誰かが笑顔になるために自分の人生を使えたら 原発不明がん 4b期子宮体がんの薬物療法で治癒
自然と誰かが笑顔になるために
がんと宣告されて、仕事はどうしていたのだろうか。
「内心は、仕事はしたいと思っていました。わたしの人生で仕事を休むといったことがなかったし、痛みも治まって動こうと思えば動けたので、がんの治療中とはいえ、このまま休んでいていいのか、という葛藤もありました。仕事をしようと頑張った時期もあったのですが、お客さんや周りの人から『いまは治療に専念してください』と言われたので、お言葉に甘えて休ませていただきました」
小松さんは大学を卒業して、安定した職場として大手鉄鋼メーカーに就職した。10年近く働いていたあるとき、「自分は本当にこのままの人生でいいのか」と思うようになった。
それは、小松さんが小さい頃から描いていた夢が人を癒す仕事に就くということだったからだ。それとは違ういまの職場で働いていても20年後、30年後の自分の姿をどうしても思い描くことができなかった。
「葛藤もありましたが、自分の人生なのでやりたい仕事をやっていこうと決めました。それで失敗しても悔いがなければそれでいいと思い、退職を決意しました。でも、そのときは何をするかは決めていませんでした」
「辞めて、さてどうしようか」と思っていたとき、美容関係の仕事をしていた知り合いの社長の会社で1年間働かせてもらうことになった。
「そこから、私の第2の人生が始まりました。仕事は私に合っていて、会社を辞めて本当に良かったと思いました。会社勤めのときはお客さんと対面で接する機会があまりなかったのですが、自営になるといろんな場所に行けたり、いろんな方と出会えたりすることで、さまざまな人生のお話が聞けて、本当に楽しく勉強させてもらっています。私が会社を辞めてなければ、さまざまな方たちに出会うこともなかった、と人との出会いのありがたさを感じています」
そんな日々を送っていた小松さん。がんに罹ったことで、それまでの仕事に対する姿勢に大きな変化があったという。
「いま振り返ってみれば、独立した当初は生計を立てなくてはいけないという思いが強く、売り上げを伸ばすことに夢中になっていて、こころの余裕があまりありませんでした」
がんになって、これまで自分を誇れる生き方をしてきたのか思ったときに、「いまの自分だったらまったく誇れない、それが本当に悔しかったのです。周りの人たちの幸せや豊かさに通じることがなかった、と思ったときに、これまでの生き方を変えようと思いました」
闘病中、小松さんは神様が2回目の人生をプレゼントしてくれるなら、「自分のためだけの人生ではなく、いろんな人たちのために役に立つ人生を送りたい」と毎晩、お願いをしたという。
そして「自分の人生をより豊かにするには、どうしたらいいのか」と思ったときに、自然と「誰かが笑顔になるために、自分の人生を使えたら素敵だな」という思いが沸き上がってきた���
「子どもを産んだ患者さんはいますか」
「それまでは今月の売り上げがいくらか、ということで頭が一杯だったのが、がんが寛解して仕事が再開できるとなったときに、いまはどんな人に出会えるか、またその人のためにどんなお手伝いができるか、と思うと人との出会いが以前より一層楽しくなりました。
ですから人を大切にしていった結果、自分の会社に利益が出る、そういうお仕事なのかな、と実感しています。ですから毎日、お仕事させていただけることがすごく楽しい。もちろんつらいことがゼロということはないのですが、それを含めてすべて楽しめるようになってきました」
現在は、2~3カ月に1度、CTとMRIの検査と血液検査と子宮の細胞診も行っている。
「検診に行くたびに、どのように自分の骨や腫瘍が変化していくのか。また、子宮が残っていて、生理が先月ぐらいに始まり、子宮の機能も戻り始めているので、その過程もみてみたい。
『子宮体がんステージ4で、子宮を残したまま完治した人はほとんどいない。かつ子宮の機能が再開し始めるというデータは、世界中探してもほぼないだろう』と言われたので、その経過も自分で確かめてみたい。
先日、先生に『私のようなケースで、子どもを産んだ方はいらっしゃるんですか』と尋ねてみました。すると『多分いない』と言われたので、『もし私が子どもを産んだら、世界初の人になるかもしれませんね』という話を先生としたばかりなんです(笑)」
常に笑顔でつらい体験を語ってくれた小松さん。その生来の明るさと好奇心こそが、がんを克服し、仕事での成功にもつながっている最大の秘訣なのかもしれない。
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