症例数はまだ少ないが、高齢者や併存症を持つ患者にも対応可能 子宮体がんにおける重粒子線療法の今
<治療成績>
通常の治療スケジュールは週4回×5週計20回照射
2018年、小此木さんたちは、施行数が14例の時点での臨床研究の結果を論文にしたものが、医学誌「Journal of Radiation Research」(Journal of Radiation Research, Volume 59, Issue 3, May 2018, Pages 309–315)に掲載された。
重粒子線治療は通常、5週間で行う。週に4回(火、水、木、金)の治療を計20回実施。1回の治療時間は20~30分程度だが、実際の照射時間は2~3分程度だ。もちろん痛みなどを感じることはない。
前述の研究では、線量増加試験として、骨盤内リンパ節領域と腫瘍を含む子宮全体に照射する「全骨盤照射」を12回施行した。その後、子宮全体と腫瘍の浸潤部分への照射を4回、そして腫瘍局所に4回照射するというスケジュールで行った。
段階的に照射範囲を縮小すると、腫瘍を叩きながら正常組織へのダメージを最小限に留められるという。その分、縮小した範囲に照射するときには、線量を少しずつ増やしていくという照射方法を取ったのだ。
14例での生存期間中央値は50カ月
14例の患者の内訳は、ステージI1例、ステージⅡ9例、ステージⅢ4例で、年齢の中央値は70歳。14例中10例は手術不能例、4例は手術拒否例だった。
合計線量は62.4Gy(グレイ)*RBEから74.4Gy(RBE)で、62.4Gy(RBE)を照射した2例中1例と62.8Gy(RBE)を照射した1例では再発が認められたが、68Gy(RBE)以上を照射した症例では奏効し、再発は起きていない。
すべての生存期間中央値は50カ月(12~218カ月)。死亡者はがん死3例、多病死2例、原因不明死1例。生存者の生存期間中央値は78カ月(23~218カ月)だった。5年局所制御率は86%、5年無再発生存率(PFS)は64%、5年全生存率(OS)は68%、5年補正生存率は73%という結果だった。
線量増加により、グレード2の晩期有害事象は見られたものの、重篤なものは見られなかった。
*RBE:relative biological effectiveness…生物学的効果比のこと。重粒子線治療など、X線とは生物学的効果が異なる放射線治療において、その強さをあらわす際にGy(RBE)という単位が用いられる。
<今後の対応>
多施設共同臨床研究グループの一員として保険収載を目指す
「腺がんに対する重粒子線治療は、治療効果が出るのには時間がかかります。通常、治療完遂後、3カ月、6カ月と経過観察をすることになりますが、経時的に腫瘍は小さくなり、順調に経過すると最後には消えてなくなります。身体への負担は少なく、患者さんとっては非常にメリットのある治療です。
この14例でも手応えはありますが、引き続き症例数を増やし、長期間追跡して、その有効性をさら証明していきたいです。
今後は、J-CROS(重粒子線治療多施設共同臨床研究グループ:2014年4月組織化)で、密なコミュニケーションを取りながら保険収載を目指したいと思っています」
手術が不能な局所進行がんでも、手術をせずに腫瘍が取り除かれるということは、患者にとっては大きな福音となるだろう。
高額な治療費がデメリットに
一方、重粒子線治療のデメリットは、治療費が高額なことだ。現在の先進医療Aでは、診療費は保険適用になるが、治療費は実費の314万円が患者負担となる。
「患者さんによっては、民間保険会社の先進医療特約などを使って治療を受ける方もいらっしゃいますが、そうでない場合は、やはり高額であるということがネックになることはあると思います」
「そのためにも、保険収載になることを目標にしなければならない」と小此木さんは強調する。
「子宮体がんのみならず、できれば、子宮頸がん、婦人科領域悪性黒色腫とともに婦人科腫瘍の3つが一緒に保険収載になることが悲願です」
患者の在院日数の短縮、治療期間短縮、社会復帰までの期間の短縮などによって、重粒子線治療は医療経済的にも決して不利なものではなく、貢献できるという。
他の治療法とのコラボレーションが必須
そして、「今後は、現在、最も注目されている免疫チェックポイント阻害薬など、他の治療法とのコラボレーション(共同対応)によって、より強力に子宮体がんの治療が行えるようになることが大切です」と小此木さんは力説する。
「子宮体がんだけではなく、これからがん治療でブレークスルーしていくためには、他の治療法とのコラボレーションを考えることは必須だと思います」
発症にエストロゲン刺激の長期間継続が関連
子宮体がんは、50~60歳代が好発年齢で、70歳代にも多い。更年期や閉経を機に注意しておくべき疾患だ。
子宮体がんは、多くの場合、女性ホルモンであるエストロゲンの刺激が長期間続くことが関係しており、約8割が該当するという。エストロゲンが関係している子宮体がんは、更年期に肥満になる、糖尿病、閉経が遅い、出産経験がないといった人はリスクが高くなる。
「該当する年齢に達したら、検診を受けるなど注意が必要です。特に閉経後に不正出血がある方は、すぐに婦人科を受診してください。子宮体がんは、早期発見できれば、根治も見込めるがんであるということをしっかりと認識しておいてください」
小此木さんは、最後にそうアドバイスをくれた。
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