絶対によくなるんだと信じて 気楽に生きていくことが大切
妻の死後、今度は自分が直腸がんに
坂田さんが下血を経験したのは、10年の夏のことだ。市販の痔の薬をつけてみたが、出血は止まらない。翌11年5月、トイレの便器が真っ赤になるほど大量に出血した。あわてて近くのクリニックに駆け込み、内視鏡検査を受けると、直腸に3㎝の腫瘍が見つかった。
紹介状と検査結果を持参して市立病院に行くと、医師はあっさりとこう言った。「ああ、がんだね」。
瞬間、亡き妻のことが頭をよぎった。「先生、がんにも悪性とか良性というのはあるんでしょうか」「いや、がんにはそんなものはありません」
再検査の結果は、ステージ2もしくは3の直腸がん。母に続いて父まで、がんを宣告されたことが、よほどショックだったのだろう。病院で一緒に告知を聞いた娘さんは、ポロポロと涙を流した。
「僕自身は、『手術すれば絶対に治る』と信じていました。病気が進行すれば、自分の体も変化していくはず。朝、目が覚めたときに、『俺は大丈夫だ』という感覚があったんです」
術前化学療法を行い、直腸を全摘

主治医によれば、坂田さんのようなケースでは、術前化学療法で腫瘍を小さくしてから手術をするのが一般的だという。主治医の説明に坂田さんは納得し、3カ月間のXELOX療法が始まった。
これは経口薬*ゼローダと点滴薬の*エルプラットを組み合わせる方法で、治療が始まると、さまざまな副作用が表れた。まず食欲がなくなり、排便が不規則になる。手足のしびれがひどいため、冷たいものに触るときは手袋をしなければならなかった。
9月中旬、手術を実施。病理検査の結果、転移はないことが判明した。幸い人工肛門は免れたが、直腸を全摘したため排便を調節する機能が失われた。おしめが手放せなくなり、外出もままならない日々が続いた。
「先生、これからどうなるんですか」「人間の体というのは不思議なもので、直腸をとっても、自然に腸の形が変わって、直腸の役目を果たすようになります。もう少しの辛抱ですよ」
術後2年が経過し、以前よりは排便の調節もできるようになったが、今も大腸の蠕動運動が起こるたびに、トイレに駆け込む日々が続いている。「おかげで、コンビニや病院のトイレ事情に詳しくなりましたね」
退院後は仕事に復帰し、体を動かしながらリハビリを実施。体重も3㎏増え、今ではすっかり元気を取り戻した。今も定期的に経過観察を行っているが、腫瘍マーカーは正常値を維持しているという。
*ゼローダ=一般名カペシタビン *エルプラット=一般名オキサリプラチン
潜在意識を活用して がんを乗り越える
発病を機に、食事を根本から見直したという坂田さん。肉食���避け、朝のヨーグルトを欠かさず、ブロッコリーなどの野菜を多めにとるようにした。そして、「自分の体をよくするにはどうしたらいいか」と考え、最後にたどり着いたのが「潜在意識の活用」だった。
ジョセフ・マーフィーは、「潜在意識の偉大な力を活用すれば、奇跡は必ず現実になる」と説いている。その考え方が、幼い頃にふれた宗教の教えや、役者時代の経験と結びついたのだ。
「僕の母は新興宗教に入っていて、僕も小6まではお言葉を唱えさせられました。神は自分の中にいて、自分は神に生かされている。神に感謝すれば、すべてがよくなると教えられたのです。また、役者時代には、役になりきるための自己暗示を学びました。舞台の本番前に風邪で熱を出しても、『絶対に熱は下がる』と自分に言い聞かせると、熱がスーっと下がっていった。それを思い出し、『絶対に治る』と念じて、自分の細胞に言い聞かせたんです」
それは、イメージの力を利用した一種のメンタルトレーニングだった。宗教、セルフコントロール法、そしてマーフィーの「潜在意識の法則」――それまでの人生で学んだ知識と経験を総動員して、坂田さんは病気に立ち向かった。こうして培ったポジティブ・マインドが、闘病の大きな支えとなったことはいうまでもない。
「若いころに好きだった音楽を聴いたり、恋をしたりすることも効果があるんです。北原謙二や神戸一郎などの歌を聴くと、細胞が活性化される感じがしますね」と、坂田さん。
いずれまた、舞台の台本を書いて芝居をやりたい、と抱負を語る坂田さん。
現在の心境をこう語ってくれた。
「がんを経験して思うのは、年齢とともに人間の体が劣化するのは避けようがありません。そんな中で身の周りにいろんな問題が生じ、心配事も起きるでしょう。そんな時、私は自分の潜在意識にきっと良くなる絶対よくなると言い聞かせるのです。そう信じて気楽に生きていくことが、自分から病を遠ざける唯一の方法だと思っています。この事は常々子供たちにも言っています。子供たちも少しは分かってくれていると思います」
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