第3の居場所「元ちゃんハウス」に助けられ 中咽頭がんの患者会を立ち上げる
中咽頭がんの患者会を立ち上げる
退院してからしばらくの間は、週1回の割合で元ちゃんハウスを訪れるようになっていった。その理由を大平さんはこう語る。
「それは自分のこころの拠り所、自分が抱えている不安を元ちゃんハウスのスタッフの人に話して解消するというか、自分はこんな悩みがあって、こんな風に考えているんだけどとか、とにかくいろんな話を聞いてもらってアドバイスを求めるために通っていたと思います」
そして大平さんは自身がアドバイスを受けるだけでなく、自分と同じ悩みを抱えている患者さんの手助けをしたいと患者会を立ち上げ、自らのがん体験を伝えていくまでになっていった。
「自分の年齢を考えると、仕事もそう長くは続けられない。では、いまの自分にできることは何かと考えたとき、同じような病気で悩んでいる人のために、少しでも自分の経験を伝えて行き、手助けできればいいな、と思ったからです。患者会を立ち上げるきっかけになったのは元ちゃんハウスに富山県から訪れていた同じ中咽頭がんの患者さんがいて、その人と話をしているうちに『同じ病を抱えた患者会があればいいな』ということで意気投合し、2人で立ち上げて、共同代表を2人で引き受けています」
患者会の名称は「北陸地区頭頚部がん患者と家族の会」で、現在10名近くの会員がいる。
3カ月に1度、元ちゃんハウスに集まっている。そこで闘病中の体験や放射線治療のつらさや口内炎にならないためのアドバイス、退院後の生活で不便に感じていることなど体験者同士の生の声の交流を行っている。また、金沢大学附属病院の看護師さんの参加もあって、話を聞いてアドバイスをもらったりしている。
「これから少しずつ仲間を増やしていければいいかな、と思っています。コロナ禍のせいで、人と会う回数が減って、自分の中に籠ってきて、こころの病気になっている患者さんも多々おられるのが心配ですね。ですから出かけて行って、皆さんと悩みや心配事を語り合う患者会のような存在は大きいと思います」
「元ちゃんハウス」は第2の我が家
大平さんは10月中旬に病院を退院。2週間ほど自宅療養の後、11月から歯科医院を再開した。
「2カ月半近く休診していたこともあって、これまでの患者さんも来られなくなった方もいらっしゃいます。また、その後、コロナ騒動もあって患者さんはガタッと減りました。ですからいまは入院する前の状態に戻すべく努力しているところです」
2019年10月に退院してからは2カ月に1度、昨年(2022年)から��3カ月に1度、定期検診のため金沢大学付属病院を訪れている。検査はファイバースコープを喉に入れて咽頭の状態を調べ、1年に1度のPET-CTを行なっている。
その帰り道、元ちゃんハウスに立ち寄って検査の結果報告などをしている。定期検診の前には、少しでも喉に違和感があると、「ひょっとして再発しているのではないか?」とつい考えてしまうため、検診を無事にクリアできると安心して、そのことをスタッフに話したくなるからだ。
「私にとって、元ちゃんハウスの存在は大きなこころの支えになっていて、なんでも話を聞いてもらえる大切な場所です。いわば〝第2の我が家〟みたいなものですね」
大平さんは奥さんとは10数年前に死別、現在は1人暮らしだ。だから余計、大平さんにとって何でも話せる元ちゃんハウスの存在は大きいのだろう。
大平さんはがんになったことで、自身どう変わったのだろうか。
「それまでは、がんは自分自身に直結する病気ではないと思っていましたし、ましてや自分が体験したことを他の人に伝えて行くなんて気持ちもなかったと思います。それががんになって、自分が経験したことを、がんになられた方に伝えて行けたらと思うようになりました。それは自分にとって、とても大きな変化でしたね。
主に伝えて行きたいのは〝こころの不安〟についてです。がんになった患者さんは、皆さんその不安をお持ちだと思うんです。ですから、その不安を僕の場合は『こう対処して軽減させてきた』といったようなお話をさせてもらいたいと思っています」
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