承認直後の薬が劇的に効果を発揮! 若きジャズダンサーが4期のALK陽性肺腺がんに

取材・文●髙橋良典
写真提供●山﨑未友季
発行:2023年5月
更新:2023年5月


新しい分子標的薬が福音に

入院前に髪を切ったが脱毛はしなかった

薬物療法の治療が始まり、2021年11月25日に承認されたばかりの分子標的薬ローブレナ(一般名ロルラチニブ)という薬を投与するため入院。

「入院前は、別の薬が処方される予定になっていたのですが、ローブレナが1次治療に使用可能になったようなのです。主治医から『承認されたばかりの薬だけど、どうする?』と訊かれたので、『その薬に懸けます!』と即答しました。本当にタイミングが良かったと思いました」

11月29日に入院。翌日からローブレナを投与して経過観察した結果、問題はないと判断され1週間後に退院。今後も続けて服用することになった。このローブレナが使えたことは山﨑さんのがん治療にとって大きな福音となった。

その後、山﨑さんは通院のたびに左胸の画像を主治医から見せてもらい、腫瘍がどんどん小さくなっているのを目の当たりにし、ローブレナの効果を実感した。

「とにかくこの薬が私に合ったせいか、服用当初から腫瘍が急激に小さくなり、薬の効果を実感させられました」

一方、薬の副作用について主治医から記憶障害や言葉がうまく出てこなくなったり、めまい、ふらつき、呼吸が苦しくなるといった症状が出ることもあると告げられていた。現在はもうなくなったが、服用し始めた当初は主治医が言ったような症状が出てきてつらかったという。

「頭の中がかゆくなるというか変な感じがありました。また筋肉が硬くなりやすくなるので、踊る前にしっかりとウォーミングアップすること。骨転移しているので骨が脆くなりやすいから、ダンスのときは充分に注意するように言われています。脳にはいまも2カ所くらい小さいものはあるのですが、放射線を照射しているので、たとえ分裂したとしてもその段階で死滅するので大丈夫と言われています」

山﨑さんは、自分ががんになったことをSNSでオープンにしている。

「がんとわかったときに中止しなくてはいけない公演があったり、入院のためレッスンのお休みをいただくこともあったので、生徒のみんなには人づてではなく、自分の言葉で伝えたいとがんを公開しました。そのとき、自分と同じように悩んでいる人がいるかもしれないと思ってアカウントを作りました。すると私と同じような肺がん患者さんからたくさんのコメントをいただき、すごく励みにもなりました」

2006年からのダンサー芸歴で、演出・振付も行っている

現在は2カ月に1度、検査と薬を貰うために通院。3カ月に1度のMRI検査は、問題なさそうなので、半年に1度になった。

「いまは肺がんが見つかる前より、体が動いて��る感じがしています。トレーナーの先生とも相談して、薬が効きやすくなるように普段の食生活を見直し、以前よりも健康的な生活をしているように思います。以前は差し入れのお菓子などみんな食べていたのですが、最近では皆にシェアして糖分を控え、タンパク質をしっかり摂取するようにしています。血液検査の結果を主治医に診てもらっているのですが、アルブミンの数値が低いので数値を上げて安定させ、薬が効きやすい体をつくるために、できるだけ卵を食べたりするなどの努力しています」

2022年9月の自主公演。スタッフさんも一緒に記念写真(前例左)

自分が今やりたいことをどんどんやって行こう

ところで、山﨑さんがジャズダンサーを選んだきっかけはなんだったのだろう。

「私はもともとミュージカルの俳優になりたくて、大学のミュージカルコースに4年間通っていたのですが、その過程で歌やお芝居よりもジャズダンスが自分に合っているように思えてきました。大学時代に出演したときの共演者の方の縁で大学卒業後、ダンスダンサーとインストラクターを始め現在に至っています。音楽が好きなこともあるのですが、ダンスは体を動かすことで一種の解放感があるところがいいですね」

山﨑さんは現在も治療を受けながら、ジャズダンサーとスインストラクターの仕事を続けている。

「踊れなくなるかもしれないとか、振り付けや舞台での段取りが覚えられなくなったり、突然出てこなくなったりするのではないかという恐怖心はいまでもあります。ですから周りの子らに、もしも私がそうなったら助けて欲しいと言えるようにもなりました。幸いなことにいまのところはそういったことは一度もありません。この2年間、より一層どうすれば続けられるかを日々考えてやってきました。新型コロナのときには個人でオンラインレッスンを、インスタグラムのライブ機能を使ったりYouTubeなどで配信し、必死に生徒をつなぐような努力をしていました」

がんになったことで、それまでの自分と何か変わったことはあるのだろうか。

「すごく我儘になりましたね。それまでは周りの状況に流されやすいタイプで、自分がこうしたいからするのではなく、この人がこう言っているからそうするか、みたいに考えていたのですが、いまは自分がやりたいことをやるという風に変わりました。いまはまだ体調がいいけど、薬が効かなくなってしまうことだってあるかもしれない。なら、いまやりたいことをどんどんやっていこう、と思うようになりました。いつかやろうではなく、すぐやれるように具体的に動こうと思うようになりました」

2023年3月のダンス公演、楽屋で

2023年4月、ニューヨークのブロードウェイダンスセンターの前で

取材の最後に、山﨑さんの夢について訊いた。

「いまは、ライブハウスでの公演がメインですが、自分の主宰する団体をもっと多くの人に知ってもらい、観てもらえるような団体に育てあげたいと思っています」

元気に活動して、その夢も叶えてほしいものだ。

山﨑さんのように肺がんステージ4であっても、がん医療の目覚ましい進歩で、いい薬剤が出てきて寛解の可能性も高くなり、生きる希望が見えてきた。現在、闘病中の皆さんも希望を捨てないでいてもらいたい。

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