ヨガが死への恐怖や悲しみから自分を守ってくれた 子宮頸がんステージⅢBが重粒子線治療で完治
5週間の治療でがんが消えた

ところで肝心の重粒子線治療はどうだったのだろうか。
「最初の診察のときに主治医から1週間に4日、5週間で20回照射すると言われました」
1回の治療時間は照射する場所を決めるなどの時間が15~20分程度、照射時間は1~2分程度と治療時間は短い。
副作用もほとんどないが、患部を狙って照射しているというものの子宮の周りは腸が取り囲んでいるので、多少は腸にも重粒子線が当たって、大腸の粘膜が傷つき、それによる出血が現在でもあるという。
「ただ痛みを伴っていないので出血を抑える薬を飲んでいます。それと腎機能が少し落ちましたが、日常生活に差し障りがあるほどではないですね」
腎機能の低下は、シスプラチンの副作用が考えられる。
重粒子線治療が奏功し5週間後にはがん細胞は消滅し、吉川さんは無事退院することができた。退院後、重粒子線治療を勧めてくれた静岡がんセンターの医師に治療経過の報告に行き、QST病院で撮影した患部のCT画像を見せた。CT画像を見た医師は本当に驚き「これは凄い」と喜んでくれた。
吉川さんは現在3カ月に1度、静岡がんセンターとQST病院の両方で定期検診を受けている。現在まで再発転移はない。
自分の不安を救ってくれたヨガ

がんの再発・転移も不安材料だが、吉川さんには、それ以外に2つ、頭の痛いことがある。1つは今年の4月からACC交流学園という日本語学校の校長に就任したのだが、新型コロナ禍のせいで学生がまったく入って来なくなり、なんでこんなときに校長に就任したのかと頭が痛くなるという。
他方、重粒子線治療のおかげで子宮頸がんが完治した吉川さんはこうも思っている。
「がんが消えたのは先進医療である重粒子線治療のおかげであることは十分認めますが、私はそれだけではないと確信しています。それはヨガの呼吸法や自分の内側に意識を向けることで、自分に押し寄せてくる死への恐怖や悲しみから自分を守ってくれたのではないかと思うのです。
がんと宣告されれば誰しもそのショックで免疫力も低下し、がんの進行を早めるのではないでしょうか。そんな自分に対してヨガがあったことが自分を助けてくれたのだと思っています。ヨガをすることで、免疫力の低下を防ぎ、がんの進行を鈍化させたのではないかと考えています。不安な気持ちにならなかったのは、ヨガを学ぶことで自分の内面を見つめることを知っていたからだと思います」
現在もヨガのレッスンに週4~5回は通っている。
「自分はいつ再発・転移に襲われることがあるかも知れないという恐怖は常にありますが、『私にはヨガがあるから大丈夫、大丈夫』と言い聞かせています。機会があれば私の体験を踏まえて、がんと闘っている患者さんや「がんサバイバー」にヨガを勧めていきたいと思っています。ところが、私の周りの人に、『ヨガはいいので一緒にやりませんか』と勧めるのですが、ヨガの敷居が高いのか……、始めた人がほとんどいないんですね」
これが、吉川さんが頭を痛めているもう1つのことでもある。
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