6年がかりで発見された前立腺がん。ホルモン療法と食事療法で立ち向かう 「もう手術しても治りません」と言われた病期D1の前立腺がんと闘う

取材・文:江口敏
発行:2008年2月
更新:2013年8月

ホルモン療法が劇的に効き PSA値は0.01に下がる

ホルモン療法の効果はてきめんだった。PSA値は5月には13.1、6月には1.07へと、急激に下がった。ホルモン療法開始から3カ月経った7月にMRI検査をすると、前立腺表面のがんはかなり小さくなり、膀胱に入り込んでいた前立腺腫瘍も半分に縮小していた。9月にはPSA値は0.07になり、主治医は「がんの勢いが弱っています。がん細胞が生きているのか、死んでいるのか、わからない状態です。こういう場合、全部死んでいるケースと、一部生きているケースがあります。とにかくホルモン療法がよく効いています」と説明した。

ホルモン療法開始から約1年後の平成16年3月、人間ドックを受けると、PSA値は測定限界値の0.01まで下がっており、人間ドックの担当医から「がんは治ったと思われます」と言われた。しかし、泌尿器科の主治医は「PSA値が0.01まで下がっても、三谷さんのがんは一生治ることはありません。ホルモン療法を最後まで続ける必要があります」と断言した。

その後もホルモン療法を続け、PSA値は0.01を維持していた。しかし、その間、三谷さんは激しいホットフラッシュに悩まされた。また医療費は保険適用でも3カ月毎に6万円を超えた。三谷さんは万が一のことを考えて、40歳代から発売されたばかりのがん保険を掛けてきていたが、「手術・4日以上の入院」の条件を満たしていないために、保険金は下りない不条理を味わい、医療費が家計を圧迫する心配も出てきた。さらに、ホルモン療法を続けていると、ホルモン療法の効き目が悪くなり、またPSA値が上昇することも予想された。

平成17年4月、PSA値は0.01で安定し、体調も良好なことから、三谷さんは主治医の反対を押し切って、ホルモン療法の中止を決めた。PSA値が再び上がり始めたら、またホルモン療法を再開するという、間欠療法に切り替えたのである。

その後、PSA値が11.10まで上がった平成18年4月にホルモン療法再開。0.03まで下がった同年9月に中止、15.63まで上がった平成19年6月にまた再開、0.03まで下がった同年12月初旬に中止して現在に至っている。

[PSA(前立腺特異抗原)値の推移(’97.03~’07.10)]
図:PSA(前立腺特異抗原)値の推移(’97.03~’07.10)
164まであったPSA値はホルモン療法の結果2カ月で1.07に
[PSA値の推移(’03.05~’07.10)]
図:PSA値の推移(’03.05~’07.10)

闘病生活を始めてからむしろ忙しくなった

写真:山登りも苦にならない三谷さん
山登りも苦にならない三谷さん(左端)
写真:キャンバスに向い絵筆を走らせる時間は至福の時
キャンバスに向い絵筆を走らせる時間は至福の時

現在の三谷さんは、がん闘病中の人とはとても思えない、元気な日々を送っている。仕事からは完全にリタイアしたが、現在のほうが忙しいと言う。週に2~3回、近所の碁会所へ顔を出し、2~3時間、碁を楽しんでいる。昔から趣味だったカメラは、がんになってからは、散歩や山歩きの途中で目にする花や植物などを、デジタルカメラに収めるようになった。自分の中で何かが変わり、自然のいのちに目を向けるようになったのだと言う。

散歩は毎日2回、30~60分、印旛沼周辺の林、川、沼の季節の移ろいを楽しみながら歩いている。さらに、昔の運輸省の仲間たちとのゴルフ、山歩きを平均月に1回ずつ。山歩きは日帰りで、朝早く出発し、暗くなってから帰宅する。山歩きのリーダーは80歳の人で、三谷さんは必死について行く。この取材は金曜日に行ったが、三谷さんは「明日も山歩きです」と嬉しそうだった。

ちなみにかつての仕事仲間は、三谷さんが長期入院も手術もしたわけではなく、役人時代よりむしろ元気なために、三谷さんががんと闘っていることに気づいていない人も多い。

がんに罹ってから「初めての絵画教室」に通い、油絵も始めた。日当たりの良い自宅のリビングルームにイーゼルを立て一心に絵筆を走らせる時間は、三谷さんにとって至福の時である。シルバー人材センターに登録し、パソコンの家庭教師も行っている。昔からラジオの組み立てなど機械いじりが好きだったが、それが今、パソコンにも活かされている。パソコンの組み立てから、パソコンの修理、ワード、エクセルの使い方まで、パソコン初心者に懇切丁寧に教えている。

三谷さん自身、デジタルカメラの写真をパソコンで画像処理するなどお手のもので、ホームページでは詳細な「前立腺がん体験記」を公開している。

また、NPO法人「ガンの患者学研究所」のメンバーにもなり、がんと闘っている人たちとの情報交換も行っている。「私自身がインターネットや雑誌や本などを読み、前立腺がんの患者さんのさまざまな情報や体験記から、多くのことを学び、勇気づけられてきました。ですから、私もできるだけ自分の体験を公開し、参考にしてもらえればと思います」と、三谷さんは言う。

食事療法を実践し 玄米菜食、豆類を

写真:碁仲間との対局も楽しみの1つ
碁仲間との対局も楽しみの1つ
写真:取材の翌日も仲間と山へ
取材の翌日も仲間と山へ

三谷さんが偉いのは、がんに負けず日常生活を充実したものにする努力をしていることもさることながら、ホルモン療法を行いながら、がんを克服するために、自分でできるありとあらゆる療法にチャレンジしてきたことだ。

石垣島にいる長女が送ってくれたマクロビオテック料理の本を読んで、真剣に食事療法の料理法を勉強し、食事療法を実践している。石垣島産のもずくや、秋ウコンを試したのをはじめ、白米のご飯を止め玄米菜食に切り替えた。また、肉、牛乳、卵、天ぷらなど脂肪分の多い食物を止め、塩分は控え目に、甘いものも避けるようにした。野菜をたくさん摂り、大豆、豆乳、納豆、豆腐など豆類を積極的に摂った。最近は体調も良く、食欲も旺盛で、むしろ太りすぎに注意しているとのこと。

ゲルソンがん食事療法を参考に、りんご、ジャガイモ、レモン、キャベツ、小松菜などを加えた人参ジュースも毎日飲んだ。健康食品として、アガリクス、ウコン、フコイダン、スーパービール酵母を毎日飲み、サメの軟骨、プロポリス、いちょうの葉茶なども一時試した。

そうした食事療法のほか、副交感神経を高め、免疫力を上げるため、爪もみを毎日欠かさず行ってきた。自分で行える電子鍼も行っている。半身浴も励行している。それから、ビワ葉温灸、漢方薬も試している。

最近心掛けているのは、できるだけ笑って、免疫力を高めることだ。気持ちを明るく、心を強く保つことが、がんとの闘いには欠かせないことだ、と確信したからである。

頬もふっくらとし、血色も良い三谷さんは、身振り手振りを加えながら、力のある声で取材に応じてくれた。とても重度の前立腺がん患者とは思えない元気さである。

主治医の見解を十分把握した上で、自分自身で治療法を選択し、股関節の病気を持つ奥さんのためにも、できるだけ長く生きなければならないと自らを励まし、最大限努力している三谷さんの姿に、圧倒され、感動させられた取材であった――。

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