若き美容師が骨巨細胞腫になって気づかされたこと 訪問美容を日本の新しい文化に

取材・文●髙橋良典
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2019年7月
更新:2020年3月


巣鴨地蔵通りにコミュニティサロンをオープン

元の職場に復帰して2年間勤めたのち、小池さんは訪問美容の道に進むため独立した。

しかし、小池さんが当初考えているほど訪問美容の経営は甘くはなかった。

2年間、個人で訪問美容を行なっていたが、しっかりとした経営を勉強しなくてはいけないと気づき、ビジネススクールに通い始めた。そこの学長だった中村大作さんと知り合い、一緒に株式会社「社会起業家パートナーズ」を立ち上げた。中村さんが代表取締役社長、小池さんは美容事業の責任者として取締役に就任し、再スタートした。

それは社会起業家を育成していくことを目的とした会社で、その第1号案件として小池さんが代表を務める「と和」を、美容部門として立ち上げたのである。

「と和」というネーミングには「永遠(とわ)に美しく お客様と美容をつなぐ和みの時間を過ごしていただく」という小池さんの思いが託されている。

再スタートする前は、訪問美容が主だったが、訪問先で「お店を持ってないの」と度々、質問を受けることが多かったという。最初は何故だろうと思ってお客さんに尋ねると、「元気になったら外に出て美容室に行きたいのよ」と言われたのだった。

「それまでは自分の経験から、訪問することに主眼を置いていたのですが、私も社会復帰を果たして活躍したいと思うように、お客さまも元気になったら外に出て『美容室に行きたいんだなぁ』と気づいて、車椅子でも入れる美容室、だれの目も気にせず美容を楽しめる個室のあるお店をつくることに決めました」

そして「コミュニティサロン と和」は、巣鴨の地蔵通り商店街の一角に2014年オープンした。

「と和」のスタッフと

サロンの個室

子ども用のコーナー

祖母の一言で美容師に

小池さんが美容師になるきっかけをくれた祖母

小池さんが美容師を目指すきっかけになったのは、近所に住む母方の祖母の影響が大きかった。

「おばあちゃん子」だった小池さんは、母方の祖母の家に���く遊びに行っていた。その祖母は脱毛症に罹っていて、いつもかつらを被っていた。だからかつらを取った姿を誰にも見せたくないと美容院にも行かず、自分で少ない髪を切っていたという。もちろん小池さんも、かつらを取った祖母を見たことがなかった。

そんな祖母がある日、こう呟いた。

「孫の誰かが美容師さんになってくれたら、私の髪の毛を切ってもらえるのにね」

それを聞いた小池さんは、祖母のためにも美容師になることを決心し、東京の美容学校に進学することを報告に祖母に会いに行ったときのことだった。

祖母は小池さんを自分の部屋に呼ぶと、おもむろにかつらを取って、いままで誰にも見せたことがなかった頭を見せた。

「私のように美容室に行きたくても行けない人の気持ちがわかる美容師になってね」

小池さんは、いつもの祖母とあまりにも違う姿に、髪の毛があるかないかでこうも変わるものかと改めて思い知らされた。

「そんなおばあちゃんの姿を見て、おばあちゃんのような人の役に立つような美容師になりたいと心に誓いました」

祖母の思いもあり、小池さんは美容師になって6年目で店長を任されるまでになっていた。

「それまで大変なことやつらいことがあったアシスタント時代でも、祖母の言葉を思い出して辞められませんでしたね」

祖母の髪の毛をカットする約束は小池さんが群馬に帰省するたびに果たし、感謝の気持ちも込め毎年1回は新しいウィッグを買ってプレゼントした。

その祖母が巣鴨にお店をオープンさせる2~3日前に、肺がんで亡くなった。

「私が美容師になったことをすごく喜んでくれていました。『おばあちゃんが私に話してくれたことで、こんなお店を出せるようになったよ』と伝えることだけは出来ました」

人の気持ちに寄り添うことができるようになったことに感謝

お店をオープンさせて、小池さんはいろんなことに改めて気づかされたという。

「以前勤めていた美容室では、車椅子のお客さんは一度も来店されたことはありませんでした。それと小さい子どもさんのいるお母さんは美容室に行きにくいのです。子どもを預けるにしても預けるところがなかなか見つからない。

それに抗がん薬治療をしている方のウィッグのカットは一般の美容室だと周りの目が気になって脱着するのが難しく、ウィッグのカットを断られるというお客さんが多いのいです。その点、ここは個室でカットするので誰に気兼ねすることもいりません。元気なときにはお店に来てもらって、そうでないときには訪問する、そんな環境をつくることがいまは大切だなと思っています」

最後に自身の病気についてこう語ってくれた。

「骨巨細胞腫は再発のリスクの高い病気なので年に1回の検診は欠かさないようにしています。それと足を触っておかしくないかは常に確認しています。再発のことは気にはしつつうまく付き合っていくしかないかなと思っています。

ただ、今になっては、この病気になって良かったと思っています。そうでなければ気づかなかったことや気づけなかったことがたくさんあります。それこそ訪問美容もそうですし、ウィッグのカット、車椅子の方の気持ちに少しでも寄り添うことができるようになったのは、人としていい人生経験になったな、と思っています。

一度、救われた命ですのでその分、人のお役に立てるよう一生懸命に生きなければいけないと思っています。〝働く〟とは、傍らの人を楽にすること。これからも困っている人のために働いていきます。訪問美容が日本の新しい文化になるために」

「と和」では、訪問美容やコミュニティサロンで働く美容師を募集しています。美容業界の労働環境を改善した好事例として、東京ライフ・ワーク・バランス認定企業にも選出。美容業としては初めての認定となり、小池百合子東京都知事から表彰を受けています。

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