直径30センチの巨大腫瘍から、私はこうして生き抜いた


発行:2006年3月
更新:2013年8月

動脈塞栓で転移巣が消失した

嵯峨崎泰子さん

嵯峨崎さんとの出会いが村岡さんの闘病を変えた

医療コーディネーターの嵯峨崎泰子さんに出会ったのは、そんなときである。そして彼女の手により村岡さんの前の隘路が切り拓かれていくことになるのだ。

まずは、彼女が所属している東京・門前仲町にある野崎クリニックで、咳や呼吸困難の原因となっている胸水を抜く処置から始めた。胸水を抜く作業は技術的に取り立てて難しいわけではないが、この処置をしてくれる病院やクリニックがなかなかない。した経験がないからというのがその理由とか。村岡さんもそれに悩める1人だった。抜いてもらうと、咳が止まることはないが、呼吸がかなり楽になる。

しかし、村岡さんの場合、胸水が溜まる速度がどんどん速くなり、毎週のように野崎クリニックへ通うまでになる。やはり胸水が溜まる原因のがんそのものを何とかする必要に迫られていた。そこで、嵯峨崎さんから大阪にある血管内治療専門クリニックのゲートタワーIGTクリニックを紹介された。前記のメイクリニックと同業、しかも大阪ということからちょっと逡巡したが、今受けている治療がなかなか効果が上がらないので、思い切って決断した。

村岡さんがIGTクリニック院長の堀信一さんに電話をかけると、「肺はやったことがないけど、やってみましょうか」と正直に言われ、一抹の不安を感じたが、それもそのはず、肝臓がんの症例が多いクリニックだった。しかし、ある程度のリスクは覚悟しないと道は開かれないことは承知している。

行ったのは2003年6月のことだ。堀さんが、早速血管造影による検査をしたところ、左右の肺を隔てている縦隔と呼ばれる部分に沿ってある右気管支の動脈と、8、9、10肋間動脈の領域にがんがあることが判明した。さらに胸椎も変形しており、ここにもがんが転移していることがわかった。縦隔リンパ節、胸膜、胸椎転移が起こっていたのだ。

そこで、がんに関係する右気管支動脈、肋間動脈の一部にカテーテルを進め、塞栓剤を注入して塞栓した。右の8、9、10肋間動脈にもカテーテルを進め、やはり同様の塞栓剤を入れて塞栓した。むろん、すぐにがんに変化があるということはないが、塞栓したあたりの血流が明らかに減弱していることが見られたという。

人生を諦めなかった

その結果はどうだったか。治療してからも1カ月ぐらいはまだ咳き込むことがあったが、それ以降はピタリと治まった。ただ、まだ背中が痛むことがあり、道路の継ぎ目を車で走ったりするとやはり痛みを感じた。

そこで、その3カ月後に再度、村岡さんは大阪へ行った。再び堀さんが血管造影検査をしたところ、気管支動脈のがんはきれいに消失していた。もう1つ、肋間動脈のほうも影こそなかったが、10肋間動脈の抹消のほうに小さな影が見えたので、この部分は塞栓の追加をした。どうやら背中の痛みの原因はこれだったようだ。さらにうれしいのは、胸椎の骨が再生してきていることがわかったことだ。

それからというもの、村岡さんの体の状態は極めて良好で、咳もなく、呼吸困難もなく、痛みも起こらず、順調であるという。

ただ、付け加えておかなくてはいけないのは、血管内治療の後は村岡さんは何もしなかったというわけではなく、新しくサリドマイドとセレブレックスを併用して毎日飲み始めていることだ。サリドマイドは別の記事でも記されているように血管新生阻害作用のほか、さまざまな作用があり、セレブレックスはCOX-2を阻害する薬で、鎮痛薬として知られるが、やはり血管新生阻害作用も持っているらしい。それと、活性化リンパ球療法については「効かないよ」と聞いてから、止めている。

村岡さんはこう語る。

「何が効いたのか、本当のところはわかりません。が、私は、血管内治療とサリドマイド、セレブレックスが効いたのではないかと思っています。でも、そんなことはいいんです。現にこうして私は、生きているんですから。仕事も今がいちばん多忙で、これこそうれしい悲鳴ですね」

そう、彼は、子供のために人生を諦めなかった。迷走しながらもともかく必死でトライした。そこにどこからか生の贈り物が届けられたということではなかろうか

[村岡さんの血管内治療の様子]
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経過1

村岡さんの治療前のCT。
1の矢印が胸膜転移、2の矢印が縦隔リンパ節転移、3の矢印が胸椎転移、*が胸水

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経過2

左のCTで認められる腫瘤がリンパ節転移。このまま放置すると気管が閉塞する恐れがある。血管造影では気管支動脈が拡張し、黒く染まる部分がリンパ節転移と一致。塞栓剤による塞栓術を行い、気管支動脈から腫瘍への血流を止めた

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経過3

左のCTでは、胸膜に腫瘤が認められる。胸水の原因と考えられる。血管造影検査で肋間動脈が拡張し、胸膜の腫瘤に一致して黒く染まる。塞栓剤で塞栓を行い、腫瘤への血流を止めた

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経過4

左のCTでは胸椎が溶けかけているのが見られる。典型的溶骨性の骨転移像。肋間動脈造影では骨転移に一致して黒く染まり、骨転移の部分に血管が豊富であることがわかる。塞栓剤で塞栓を行い、骨転移への血流を止めた

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経過5

塞栓術後3カ月で胸膜転移、縦隔リンパ節転移共に著明に小さくなっている。胸水も消失した

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経過6

塞栓後3カ月で、骨転移部分の再石灰化が認められ、骨が再びできつつあることが示されている


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