胃がんステージⅣ、余命1年と宣告された男の奇跡の回復の秘密とは タキソテール+TS-1の抗がん薬治療728日から完治への道のり 最終回
良いと思われるものは何でも食べた
常に自分自身に語りかけ、体が何を欲しているのか、何を必要としているのかを理解しながら、何でも良いと思われるものを食べていた。療養中も白米のご飯を主食に、家内が作ってくれた料理を出来るだけ食べるようにしていた。
会社に復帰してからも、ご飯を俵状のおにぎりにして、おかずは卵焼き、鮭などの焼き魚、焼肉等、弁当持参で何でも良く噛んで食べていた。抗がん薬の副作用で舌が荒れて割れ、水さえ沁みる頃は何を食べても味がなく、食べる意欲がなくなりそうであった。
また、吐き気が続くことも数えきれないほどあったが、それでも、吐いては食べ、吐いては食べを繰り返しながらも、「抗がん薬の副作用くらいに負けてたまるか」と、元来の〝勝気〟で、生きるために飲み込むようにしてでも、とにかくよく食べていたことを思い出す。
そして、今になって思うと、このようなつらい食事体験を克服していく中で、徐々にではあるが、体質改善も進み、結果、がんに勝つことが出来たと考えている。
子どもたちも社会人として何とかやっていけるようだったので、気持ちの上でも楽だった。このように何でもプラス思考で療養出来たのも、がんを克服するためには良かったのかもしれない。
免疫力を高める健康食品は、入院当初から服用していた。そして、自分自身にとって良いと思われる新たな健康食品とも出合った。
がんは100%死んでしまう病ではない

この闘病記を書くにあたって伝えたかったことは、私の行ってきた全てのことが、良かったのか悪かったのかは別にしても、がんという病は100%死んでしまう病ではないということ。私以外にも多くの人が必死でこの病と闘い、そして、がんに打ち勝っている現実があるのだということである。
胃がん末期、医師から、「あなたは今、死んでもおかしくないですよ」と言われた頃、「悩んでもどうにもならないことなら、悩むのを止めよ」「前を見よ」このような文面を何かで見たことがあり、何故かこの言葉が心に強く残り、常にこの言葉を噛みしめていた。
また、「いつ命尽きるとも、精一杯生きるのみ」。これは、私の信条でもある。そして、自分自身の闘いであるということ。
がんに対しては多くの情報がある中、要は体力を落とさないように、我慢してでも食べ、前向きな姿勢で立ち向かう気力が大切と思い、良く笑い、適度な運動を出来る範囲で実践することを、今後も続けようと思っている。反面、健康になってくると、最近では弱い自分が顔を出し、「寒い」と言っては散歩を休み、「筋肉痛」と言っては休み、我儘な病が発病(笑)する。
��々の生活に追われながらも、いつの間にか体力も気力も戻っている自分に驚く。闘病生活の経験からか、仕事が出来ることが嬉しく、楽しく感じる。以前の愚図(ぐず)な私には考えられないことである。
医師は、患者の目を見て話しをしてほしい
それにしても思い出されるのは3月11日。 義妹の住む福島県いわき、東日本大震災の出来事。1号原発の爆発により放射能の数値は1年間に浴びる量を1時間に浴びるとの事。余震続く福島を心配しつつも何も出来ないもどかしさ。群馬でもガソリン給油に長蛇の列、私の住む地域も屋根瓦が脱落して割れた家が多数ある。そして計画停電の中、3人目の孫が生まれる。地震で被災し、多くの被害の中の、我が家の喜びを複雑な気持ちで迎え、過ごしていた。
翌年には、息子にも次女が誕生。出産祝い、お宮参り、出産祝い、お宮参り、誕生祝、幼稚園入園etc……。毎年同じようなことが繰り返され、歳月が過ぎていった。
今思うことは、孫のためにも何としても頑張らねばと思う日々に、ふと、私が入院当初の同室の患者さんが言っていた言葉を思い出す。
その方もがん告知を受け、家族にも未だ話してないと言いつつ、私に相談を持ち掛け、「手術を受けたほうが良いでしょうか? 孫が小学校に上がるまでは生きていたい」と……。
私に決められる訳がないが、落ち込む患者さんに、「家族と話し合い、最終的には自分で決めなくては」と話す。「弱気になってはダメだよ。大丈夫、まだまだ頑張れるよ」と応援したこと。
しばらくするとベッドの移動があり、私に向かってその患者さんは「手術を受けることに決めました」と、吹っ切れたように話していた。「頑張って下さい」と握手。10数年過ぎても鮮明に記憶の中に残っている出来事であった。
歳を重ね、がんの経験者だからか、友人、知人たちから相談を受けることが多くある。
気持ちの持ち方や自分で出来る努力、抗がん薬の副作用等、病に負けないようにと説くくらいで、あまり参考にはならないと思うが、皆それでも納得して「元気を貰いました」と喜んでくれる。がん告知から長く元気に生きている私と同じ様に、元気になりたいとの望みを託してのことと思う。
今、2人に1人はがん患者と言われる時代。早く 手術、抗がん薬が進歩し完治患者が増えるのを切に願う一方、医師ともっと身近に話せる雰囲気も必要と思う。
パソコンを眺めて話すより、患者の目を見て話してもらいたいと診察時に感じた。
私はもう定年を迎え、新たなスタートラインに立った。これからの我が人生に、どのようなドラマが訪れるかを楽しみに待ちながら、忙しい日々を送っている。(完)