自分の医者体験から標準治療を拒んでいたが…… 今後は再発防止や予防医学を代替療法で

取材・文●髙橋良典
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2020年7月
更新:2020年7月


両方の乳房を失った傷は深いが

結果、星子さんの両胸の乳がんは浸潤がんで左右両方とも原発で、しかもリンパ節にも転移していてステージⅡbだった。

星子さんは乳房全摘手術したことについてこう述懐する。

「今でも私は手術しなければ良かった、手術しないでどこまで行けたかな、と思ってはいます。両方の乳房を失った心の傷は深いですよ。経験した人でないとわからないと思いますが……。ですから、左右の乳房を喪失した経験ができたことは、乳がんで手術する患者さんの気持ちが多少なりともわかるようになり、医師としての財産になったと思います」

全摘した後は手が曲がらないなどの後遺症があり、内視鏡カメラを持つことも出来ず、このまま医師は続けられないかも知れないと思ったりもした。そんな星子さんがリハビリを懸命にすることで、半年後、なんとか手は動くようになった。

乳がんに罹ったのには理由がある

ゲルソン先生の孫と(2006年9月)

「がんは生活習慣病だと考えています」と語る星子さん

術後は自身の信念に従い、再発予防のための抗がん薬治療や放射線治療は一切、拒否し、食事療法の1つであるゲルソン療法を取り入れた食事療法を試みた。

最初の3カ月間ゲルソン療法を徹底的にやっているうちに、体重が落ちふらふらして体調がむしろ悪くなっていった。

「それで、本来ゲルソン療法は欧米人のもので、真似したほうがいいところと日本人には向いていないところがある食事療法だと気づきました。そこで、私なりにいろいろ工夫して、改良した食事療法を取り入れて実践しました。あと、ビタミンC点滴療法や温熱療法などをもやってみました」

そもそも星子さんが乳がんに罹ったのには理由があるという。

「がんに罹るには、それなりの原因があります。わたしの場合は、諸々のストレスがあったことで夜、眠ることができませんでした。主人と別居して、息子と2人で暮らし始めてからやっとぐっすり眠れるようになりました。乳がんになる前は自分でも気づいてなかったのですが、別居してみてこんなにもストレスになっていたのかと気づかされました。

もう1つの原因は食事にあったと思っています。食事にはかなり気をつけていたつもりですが、食品添加物の入った食品などを無自覚に摂っていましたし、乳がんに関係があるとされる牛乳やチーズなども好きだったこともあると思います。ですから、そういった食べ物を食べるのを止めました」

「がんは生活習慣病だと考えています。ストレスは免疫低下の最大の原因��す。ですから一度切って治るというものではなく、がんに罹る前と同じ生活習慣を続けていれば、再びがんに罹るリスクがあるのです」

ゲルソン療法=ドイツの医学博士マックス・ゲルソンが開発した食事療法で、がんの原因となる食品を排除し、自然の食物のもつ栄養素をバランスよく摂取することにより本来人間の持っている自然治癒力を高め病気を治す食事療法

腸こそ人体最大の免疫器官

「腸内環境を整えることはとても大切なことです」

さて今回、『腸だけのことを考える』を上梓されたが、詳しくは著書を読んでいただくとして、内容を簡単に解説してもらおう。

「もともとがんはもちろん、病気にならないためには免疫能を高めることが大事だと考えていました。そもそも生物の発生は腸からで、自分も乳がんに罹ったときには、家の中のストレスで食事もろくにできず便秘で、腸内が汚れていると思っていました。がんになった時期は毎日悲嘆にくれて、家の中のストレスでうつ状態になっていました。それで腸のことを勉強していくうちに、腸内をきれいにすることで性格も変わるということもわかってきました」

「腸こそ、『人体最大の免疫器官』なのです。人間の免疫細胞の60~70%は腸に集中していると言われ、体内に入ってきたものが食べ物かどうかを判断するだけでなく、それらが安全か危険かを見極め、危険なものを排除してくれているのです。これを『腸管免疫』と言います」

「免疫システムの基本は『自己』と『非自己』を見分けることにあります。『非自己』を排除するのが免疫システムの仕事です。

では、食べ物はどうなのでしょうか。腸管には食べ物、栄養に対して免疫反応を起こさないような仕組みが備わっており、体にとって有害なものと必要なものを見分けているのです。この仕組みは腸だけに備わった特殊能力で『免疫寛容』と言います」

「ですから腸内環境を整えることはとても大切なことです。では、腸内環境を整えるとはどういうことでしょうか。

大腸内に住む細菌の数は、最近の研究では500兆~1,000兆個存在していると考えられています。そしてその3/4は土壌菌や皮膚常在菌などの身近にいる菌です。

それらは所謂(いわゆる)、善玉菌、悪玉菌、日和見菌の3種類に分けられます。それらが2:1:7の割合でバランスよく整っていれば病気にもならず過ごせますが、悪玉菌を増やす食事を摂ることやストレスなどが腸内環境を悪化させ、さまざまな病気の原因を作っているのです。

昔と今の日本人の食事を比べてみると、肉や乳製品を多く食べるようになった反面、腸の働きにとってかかせない食物繊維を多く含む食材の消費量が減っているのです」

「ここで食物繊維のお話です。食物繊維には水溶性と不溶性の2種類に大別されます。

水溶性の食物繊維は昆布やワカメなどの海藻類、こんにゃくやイモ類などに多く含まれています。腸内細菌は水溶性の食物繊維を好みます。

また、不溶性の食物繊維は水に溶けにくく、消化、吸収されにくいため、腸内細菌の死骸などの不要なものを抱え込んで便として排出します。タケノコやゴボウ、豆類、キノコ類、玄米などの繊維質の多そうな食品に多く含まれています。これら食物繊維を豊富に含んだ食べ物を摂ることが、腸内をきれいにすることになるのです」

自分が信じる医療をやりたい、とクリニックを開設

最後に、がんにならないための予防について訊いてみた。

「まず、食べる物で体が出来ていることを知って、毎日の食事をちゃんとしたものを摂っているかということです。ちゃんとした食事というのは農薬や食品添加物が入っていない食べ物ということです。あとは、ジャンクフードと言われるものは出来るだけ食べない。それと良質な睡眠も大事です。睡眠は体のデトックスやメンテナンスを行うための大切な時間です。良い眠りを取るためには朝日を浴びることが大切です。朝日を浴びることで、心身を安定させるセロトニンが分泌されます。そのセロトニンは、約15時間後には睡眠ホルモンのメラトニンに転換され、ぐっすり眠れるようになるのです。それと適度な運動です。あとはストレスを溜め込まないことです。それには思いやりの心と感謝の気持ちを持つことが最高のストレス対策になります」

そう話す星子さんは「自分が信じる医療をやりたい、保険診療すれば薬を出さなければいけない」と保険医を辞退し、6年前に品川に「自分が病気になった理由を考え、それに気づかなければ根本的な治癒には繋がらない」と、「病気の治療はもちろん、病気にならない体づくり『予防医学』『メンタルケア』」を取り入れた自由診療の星子クリニックを開業した。

星子クリニックの院長挨拶の末尾にはこう綴られている。「心も体も癒され元気になれる。そのような場所を提供し続けたいと思います」

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