直腸がん手術から10年 その後も次々と襲いかかる病いを笑い飛ばして生きる坂田流人生術

取材・文●髙橋良典
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2021年6月
更新:2021年6月


もっぱらの楽しみは天地真理の歌を歌うこと

息子や娘が結婚して家を出たことで、坂田さんがひとり暮らしになって2年になる。

タバコはもともと吸っていなかったが、直腸がんになってからは酒も止めた。

酒もタバコもやらない坂田さんのもっぱらの楽しみは、天地真理の歌を聴き、歌うことだという。

「若い頃は特別、天地真理のファンではなかったのですが、あるとき彼女のファンクラブがあることをネットで知って、知り合いになりたいと思うスケベ心もあって入会の手続きをしました(笑い)。なんせ私の若い頃のスターだからね」

ファンクラブに入会の手続きを取った坂田さん。2018年3月、73歳のときだった。

「天地真理の歌は2~3曲ぐらい知っていましたが、入会して改めて天地真理の歌を聴いてみると、あまりの声の良さと歌のうまさにビックリしましたね。何より彼女の歌声が自分の体のなかにスッーと入ってきて浄化されていくのがわかるんです。それに笑顔の彼女を見てると、自然に笑みがこぼれてくるんです。孫ももちろん可愛いですが、彼女もまた、いまの僕のエネルギー源といっても言い過ぎではないですね」と熱く語る。

ファンクラブの会合は定期的に開かれ、毎回それには進んで参加しているという。

その集まりに天地真理本人が来ることはないのに、だ。

「本人が出て来るのは彼女の誕生日の集まりだけです。それ以外の集まりではスクリーンに映る若き日の彼女が歌うのに合わせて、みんなして合唱します。それがまた楽しいんですよ。参加者ですか? みんな昔のファンだから若くても50代ぐらい。あとは60代、70代の男性と10%近くの女性ですね」

今、コロナ禍でファンクラブの会合は中断しているので、もっぱら自宅で歌っている。

1975年5月青少年オリンピックセンターで演出中の坂田さん

居間の襖には天地真理のポスターがたくさん貼られている

毎朝、自分の細胞に「私の体は大丈夫なんだ!」と言い聞かせる

毎朝「私の体は大丈夫なんだ!」と自分の体の細胞に言い聞かせている

坂田さんは76歳になったいまも現役で、毎朝出勤する前、小学生時代に校庭を元気に走り回ったことや、中学・高校時代にバレーボールに汗を流していた頃などを頭に浮かべ「私の体は大丈夫なんだ! 大丈夫なんだ!」と自分の体の細胞に言い聞かせているという。

天地真理や己の青春時代を熱く語る坂田��んの話を聞いていてアメリカの実業家で詩人のサミュエル・ウルマン(1840-1924)の有名な『青春』という詩にピッタリだと思えてきた。それはこういう詩である。

「青春とは人生のある期間ではなく、心の持ち方を言う。薔薇の面差し、紅の唇、しなやかな手足ではなく、たくましい意志、ゆたかな想像力、炎(も)える情熱をさす。青春とは人生の深い泉の清新さをいう。

青春とは臆病さを退ける勇気、安きにつく気持を振り捨てる冒険心を意味する。ときには、20歳の青年よりも60歳の人に青春がある。年を重ねただけで人は老いない。理想を失うとき初めて老いる。

歳月は皮膚にしわを増すが、熱情を失えば心はしぼむ。苦悩・恐怖・失望により気力は地に這(は)い精神は芥(あくた)になる。60歳であろうと16歳であろうと人の胸には、驚異に魅かれる心、おさな児のような未知への探求心、人生への興味の歓喜がある。君にも吾にも見えざる駅逓(えきてい)が心にある。人から神から美・希望・よろこび・勇気・力の霊感を受ける限り君は若い。

霊感が絶え、精神が皮肉の雪におおわれ、悲嘆の氷にとざされるとき、20歳であろうと人は老いる。頭(こうべ)を高く上げ希望の波をとらえる限り、80歳であろうと人は青春にして已(や)む」(作山宗久 訳)

若くして膵がんで妻に先立たれ、自身も直腸がんに侵された後も次々に襲い掛かる病いをも、ものともせず明るく笑い飛ばして生きる坂田さんの生き方に学ぶことは多い。

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