「イナンナの冥界下り」 第14回

編集●「がんサポート」編集部
発行:2017年9月
更新:2020年2月


貴重な経験をして 最後の点滴は終わった

大事に至らなかったが、パクリタキセルが漏れたあとの腕

最後の点滴予定の3月29日、担当は乳がん友達Mさんの主治医N先生。雑談でMさんの話などしながら血液検査の結果を検討。ほんの少し数値が足りないが、「これが最後だし」ということで、熱が出たら飲む薬の確認と貧血症状が出たときは安静に、と丁寧に指示していただいて点滴OKをもらう。

CT検査の後、いざラストテンテキを開始。化学療法の副作用と言うと自覚症状の強い吐き気や脱毛が気になるところだが、TC療法における重要な副作用のひとつに抗がん薬の血管外漏出がある。

パクリタキセルは漏れると皮膚に及ぼす炎症作用が強く、まれに皮膚移植などの処置が必要になることがある。そのため点滴ではなくいまだ動脈カテーテルで行う病院もあると、さる情報筋から後日聞いた。私はここまで内臓の障害もなく、末梢神経障害も手当てが必要なほどではないし、と安心していた。

だがしかし、高名でも木登りでもないが、あと一歩の油断が禁物とはこのことだ。おそらく細心の注意で監視していたと思われる兼好法師(健康奉仕?)のような看護師さんが薬剤の漏れに気づいた。すぐに先生を呼んで点滴は反対側の腕に刺しなおし、バッテリーポンプで自動的に送られていた薬剤を無理なく自然に落ちるようセットし直した。

処置について先生から説明を受け、腕の血管壁から染み出すように漏れている部分の周りにステロイド剤をプチプチ細かく注射し、塗付用のステロイド軟膏を処方された。大事には至らなかったこんな貴重な経験をして最後の点滴は終わった。もうお世話になることはないのか、また通院することになるのか、今は分からないが、スタッフの皆さんに「今日が最後です」とご挨拶して通院センターを後にした。

これが生え抜きの A級脱毛との違いだ

週末落語会、翌週末友人が工房に訪ねてくれてベーコン作り、次の週はまた落語会と、化学療法が終わればすべて良しみたいに過ごしたかったが、そうは問屋が卸さない。逆に毎週通院するという緊張感がなくなってしまった分、些細な症状も気になって横になって過ごすことが多い。立ちくらみが酷く、手の痺れも残っている。

「柔らかくて気持ちいい」と友達に言われたモテ期到来の遠山さんの頭

4月25日、約1カ月経っての血液検査なのに、貧血、白血球は復調してなく「まだ生ものは控えましょう、���常の食事に戻すのは半月後くらいから」とアドバイスされて腫瘍内科卒業、婦人科S先生に経過観察のため引き継がれる。

CTには残存するものが見受けられるが、腫瘍マーカーCA125は7。

「素晴らしい!」とS先生。

「気をつけることはありますか?」との質問に「とくに何もありません、食べすぎに気をつけて」と言われ、『予後の悪いがんなんだから、今は何も気にせず気楽にやってください』ってことなのか、と穿(うが)った見方もできなくはないが、私はそんなひねくれ者ではないので、ほっと一安心しておく。

この頃になると頭皮に変化が見られる。一時は吸盤の吸い付きさえ受けて立つ構えのツルっとした質感の頭皮だったものが、全体にモヤっと一休さんの頭みたいに毛髪の生えるべき部分が青々してきた。これが生え抜きのA級脱毛との違いだ。(続く)

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