病を克服して料理で恩返しがしたい 開店して間もなく希少がんの類上皮肉腫に

取材・文●髙橋良典
写真提供●鈴木伸朋
発行:2023年1月
更新:2023年1月


弱冠32歳でイタリア料理店のオーナーシェフに

鈴木さんは弱冠32歳の若さで、2017年6月に群馬県前橋市にイタリアンレストラン「ダルクオーレ」をオープンさせた。

鈴木さんはなぜイタリア料理のシェフを目指したのか。

「目指したのは中学生のときでした。イタリア好きの友人がいて、あるときミートソースを作ろうということになって、一緒に作ってすごく楽しかったことが影響していると思います。そのときが、自分が料理をした最初で、それまでは料理はまったくしたことはありませんでした」

鈴木さんにとってたった1つの出来事で将来が決定する、そんな強烈な体験だったのだろう。

「僕のなかでは進路は決まっていたので、調理師免許が取得できる高校に進学したかったのですが、両親が自分の言うことを信じてくれなくて、そこに行かせてもらえず、進学校に進みました」

ところが、鈴木さんにとってはつらいが、思いがけない転機が訪れる。

「高校2年のとき、父親が急死しました。それで、お金を払いながら学校で教わるよりも、お金を貰いながら教わったほうがいいと考えて、高校卒業後、群馬県内のイタリア料理店に就職しました」

その後、イタリアに本格的には2回、トータル2年間修業に行き、腕を磨いてイタリア料理のコンテストで優勝するまでになった。

そして2017年6月に念願のイタリア料理店のオーナーになり、「さぁーこれから」というときに病に倒れ、治療のため2020年7月、僅か3年で閉店せざるを得なくなってしまった。

「歩けなくて寝たきりの状態になったため、せっかく立ち上げた店を閉めざるを得なくなったのは断腸の思いでした。この時期、確かにコロナでお客さんは激減しましたが、何とか皆さんに助けていただいて、店はうまくいっていたので本当に残念でした」

昔の同僚や友人がクラウドファンディングを

しかし、そんな鈴木さんの窮状を見て、手を差し伸べてくれた仲間たちがいたのだ。

イタリア料理の修行のため働いていたときの先輩や同僚たちや友人が、鈴木さんが病気で店を閉めるという話を聞き、治療に専念できるよう「20、30代に好発する希少がん類上皮肉腫と闘うオーナーシェフの明日を一緒に応援してください」というクラウドファンディングを立ち上げてくれたのだ。

「開店してそんなに経っていなくて、借金もまだ半分くらい残っていたので大変ありがたく思いました」

ヴォトリエントの効果で体調も徐々に良くなってきた鈴木さんは、中華料理のシェフの星野弘明さんと共同で「ファン・ダルクオーレ」を2021年2月、群馬県高崎市に新たにオープンさせるまでに快復した。

2022年9月23日までは鈴木さんが休んだのはたった1度だけだ。

オーナーシェフとして腕を振う鈴木さん

��供しているコースの一皿

治療中に結婚した妻と一緒に闘いたい

妻と一緒に病気と闘っていきたい

そんな中、9月23日に急に激痛に襲われ、何も食べられなくなってしまった。大学病院を受診すると小腸に穿孔ができていることがわかり、緊急手術。10月中旬に退院することができた。

鈴木さんは現在1週間に1度、通院して血液検査を受けている。

「貧血気味で、それが問題となっていて炎症具合を見るということでした。主治医は「『ヴォトリエントの副作用だろう』とは言っていたのですが、小腸に穴が開いた結果じゃないかと思っています」

その後、痛み緩和のため仙骨周辺を放射線治療しているとき、右太ももあたりが痛くなり検査した結果、右大腿骨が溶けているための痛みだということがわかり、緊急手術を行うことになった。

それがこのインタビューの直前のこと。

「右太ももの骨が溶けているので、そこにボルトを通して骨を補強する手術をすることになりました。痛みのひどいときは1~2分も座っていられないし、仰向けで眠ることも、歩くこともできない状態になりました。痛みはオキシコンチン(一般名オキシコドン)などの医療麻薬で抑えている状態です」

そんな痛みと闘う鈴木さんには友人の他に心強い味方がいる。それは一昨年8月に結婚した妻の存在だ。

「妻には精神面も含めて随分助けてもらっています。妻とはこの病気がわかってから付き合い始めて、2021年8月に結婚しました。妻は僕の病を知って、私を支えたいと思って結婚を決意してくれたみたいです。自分のなかでは葛藤は多少ありましたけど、妻と一緒に病気と闘っていきたいという気持ちのほうが強かったですね」

妻は通院のためにいつも車を運転してくれ、一緒に付き添ってくれたり、献身的に鈴木さんを支えている。

「自分は料理でしか恩返しができないので、この病いを1日でも早く克服して、僕のために募金に協力していただいた方たちに料理をしてあげたい気持ちで一杯です。お客さんが自分の作った料理を食べて『おいしい』と言って、喜んでくれる姿を見るためにだけやっているようなところがありますね」

そしてこう結んでくれた。

「何事につけても、感謝感謝の気持ちが強く湧いてくるようになりました」

この取材は、右大腿骨の骨の補強手術のための入院直前に行われた。鈴木さんは痛みに耐えながらリモートでのインタビューに応じてくれたのだ。

結婚して支えてくれている妻、鈴木さんのイタリア料理を愛するお客さんたち、クラウドファンディングで応援してくれた人々のためにも、鈴木さんが店で存分に腕を振るえるよう祈って止まない。

1 2

同じカテゴリーの最新記事