進行別 がん標準治療 基本は子宮を摘出する手術。ハイリスク群には加えて補助療法を
病理診断を元に治療方針が決められる
ところが、残念ながら現在大規模臨床試験による治療法の比較や科学的な評価は、欧米を中心に行われています。そのため、治療方針が異なる日本の現状では、どの治療法が最適なのか、エビデンスが得られにくい状態になっているのです。最近では、欧米でも抗がん剤治療が行われつつありますが、日本で臨床試験を実施し、日本人のための治療法の評価が行われることが望まれています。
もうひとつ、子宮体がん治療の特徴は、基本的に手術による病理診断を元に進行期の分類が行われることです。手術前に行われる検査で、おおよその広がりは推定されますが、卵巣がんと同じように子宮体がんは体の深い部分で広がっていくがんです。実際に手術をしてみるとリンパ節転移が見つかる場合もあります。また、子宮体がんと一口にいっても、細胞の顔つき(組織学的分化度)やがんのタイプ(組織型)によって、その性質は異なり、悪性度も違います。
そこで、こうした点をより正確に把握するために、日本でも1988年以降、手術で組織を摘出して病理診断を行い、病期の診断が行われています。これは、世界共通の方法です。
その結果によって、補助療法を行うかどうかなど術後の治療方針が決められます。
確定診断と術前検査
体がんの8割は類内膜腺がん
細胞診で子宮体がんが疑われた場合、子宮内膜組織診によってがんか否かの確定診断が行われます。すなわち、腟から子宮体部まで管を入れて、組織を採取し、これを顕微鏡で見て(病理診断)がんかどうかを診断します。
このとき、同時にがんのタイプ(組織型)と顔つき(分化度)がわかります。これが、体がんの性格をみるには非常に重要な要素になるのです。杉山さんによると、体がんの8割は類内膜腺がんだといいます。これは、抗がん剤にも放射線にも割合よく反応するがんです。残り2割を、漿液性腺がん、明細胞腺がん、粘液性腺がんなどその他のがんが占めています。これらのがんは血管やリンパ管に食い込みやすく、腹腔内に散らばりやすい(腹膜播種)など、あまりタチがよくないことが知られています。「これだけでも、患者さんにとっては大きなハンディです」と杉山さん。

子宮体部にできたがん

超音波検査で見つかった子宮体がん
子宮体がんの検査で大切な超音波検査。
子宮体がんやその前がん状態では子宮
内膜が厚くなるが、その様子がわかる

類内膜腺がんでも低分化型はタチが悪い
一方、がん細胞は元の細胞(正常な子宮内膜細胞)に近い顔つきをしているほど、タチがよいことがわかっています。これが、組織分化度です。グレード1から3まで3段階に分類されており、グレード1の高分化型が一番元の細胞に近く、3の低分化型は細胞の異型が著しくなっています。その中間が中分化型(グレード2)です。杉山さんによると「同じ1期でも低分化型と高分化型では、予後も違う」といいます。もっとも、1期はほとんどが高分化型で、進行がんになるほど低分化型も増えてくるのです。また類内膜腺がんであっても、低分化型だとタチは悪くなります。
子宮内膜組織診で、子宮体がんと確定した場合は、MRIなどの画像診断でがんの広がりや深さなどが検査されます。「MRIは、好きな断面で画像を撮影できるので、子宮の筋層(子宮壁)にどれくらいがんが食い込んでいるかをみるのに、最も適した検査です」と杉山さん。こうした検査で、おおよそのがんの広がりなどをみて、手術に入ります。
0期 | 子宮内膜異型増殖症 | 子宮内膜に正常細胞とは顔つきの異なった異型細胞が増えている |
---|---|---|
1期 | がんが子宮体部に限局するもの | |
1a期 | 子宮内膜に限局するもの | |
1b期 | 浸潤が子宮筋層1/2以内のもの | |
1c期 | 浸潤が子宮筋層1/2を越えるもの | |
2期 | がんが体部および頸部に及ぶもの | |
2a期 | 頸管腺のみを侵すもの | |
2b期 | 頸部間質浸潤のあるもの | |
3期 | がんが子宮外に広がるが、小骨盤腔を越えていないもの。または所属リンパ節転移のあるもの | |
3a期 | 漿膜ならびに/あるいは付属器を侵す。ならびに/あるいは膜腔細胞診陽性のもの | |
3b期 | 膣転移のあるもの | |
3c期 | 骨盤リンパ節ならびに/あるいは傍大動脈リンパ節転移のあるもの | |
4期 | がんが小骨盤腔を越えているか、明らかに膀胱または腸粘膜を侵すもの | |
4a期 | 膀胱ならびに/あるいは腸粘膜浸潤のあるもの | |
4b期 | 腹腔内ならびに/あるいは鼠径リンパ節転移を含む遠隔転移のあるもの |
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