手術が第1選択。でも化学療法も少なくない 増えている子宮体がん 副作用の少ない化学療法に期待が集まる

監修:加藤久盛 神奈川県立がんセンター婦人科医長同センター手術部長 神奈川産科婦人科医会当理事
取材・文:池内加寿子
発行:2012年2月
更新:2013年4月

追加治療の主体は化学療法

子宮体がんは術前の検査だけでは正確な判断は難しい。そこで手術後に改めて、摘出した子宮や卵巣、リンパ節、腹腔内の細胞などの病理検査を行い、正確なステージと、術後の再発リスクを判断し、追加治療の有無を決定する。

追加治療として、欧米では放射線療法が広く行われているが、国内では化学療法が主流となっている。

「日本でも、放射線療法と化学療法を併用していた時期がありましたが、子宮体がんは放射線に反応しにくく、また、放射線による深刻な副作用が懸念されます。その後、米国で3~4期を対象として化学療法と放射線療法の有効性を比較した臨床試験が行われ、無再発生存率、全生存率ともに化学療法が放射線療法に勝っていたとの結果が出ました。この結果も根拠となり、日本では化学療法が先行しています。なお、高齢者や体力的に手術できない方には、放射線療法が推奨されています」

では、どのようなケースに化学療法が必要なのか。

「術後の病理検査の結果を『再発リスク分類』に照らしてみて、『高リスク』の場合は、化学療法を追加します。進行期でいえば3~4期にあたり、がんが取りきれていない、もしくは残存しているため、もっとも抗がん剤が必要なグループです」

術後の検査でリンパ節転移が発見された場合、手術進行期は3期、再発リスクは『高リスク』となり、術後化学療法が追加される。逆に低リスク群であれば経過観察となる。

「中リスク群に対する術後化学療法は、予後を改善する可能性があるとされていますが、悩ましいところです。当がんセンターでは、中リスク群のうち、血管やリンパ管などの『脈管侵襲あり』と『漿液性腺がんなど特殊型のがん』『腹腔細胞診陽性』の場合に、術後化学療法を行います」

AP療法に代わるTC療法に期待

[放射線療法とAP療法の全生存率による比較]
放射線療法とAP療法の全生存率による比較

出典:GOG122試験結果

術後の化学療法に使われる���がん剤には、プラチナ製剤であるシスプラチン()やパラプラチン()、アンスラサイクリン系のアドリアシン()、エンドキサン()、タキサン系のタキソール()、タキソテール()などがある。通常、2種類以上の抗がん剤を組み合わせた併用療法が行われる。

「今のところ、AP療法(シスプラチン+アドリアシン)が世界の標準治療とされています。ただし副作用として心毒性、腎毒性があり、さらに吐き気や食欲減退が強く、予定期間の治療を継続できない例も少なくありません。そのため、日本の過半数の施設で、TC療法(タキソール+パラプラチン)を用いているのが現状です。TC療法は、子宮体がんと進展の仕方が似ている卵巣がんの治療に使われる第1選択薬で、AP療法より吐き気が軽く、食事も摂りやすいのがメリットです」

[一般的な子宮体がんにおけるAP療法とTC療法の比較]

AP療法 TC療法
薬品名
ドキソルビシン+シスプラチン パクリタキセル+カルボプラチン
サイクル
ドキソルビシン+シスプラチンを
3週毎6クール
パクリタキセル+カルボプラチンを
3週間6クール
効果
JGOG2043試験にて確認中 JGOG2043試験にて確認中
主な副作用
心毒性、腎毒性、吐き気、
悪心嘔吐、食欲減退など
骨髄抑制、脱毛、
手足のしびれなど

一般的な子宮体がんにおけるAP療法とTC療法の比較

40代女性。3c期、高リスクの子宮体がん。術後、TC療法を3週1回6コース施行。治療後2年で傍大動脈(大動脈周囲)リンパ節に1×1.5センチの腫瘍(リンパ節再発)が発見された。再びTC療法を6コース施行したところ、腫瘍が消失。以来、無再発で2年(術後4年)経過している

TC療法によって、どの程度改善されるのか、まだ明確ではないが、「リンパ節再発にTC療法を行ったところ、6回の治療で腫瘍が消え、その後2年間再発なく経過している例もあります」と加藤さんは期待を込める。

JGOG(日本臨床腫瘍研究グループ)では、AP療法、TC療法、DP療法(タキソテール+シスプラチン)の3群間の比較試験を計画し、先ごろ登録が完了した。

「生存期間などの結果が出るのは5年後ですが、TC療法がAP療法に勝るか、もしくは同等であるという結果になれば、患者さんにとっても朗報ではないでしょうか」

TC療法の副作用には、骨髄抑制()、脱毛、手足のしびれなどがある。「白血球減少がひどい場合は、白血球を増やすG-CSF()の注射を使います。吐き気は、抗がん剤の投与前にカイトリル()などの制吐剤を用いて軽減します。手足のしびれにはビタミンB12などで対処します。投与開始から2週間ほどで始まる脱毛は、かつらや帽子などでカバーするとよいでしょう」と加藤さんはアドバイスしてくれた。

シスプラチン=商品名ブリプラチン/ ランダ
パラプラチン=一般名カルボプラチン
アドリアシン=一般名塩酸ドキソルビシン
エンドキサン=一般名シクロホスファミド
タキソール=一般名パクリタキセル
タキソテール=一般名ドセタキセル
骨髄抑制=白血球や血小板等の減少
G-CSF=一般名フィルグラスチム
カイトリル=一般名グラニセトロン


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