いつか叶えたいという夢を持ち続けてほしい 13歳で急性骨髄性白血病に

取材・文●髙橋良典
写真提供●エイキミナコ
発行:2022年2月
更新:2022年3月


想像を絶するつらさに耐える

そのあと造血幹細胞移植を受けたのだが、それは自身の想像を絶するつらさだったという。

造血幹細胞移植を受けるにあたっては、大量化学療法や全身への放射線照射などの移植前処置が行われる。

移植前処置の目的はがん細胞を死滅させ、患者自身の免疫細胞を抑制することだ。

それによって、移植された造血幹細胞が骨髄に生着し、正常な造血機能が回復することが期待される。

エイキさんはまず、放射線照射を受けたが、口腔内が爛(ただ)れないように氷を大量に口に含まなくてはならない。内側はもちろん、外側からも冷やす。そうしないと照射した後、口腔内が爛れるからだ。

しかし、放射線の副作用で気持ちが悪くなっているが、氷を食べなくてはいけない。

無菌室に移ってしばらくしてのどが爛れてものすごく痛くて、つばを飲み込むこともできなくなってきた。

「それが1番つらかったですね。ですから食事は摂れなくて、高カロリー輸液の点滴だけで過ごしていました。水も飲むと激痛が走るので本当は飲みたくはなかったのですが、1日1回薬を飲まなくてはいけなかったので仕方なく飲みましたが、いま思い出してもつらさが蘇ってくるような痛みでした。自分は少し能天気なところがあるので、この性格だから病気を乗り越えられたのかな、とも思います」

「この絵、何度見ても飽きないんだよね」

こんなつらい入院生活の中にも楽しみはあった。それは、絵を描くこと。

「もともと絵を描くのが好きで、チョコチョコ描いたりはしていました。母が持ってきてくれたペンシルパステルの画材が自分には合っていて、それで沢山、絵を描くようになりました。動物がすごく好きだったので、その写真を見ながら描いていました。飼っていたウサギとかチャボとかハムスターとかの絵です」

絵を描くと院内学級の先生が、「この絵いいね」と言って、病棟と院内学級の間にある壁に貼りだしてくれたりした。その絵が入院中の小学生の男の子の目に留まり、「この絵、何度見ても飽きないんだよね」と言ってくれた。

院内学級の先生からその話を聞いて、「嬉しかったし、自分が描いた絵で誰かが何かを感じてくれるんだ、と知ってびっくりもしました。そう思ってくれる人がいるなら、これからも絵を描いていきたいと思いました」

入院中、ペンシルパステルで描いた動物

入院中描いていた絵の1枚

入院5カ月で無事、退院することができたのだが、つらい治療に耐えられたのはどうしてか。

「家に帰りたいという気持ちが強かったですね。ペットの猫にも会いたかったし。そのためにはこの病気を治さなくていけない、と思いました。あと応援してくれるみなさんの気持ちに応えたいという気持ちもありました」

2度目の退院のときは、高校受験と重なっていたため、早めに退院し、高校受験をした。

「髪の毛が抜けていたので、かつらをかぶって、学校側が用意してくれた部屋で1人受験しました。まだ抵抗力も充分ではなかったので、学校側が配慮してくださりとてもありがたったです」

無事、高校に受かり、新学期が始まる頃には頭髪も伸びて、かつらは不要になり、同級生と同じ教室で学ぶことができるようになった。

「高校に入学でき、普通に通学できるようになったことで、新しい学校生活が始まるのだと楽しみで本当にワクワクもしました」

23歳で絵本作家としてデビュー

エイキさんは、23歳で『ちいさなライオン~夢の番人』で絵本作家としてデビューする。

それにはこんな経緯がある。

エイキさんは退院してから、「小児がん経験者の会」で院内にいる子どもたちに夏祭りやクリスマス会を開くなどのボランティアに参加していた。

そこで一緒にボランティア活動していたメンバーのお母さんに絵を見ていただいたところその方が絵をいろいろな方に見せてくださって、それを見た印刷会社の方が『絵本にしようよ』という話になり、『ちいさなライオン~夢の番人』という絵本ができました。本当に感謝で一杯です」

デビュー作『ちいさなライオン~夢の番人』

エイキさんがその絵本に込めた想いは何だったのか。

「私が入院していたときにも私よりもっと小さな子どもが入院していて、『その子たちが私の絵本を読んだときに、少しでも希望や勇気が持てるような絵本をつくりたい』と思い、子どもたちの夢を守っているライオンの話を描きました」

夢をあきらめないで

一般的に、15歳未満の子どもが罹患するがんの総称を小児がんと呼ぶ。

エイキさんは、いま小児がんで闘病中の子どもたちへ夢をあきらめないでと訴える。

「痛いことや嫌なことばかりでとてもつらい闘病生活。今この瞬間も小児がんと闘っている子どもたちとその家族がいます。いっぱい頑張っている分、必ず嬉しいことや楽しいことがいっぱい待っているはず。だから病気に負けないで。この先、大人になるにつれて躓(つまず)いてしまう事もあるかもしれません。でも『病気だったから……』と何もかも諦める必要はないと思うのです。もしもそのときできない事でも、いつか叶えたいと夢を持ち続けてほしいのです。

私は入院中に私の絵をほめてくれた男の子のひと言で、『絵を描く人になりたい』という夢を持つことができました。その夢がすぐにかなう夢でなくても、少しでもその気持ちを持ち続けていたいと思いました」

現在描いているイラスト

小児がん経験者が大人になってから発症する頻度が高い晩期合併症の検査のため、今でも3カ月に一度、定期健診を受けている。

晩期合併症には成長障害、内分泌障害、呼吸器・循環器の疾患など実にさまざまな疾患がある。

実はエイキさんは27歳のとき、甲状腺がんを発症し甲状腺の全摘手術を受けている。

小児がん経験者から「甲状腺に問題が起る可能性がある」と聞かされ、検査すると甲状腺がんが発見されたからだ。

このように小児がんに罹患すれば、大人になって晩期合併症の問題と直面することになる。

エイキさんに小児がんに罹患したことで、気づかされたことを改めて訊いてみた。

「この病気をしたことでたくさんの人と出会うことができたし、また命の大切さや日常の生活が、どれだけ幸せなことか、知らされました。誕生日を迎える度に、今年も無事にこの日を迎えられたと、感謝の気持ちでいっぱいになります」

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