自分の体は自分で守る!副作用に悩む患者さんの栄養相談を

取材・文●増山育子
発行:2014年3月
更新:2014年6月


手術そして抗がん薬治療へ 仕事があるから頑張れた

イレッサ投与中は、体重、体力も維持できたが、徐々に効果が減弱。11年3月には再びがんが4㎝まで増大したため中止となった。次の治療法は手術か別の抗がん薬治療だ。

「外科の先生は、完全に取りきれるかどうかはわからないとはっきりおっしゃいましたが、私は75歳だけど幸い手術ができるのだから切れるところまで切ってくださいと申しました」

そんな覚悟で受けた左上葉切除術。しかし、がんを完全に切除することはできなかった。

予防栄養学について講演する斉岡さん

同年5月20日、75歳の誕生日からパラプラチンとタキソール、アバスチンの3種類を使った抗がん薬治療が開始されると、イレッサのときにはなかった脱毛や味覚障害など副作用の出現にショックを受けた。便秘・下痢はサプリメントで乗り切った実感があるが、深刻だったのは脱毛。治療中も栄養をテーマにしたセミナーで講師の仕事を続けていた斉岡さんは、ウィッグをつけて出かけた。

「脱毛は切ないですね。講演がある日と副作用の出現時期とが重ならないよう難波先生が投与スケジュールを調整してくれたので、本当に助かりました」

斉岡さんにとって仕事は生きがい。「栄養相談室ララファミリー」というのは、来た人が「ラララ~」と弾んだ気持ちになれるように、また、ここを訪れた人はみんな家族という意味を込めて名づけたという。

斉岡さんの手元には栄養指導を通してアトピー性皮膚炎が改善したお子さんの写真や、感謝の言葉を綴った手紙がたくさんある。

「頼られていると思うと頑張れます。私の闘病は、体はサプリメント、心は家族と友人知人やスタッフ、そして相談してきてくれる人たちの存在が支えてくれているように思います」

入院中も起床したらパジャマから服に着替え、散歩など体をこまめに動かすよう心がけ、病室にいながら電話とファックスでスタッフに指示を出し、患者さんから相談が入れば自ら返事をした。

「『心はがん細胞に侵されてはいないんだよ』と、向上心を失わないように優しく強く支えてくれた夫のおかげです。脳転移も防いで、『絶対復帰する!』という気持ちでした」

3剤の併用療法を完遂した後はアバスチン単独投与による維持療法へと続き、約2㎝のがん細胞と共存。アバスチンの効果が落ちてくるとTS-1 へスイッチ。次々に薬を変え、治療は続いた。

パラプラチン=一般名カルボプラチン タキソール=一般名パクリタキセル アバスチン=一般名ベバシズマブ TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム

がんワクチンの治験に参加 主治医の進言で次の治療へ

しかし、TS-1は肝機能低下をきたし2クールで中止となった��次の手として斉岡さんが考えたのは、がんワクチンだ。

自分で調べ、臨床試験を実施している滋賀医科大学附属病院に問い合わせ、治験に参加できることを確認したうえ、主治医の難波さんに相談。難波さんは「効果は不明だが、やるというのなら」と斉岡さんのデータを同院へ送ってくれた。

そして13年1月から毎週木曜日、大阪の自宅から同院まで往復4時間かけて通い、ワクチンを打った。しかし、翌月もまた翌々月も腫瘍マーカー値は上昇し続け、斉岡さんは不安を募らせていく。

「『咳も出てきたので、大丈夫でしょうか』と治験担当の先生に尋ねたら、『もうちょっとやってみたら効くかもしれません』と言われ、咳止めが処方されるだけ。肺がんが見つかったときも咳だったから、もう不安で不安で……」

7月に難波さんから「前月の画像と比べると著変なしですが、開始時と比べたら大きくなっているし、マーカーの数値から診ても次の治療に移ることを考えてはどうでしょうか」と言われた。

斉岡さんは悩んだ。というのも、7月まで上がり続けていたマーカー値が8月に横ばいになったのだ。効き始めるのが遅かったが、これから効き出すのかもしれない。もしかするとぐっと下がるかもしれない……。

「滋賀医大では治験終了まで続けるのも選択の1つと言われたのですが、難波先生がアリムタを使って効かなかったらイレッサに戻るという治療方法を提示してくれました。マーカー値は9月も横ばいだったので、ワクチンを止める決心がつきました」

ワクチンを止めて13年10月から始めたアリムタは、初回の2~3日後に咳がましになり、その後ピタリといっていいほど止まった。「アリムタ投与時に葉酸とビタミンB12を注射しましたが、これらは日々サプリメントでも補っていて、今のところ副作用も少なく順調です」

アリムタ=一般名ペメトレキセドナトリウム水和物

電話相談を開設、言葉のサプリメントを届けたい

斉岡さんはあるとき「がんの宣告を受ける2週間前にロンドン・オランダへ行ったが、もう海外へ行くことはできないだろう、あちらの空気を吸いたい」と難波さんに話したことがある。

「すると『行けるよ、1カ月は無理だけど2~3週間は大丈夫』と。この言葉を聞いたときは本当に嬉しかった。一生行けないのと行こうと思えば行けるという違い。パーンと心が弾けました!まさに言葉のサプリメントです。心に作用する栄養を学んだ気がします」

相談活動をライフワークにしている斉岡さんは、これからつらい副作用に悩むがん闘病中の人たちからの食事栄養相談を受けたいと思っている。

「『私は私が食べた物で、できている』という諺から考えても、栄養となる食べ物の積み重ねが元気の源だと思います。抗がん薬治療を受けたときの心身の変化は、経験者の1人としてわかると思います。気軽に話ができたらいいなと考えています」

お孫さんたちと。
「子や3人の孫たちのさりげない援助に、心が温まり幸せを感じる」

斉岡さんが上梓した『勝つためのトレーニングと栄養』(せせらぎ出版・2004年)岸田昌章さん(スポーツトレーナー)と共著

「栄養相談室ララファミリー」
 HP:http://www.fsinet.or.jp/~lalafami/ TEL:06-6771-8662 FAX:06-6779-6307
斉岡明子の「副作用に負けないための栄養食事相談ルーム」
 月・金(10~15時)TEL:06-6878-1537 火(13~16時)TEL:06-6771-8662
 E-mail:saioka@outlook.jp
栄養の泉ルルドケア
 TEL:06-6339-9795

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