手術が第1選択。でも化学療法も少なくない 増えている子宮体がん 副作用の少ない化学療法に期待が集まる
追加治療の主体は化学療法
子宮体がんは術前の検査だけでは正確な判断は難しい。そこで手術後に改めて、摘出した子宮や卵巣、リンパ節、腹腔内の細胞などの病理検査を行い、正確なステージと、術後の再発リスクを判断し、追加治療の有無を決定する。
追加治療として、欧米では放射線療法が広く行われているが、国内では化学療法が主流となっている。
「日本でも、放射線療法と化学療法を併用していた時期がありましたが、子宮体がんは放射線に反応しにくく、また、放射線による深刻な副作用が懸念されます。その後、米国で3~4期を対象として化学療法と放射線療法の有効性を比較した臨床試験が行われ、無再発生存率、全生存率ともに化学療法が放射線療法に勝っていたとの結果が出ました。この結果も根拠となり、日本では化学療法が先行しています。なお、高齢者や体力的に手術できない方には、放射線療法が推奨されています」
では、どのようなケースに化学療法が必要なのか。
「術後の病理検査の結果を『再発リスク分類』に照らしてみて、『高リスク』の場合は、化学療法を追加します。進行期でいえば3~4期にあたり、がんが取りきれていない、もしくは残存しているため、もっとも抗がん剤が必要なグループです」
術後の検査でリンパ節転移が発見された場合、手術進行期は3期、再発リスクは『高リスク』となり、術後化学療法が追加される。逆に低リスク群であれば経過観察となる。
「中リスク群に対する術後化学療法は、予後を改善する可能性があるとされていますが、悩ましいところです。当がんセンターでは、中リスク群のうち、血管やリンパ管などの『脈管侵襲あり』と『漿液性腺がんなど特殊型のがん』『腹腔細胞診陽性』の場合に、術後化学療法を行います」
AP療法に代わるTC療法に期待

術後の化学療法に使われる���がん剤には、プラチナ製剤であるシスプラチン(*)やパラプラチン(*)、アンスラサイクリン系のアドリアシン(*)、エンドキサン(*)、タキサン系のタキソール(*)、タキソテール(*)などがある。通常、2種類以上の抗がん剤を組み合わせた併用療法が行われる。
「今のところ、AP療法(シスプラチン+アドリアシン)が世界の標準治療とされています。ただし副作用として心毒性、腎毒性があり、さらに吐き気や食欲減退が強く、予定期間の治療を継続できない例も少なくありません。そのため、日本の過半数の施設で、TC療法(タキソール+パラプラチン)を用いているのが現状です。TC療法は、子宮体がんと進展の仕方が似ている卵巣がんの治療に使われる第1選択薬で、AP療法より吐き気が軽く、食事も摂りやすいのがメリットです」
AP療法 | TC療法 |
薬品名 | |
ドキソルビシン+シスプラチン | パクリタキセル+カルボプラチン |
サイクル | |
ドキソルビシン+シスプラチンを 3週毎6クール | パクリタキセル+カルボプラチンを 3週間6クール |
効果 | |
JGOG2043試験にて確認中 | JGOG2043試験にて確認中 |
主な副作用 | |
心毒性、腎毒性、吐き気、 悪心嘔吐、食欲減退など | 骨髄抑制、脱毛、 手足のしびれなど |
TC療法によって、どの程度改善されるのか、まだ明確ではないが、「リンパ節再発にTC療法を行ったところ、6回の治療で腫瘍が消え、その後2年間再発なく経過している例もあります」と加藤さんは期待を込める。
JGOG(日本臨床腫瘍研究グループ)では、AP療法、TC療法、DP療法(タキソテール+シスプラチン)の3群間の比較試験を計画し、先ごろ登録が完了した。
「生存期間などの結果が出るのは5年後ですが、TC療法がAP療法に勝るか、もしくは同等であるという結果になれば、患者さんにとっても朗報ではないでしょうか」
TC療法の副作用には、骨髄抑制(*)、脱毛、手足のしびれなどがある。「白血球減少がひどい場合は、白血球を増やすG-CSF(*)の注射を使います。吐き気は、抗がん剤の投与前にカイトリル(*)などの制吐剤を用いて軽減します。手足のしびれにはビタミンB12などで対処します。投与開始から2週間ほどで始まる脱毛は、かつらや帽子などでカバーするとよいでしょう」と加藤さんはアドバイスしてくれた。
*シスプラチン=商品名ブリプラチン/ ランダ
*パラプラチン=一般名カルボプラチン
*アドリアシン=一般名塩酸ドキソルビシン
*エンドキサン=一般名シクロホスファミド
*タキソール=一般名パクリタキセル
*タキソテール=一般名ドセタキセル
*骨髄抑制=白血球や血小板等の減少
*G-CSF=一般名フィルグラスチム
*カイトリル=一般名グラニセトロン
同じカテゴリーの最新記事
- ICIとPARP阻害薬の併用療法が日本で初承認 進行・再発子宮体がんの新たな治療が今後も次々と!
- 免疫チェックポイント阻害薬との併用療法で大きく前進 新たな進行期分類が登場した子宮体がんの現在
- 第75回日本産科婦人科学会 報告 ~慈しみの心とすぐれた手技をもって診療に努める(慈心妙手)が今年のテーマ~
- 症例数はまだ少ないが、高齢者や併存症を持つ患者にも対応可能 子宮体がんにおける重粒子線療法の今
- 子宮体がんの最新治療と今後の可能性 免疫チェックポイント阻害薬を用いた治療が本格的にスタート!
- 子宮体がん、子宮頸がんにおけるダヴィンチ手術の現状と今後 子宮体がんがダヴィンチ手術の保険適用に
- 子宮頸がんはアバスチンを加えた3薬剤、子宮体がんではダヴィンチ、卵巣がんには新薬リムパーザが
- 根治性、安全性、低侵襲性実現のために様々な術式を開発、施行 婦人科がん手術の現状
- 子宮体がんの術後補助化学療法で再発を防ぐ