泌尿器系がんの分野から始まった。米国では適応の範囲が広がり、現在は婦人科系のがんの約7割がダヴィンチで手術されているという。
東京医科大学病院ではダヴィンチを05年に導入した。井坂さんは、米国のフロリダ病院での研修を経てライセンスを取得し、09年、日本で初めて子宮がんに対して手術を行った。
「腹腔鏡下手術が開始された時よりも驚きました。こんなことできるのかと。しかも、技術の取得に腹腔鏡ほど時間を要さない」
井坂さんの病院では、これまで266例(2013年12月時点)のダヴィンチを使用した子宮腫瘍手術を行っている。日本ではほかに、20施設ほどで臨床研究が実施されているという。
子宮がんで強みを発揮 合併症リスクを減らす
「ダヴィンチが有効性を発揮するのは、狭くて深いところでの手術。骨盤底は最も適しているところです」
狭い部位にも鉗子が奥まで入って行くことができ、さらに拡大した画像で患部を見ることができる。
井坂さんは続ける。
「子宮体がんにも子宮頸がんにも有用ですが、とくに子宮頸がんに有用だと思います。子宮頸がんは婦人科系でも一番難しい手術。大量に出血もしますし、副作用で排尿への障害もありうる。ダヴィンチはそれを助けてくれます」
ダヴィンチでは拡大画像と微細な動きにより、血管や子宮のすぐ近くにある膀胱の神経などを剥離し、温存することが容易に行えるのだ。
「出血もほとんどありません。広汎全摘手術の場合、開腹では1000㏄程度は出血しますがダヴィンチでは100㏄以下です」
頸がんならⅡb 体がんならⅠbまで可能
井坂さんによると、子宮頸がんだとⅡb、子宮体がんだとⅠbまでが現在のダヴィンチ手術の範囲だという(表1)。

技術的には、開腹手術のすべてを代替できるのだが、現在は化学療法が必要となる前の段階までを対象としている。

子宮体がんの場合は子宮の単純摘出とリンパ節の郭清がほとんどだが、子宮頸がんは広範囲に取らなければならないことが多い(図2)。
手術の工程を見ていこう(図3)。
手術は全身麻酔で行われ、腹部に鉗子類を入れる数カ所の穴が開けられる。
次に炭酸ガスを使って腹部を膨らませる。手術のスペースを作るためだ。
そして、鉗子を入れて、周囲の神経や血管を慎重にはがした後に子宮などを切除して、縫合する。

入院期間も短い 合併症も少ない
開腹手術との比較は表4のようになる。
開腹手術では5~6時間かかるが、ダヴィンチでも同等の時間で済む。
痛みが軽減されるのも大きな特徴だ。小さな傷口だけで済むため、開腹手術のような皮膚や筋肉を切開した痛みはほとんどない。
入院期間は、開腹手術の場合が2~3週間なのに対し、ダヴィンチは子宮頸がんで7日間、子宮体がんで5日ととても短い。
開腹手術との差は術後にも表れる。
「大きく切らずに傷が小さく、精密な作業ということで、傷が開いたり癒着したりということがありません。排尿障害など全体的な合併症も少なくなります。研究者の論文に、術後1カ月の合併症に関して開腹手術との比較をしたものがありました。この間の合併症による医療費負担ではダヴィンチ手術が開腹手術の10分の1でした」

予後は開腹と同等との報告も
「米国では、開腹手術とダヴィンチを含む腹腔鏡手術の予後に差がないことが報告されています」
と井坂さん。問題は費用だという。現状ではダヴィンチによる子宮がんの手術は保険適用されておらず、保険診療との組み合わせが可能な先進医療にもなっていない。学会ではまず保険診療との混合診療が可能な先進医療として認めてもらうべく、申請活動を行っている。
医療機関によって、研究目的として医療費を病院負担としているところや200万円近い額が患者負担となるところなど、対応が分かれているという。
技術は短期習得可能 各地に拡散を期待
東京医科大学病院は、国内のダヴィンチ手術において先駆けて取り組んでおり、2011年に「ロボット手術支援センター」を開設した。
新たにロボット支援手術を導入しようという医療機関に、安全管理などの情報提供や若手育成のシステム構築などを伝えていくのが目標という。
「ダヴィンチは、腹腔鏡に比べて短期間での技術習得が可能です。開腹手術の基本技術がしっかり備わっていれば、腹腔鏡よりも早く臨床に臨めるでしょう。全国の多くの医療機関で患者さんに負担の少ない、安全で安心な低侵襲手術が実施され、手術を必要とする多くの患者さんの一助になることを望みます」
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