まだ25歳、リスクを恐れて手術しなければ後悔する 肺転移のある線維層状肝細胞がん

取材・文●髙橋良典
写真提供●平塚 泉
発行:2022年11月
更新:2022年11月


フィブロラメラ肝細胞がんと判明

肝がんの開腹手術の傷痕

2020年11月、肝臓にある11㎝を超える腫瘍を切除するため開腹手術が行われた。それは8時間にも及ぶ大手術だった。肝臓以外にもリンパ節に15カ所くらい腫瘍が見つかり切除手術を受けたが、15個の腫瘍のうちがん細胞は1個だけで、残りは良性の腫瘍だった。

平塚さんは術後、執刀医から肝臓の腫瘍はきれいに取り除けたとの報告を受けた。

「それを聞いてホッとしたのを覚えています。でもその手術のあとに肺に転移している腫瘍を切除するという話があったので、『まだ油断はできないな』と思い返しました」

入院期間は11月17日~28日で、リンパ節の腫瘍を15個摘出したため腹水が溜まって苦しい中での退院だった。

病理検査の結果、医師たちが予想したように希少がんの1つフィブロラメラ肝細胞がんだった。

大量の利尿剤の服用で何とか腹水も少なくなり、12月21日~27日に2度目の入院。胸腔鏡手術で肺に転移した2㎝の腫瘍を切除する手術を受け、2021年1月に退院することができた。

入院中、自分はなぜこのような希少がんに罹患したのか、お酒を飲んでいたからか、仕事がハードで体を酷使したせいなのか、睡眠が思うように取れなかったことなのか思い当たることすべてを主治医にぶつけてみたのだが、「平塚さんのような稀ながんは何が原因ということは言えないですね」との答えが返ってきた。

「主治医のその言葉を聞いて、いままで自分が生きてきた生活すべてを否定しなくてもいいのだと思い心が楽になりました」

闘病中励ましてくれた婚約者と年内挙式へ

肺転移を胸腔鏡手術で摘出後、病室で

退院後、徐々に体調を戻していった平塚さんは、2回目のコロナワクチン接種後に職場復帰を果たす。休職してから1年後のことだった。現在は美容師として以前と変わらず働きながら、3カ月に一度の定期検診を受けている。

「最初の抗がん薬治療の副作用で卵巣へのダメージが大きく、生理が止まってしまったんです。ですから、婦人科でも定期検診を受けているので、3カ月の間に3回通っています。検査内容は造影CTや血液検査などです」

そんな平塚さんには嬉しいことがある。婚約者と年内に式を挙げる予定になっているからだ。

「仕事が忙しいなかでも電話をくれたり、退院後も30分しか会えないのに、車で30分かけてわざわざ会いに来てくれたりしました。本当にありがたかったです」

彼の存在が、闘病中も大きな支えになっていたという。

「がんを経験したことで、いろんな人とのつながりができたし、またそれまでは自分ではあまりわからなか���たのですが、周りから愛情をいただいていたことに気づかされ、自分が頑張って治療して、元気でいることが恩返しになるという気持ちがあります。

私のがんの場合5年生存が目安になるのですが、10年以上生存された後に再発された方もおられるみたいなので、あまり楽観はしていません。主治医からは、『3カ月に定期検診に行く以外は、がんのことは忘れてください』と言っていただいています」

平塚さんの好きなお酒はどうされたのだろうか。

「主治医から、2回ほど全然気にしないで飲んでも大丈夫と言われました。今は嗜む程度にしていますが(笑)」

大変な病を克服しつつある平塚さん。手術をするという決断で勝ち取った未来には、彼とふたりの新しい人生が待っている。

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