患者5人による“わたし的”副作用克服記 苦しみを乗り越えた先輩患者たちの副作用に負けない極意

取材・文:半沢裕子+がんサポート編集部
発行:2009年12月
更新:2013年8月

先輩患者のナマの声が勇気をくれた
豊嶋道子さん(43歳)

豊嶋道子さん

豊嶋道子(とよしま みちこ)
2007年4月、左乳房にがんが見つかる。病期は2b期。術前化学療法を行い、手術。その後、ホルモン療法や放射線療法を受け、現在に至る

「治療の副作用はたくさん出ました。治療を中止・延期するほどではなかったけれど、相当つらく、今も多少残っていますね」

と語る豊嶋道子さんは、07年、40歳のとき、左乳房に4.7×3センチのしこりを見つけ、乳房温存療法を受ける。

術前化学療法として、まずファルモルビシン(一般名エピルビシン)、5-FU(一般名フルオロウラシル)、エンドキサン(一般名シクロホスファミド)の3剤併用のCEF療法を、続いてタキソテール(一般名ドセタキセル)の投与をそれぞれ3週間に1度、4クール行い、ホルモン剤タモキシフェン(商品名ノルバデックス)を術後1カ月から飲み始めた。術後2カ月目に放射線治療を受け、ホルモン剤は今日に至るまで飲み続けている。

自分なりの工夫で副作用に対処

抗がん剤の副作用と思われるのは吐き気、白血球減少、食欲不振、脱毛、血管炎、味覚異常、色素沈着、手足のしびれ、爪の異常、関節痛など。そこに、放射線治療の副作用と思われるだるさや皮膚のヒリヒリ感、ホルモン療法によると思われるホットフラッシュ(更年期症状の1つで、突然猛烈に熱くなる)や粘膜の異常、さらに、複合的な原因と思われる倦怠感や落ち込みが加わり、引きこもり状態になってしまう。

いったいどうやって、この大変な状況を抜け出したのですか?

「基本的には『治療だから仕方がない』と我慢していました。もちろん、自分なりの工夫はしました。たとえば脱毛。CEF療法を始めて3週間すると髪が抜け始め、5日間でほとんどなくなりました。まつ毛、眉毛、鼻毛など、あらゆる体毛が抜けるのも驚きで、『汗がとまらない。あ、眉毛がないんだ』ということも(笑)。

かつらや帽子も利用しましたが、前髪や後ろ髪つきのキャップで、帽子の下につけるタイプをネットで購入。夏場だったので、重宝しましたね。

指先のしびれに対しては先生にハンドクリームを処方してもらい、肌の色素沈着に対しては、資生堂の医療用化粧品(Dプログラム)を使ったり、食べ物の飲み込みにくさに対しては、お茶漬けを頻繁に利用したり」

中でも役に立ったのは、乳がん患者向けのブラジャーと、ブラジャーのポケットに入れるパットだった。放射線で乳房の肌がチクチクするようになったとき、冷凍してもカチカチにならずに柔らかいパットを入れると、ひんやりしてチクチク感が和らいだという。

いろいろ工夫をしてがんばったが、それでも気分の落ち込みや倦怠感は強かった。

「とくに、月経が戻らなかったことは精神的な落ち込みにつながりました。胸を切除し、髪が抜け、その上に生理がなくなったわけでしょう? 女性的なものが失われてし��った気がして」

気持ちを立て直す4つのきっかけ

写真:愛犬「ペロティ」と近くの公園を散歩
愛犬「ペロティ」と近くの公園を散歩

気持ちを立て直すきっかけとなったのは4つ。1つは飼っていた犬と猫が大きな慰めを与えてくれたこと。2つめは、パソコン教室の講師をしていたとき、生徒だった60代のご夫婦が友人になり、親身になって支えてくれたこと。

「抗がん剤治療のときに車で送迎してくれたり、独り暮らしの私のため、お弁当をつくってくれたり。抗がん剤を受けると、2週間はほとんど動けませんでしたが、3週目に少し元気になります。その頃に小さなホームパーティを開き、家に招いてくれることもしばしばでした」

3つめは仕事。仕事をしながら化学療法を受けるのは、正直、きつかった。有休取得が月に2日までしか取得できず、その2日が通院でつぶれてしまうため、抗がん剤を受けた最初の2週間、体調が最悪にもかかわらず、休みはとれなかった。けれども、「仕事に行かなければならないからこそ、引きこもりから出ていけたと思います。病気になり、働けなくなったことが落ち込みの原因になる人は、少なくありません。がん患者さんの多くが、働くことで『社会につながっていたい』と希望しています。私もそうでした」

その、社会につながることとも関係があるのが、4つめのNPO法人HOPE☆プロジェクト()の活動に飛び込んでいったこと。

写真:HOPE☆プロジェクトのみんなとリレー・フォー・ライフ2009埼玉川越に参加
HOPE☆プロジェクトのみんなと
リレー・フォー・ライフ2009埼玉川越に参加

乳がんをきっかけに、がん患者さんが共生できる社会をめざして同法人を立ち上げたのは、理事長の桜井なおみさん。ネットを見て、桜井さんと主治医が同じと知り、親近感をもっていた豊嶋さんは、ある日、桜井さんの講演を聞きに行く。そして、桜井さんが「心療内科にかかっている」と話すのを聞き、その心療内科について尋ねる。

「そこには現在までずっとかかっています。精神的なケアが受けられ、とてもよかった。でも、イベントのとき、調子よく『できることはお手伝いします』といったら、桜井さんの目がキラッと光って(笑)」

豊嶋さんはやがて、事務局長まで引き受けることになる。時間的にはやりくりが大変だが、「活動に参加して、本当によかった。病気の先輩たちと話すと、とても安心します。同じ状態にある仲間だけだと、情報を与え合って落ち込みあうところがありますが(笑)、4年目5年目の人は相談しても受け止めかたが違い、教えられることも違います。ブラジャーのことや、1度描くとなかなか落ちないアイブロウのことなど、具体的なこともずいぶん教えてもらいました。

ナマの声は勇気をくれます。引きこもってサイトだけ見ていると、頭が情報でいっぱいになり、見れば見るほど落ち込むようになります。その点、ナマの声は双方向でやり取りするので、そういうことがない。安心だし、説得力もあると思います」

NPO法人HOPE☆プロジェクト=がんサバイバーが共生できる社会をめざし、がんの子どもたちが自然にふれあえる機会をつくる「ボタニカル・キッズ」、「希望の言葉を贈りあおうキャンペーン」などの活動を行っている

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