人生何が起きるかわからない、やれることは元気なうちにやらなくては 乳がんが自分を積極的な性格に変えた!

取材・文●髙橋良典
写真提供●小川麻子
発行:2023年2月
更新:2023年2月


側弯症の手術する覚悟ができたのは

「手術の結果、リンパ節への転移はなく、ステージ2aと診断されました。がんは7㎝と大きいけど、顔つきは悪くなく、性格はのんびり屋さんだと言われました(笑)。術後、抗がん薬治療をすべきかわからなかったので、主治医から『オンコタイプDXという検査があり、その検査で抗がん薬治療をすべきかがわかる。検査は保険がきかないけれど、あなたには喘息の症状もあるので、できるだけ体への負担を少なくしたいので、抗がん薬治療をどうするか決めて欲しい』と言われました。それで、オンコタイプDXの検査を受けることにしました」

オンコタイプDX検査とは、多遺伝子発現検査と呼ばれるものの1つ。検査は数値によって乳がん再発リスクや抗がん薬の効果を事前に把握でき、患者さんにとっては大きなメリットがある。

オンコタイプDX検査の結果、小川さんのがんはルミナルA型(ホルモン受容体陽性・HER2陰性)で化学療法を行っても行わなくても5%の違いしかなく、ホルモン療法が有効との結果だった。

2015年6月から抗エストロゲン薬のノルバデックス(一般名タモキシフェン)の服用が始まり、2022年4月まで続いていたが副作用はほとんどなかった。

小川さんイラスト

元気になった小川さんは2017年、改めてイラストレーター養成スクール上級コースを受講、1年間のコースを終了した。

「終了後、仕事はないのにイラストレーターの名刺を作ってイラストレーターと名乗って、知り合いに仕事を紹介してもらったりしていました」

側湾症の手術後の小川さん

しかし、それも長くは続かなかった。それは2019年6月に側弯症の手術を受けたからだ。

「私は背骨が70度以上曲がっていて、背中が常に痛く、内臓の癒着も始まっていて、食べ物が消化しにくいなどの症状が出ていました。だから、乳がんになる前から側弯症の先生から手術の話は出ていたのですが、手術のスケールを聞くたびに怖くてなんかしらの理由を付けて先延ばしにしていました。でも、乳がんになったことで、手術の練習というか、手術はこういうものという感覚がつかめたので、乳がんの回復を待って側弯症の手術を受ける覚悟ができました。側弯症の手術のほうが、乳がんの手術よりは遥かに大手術で、1カ月ちょっと入院し、リハビリに2年を要しました」

再発したことで思ったこと

ベリーダンスを習う

側弯症術後2年間のリハビリも終わり、さてこれから頑張ろうというとき、再び新たな問題が発生する。

2021年秋頃から術後ドレー��を入れていた傷跡のところが、虫に刺されたような腫れがあり、それが大きくもならない代わりに一向に消えないという状態が続いたことで、経過観察を続けていた。

2022年1月にはコロナにも感染し、そのときから赤みを帯びてきたので、その年の4月に摘出、がんだと判明する。

そのときの気持ちを小川さんはこう語る。

「『再発です』と言われたとき、ショックがものすごく小さくて、初発のときに比べたらあまり動揺はなかったですね。むしろ少し安心した部分もありました。最初に『がんです』と告げられてから7年間、いつ『再発です』と言われるか、ずっと怯えていたからです。ですから再発と言われても、もうこれ以上のことはないし、私は毎日好きなように生きていて、『あとは治療するだけ』という気持ちになりました。そんな気持ちになった自分自身にびっくりし、改めて自分がやりたいようにやってきてよかった、と再確認することができました」

がんが再発したことで、ホルモン療法はノルバデックス内服からアロマシン(一般名エキセメスタン)とリュープリン(同リュープロレリン)注射に変更された。

薬を変更するにあたって主治医から「副作用については覚悟してください、あまり酷いようなら対応するので言ってください」とは言われていたが、アロマシンの服用を始めるとすぐにその副作用が出た。

「副作用として体形が変わったことがあります。それと関節痛が酷くなり、ホットフラッシュの症状も出てきました」

がんになったことで自分が変わったこと

小川さんはヨガをやろうと決める。

「それまでは体を動かす習い事は控えていましたが、側弯症の手術を受けたことで、それまでやったことがない習い事にトライしてみたいという気持ちが湧きました。そこで、ヨガなら細く長くずっと続けていけそうだなと思って、ヨガ教室を探しました。ただ、側弯症の手術を受けた先生からチェーン店などのすごい人数がいるところではなく、身体のことを相談できて、医療知識がある先生のところが望ましいと言われました」

そこで、2022年6月から高田の馬場にある「こころとからだクリニカセンター」に通い始めた。

「患者会などに1度も入ったことはなかったので、乳がん患者のためのヨガがあって、安心できる場所で乳がんの話をしたいと思ったことと、クリニックが併設されているなど条件にピッタリ当てはまったからです。それにHPなどを見て、『信頼のできそうな先生だな』と思いました。ヨガは家でも先生から教わったことが出来ますし、そこに来ている人たちとの交流も新鮮で、私にとっては、とても楽しい場所になっています」

小川さんはまた、聖路加国際病院のパートナーズクリニック、mammaria tsukijiで乳がん専門のパーソナルトレーニングも開始した。

インタビューの最後に、がんになって自分が変わったことはあるか、訊いた。

「私は、性格的にすごく慎重なんですね。だから、何も準備していないのに飛びついたりすることはまずありませんでした。仕事もないのに、『イラストレーターです』と名乗ることはそれまでの私だったら考えられません。それが乳がんになったことで、『人生何が起きるかわからないから、やれることは元気なうちにドンドンやらなくては』と、気持ちが変わりました。これもがんになったことの効用かもしれませんね」

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