移住目的だったサウナ開設をパワーに乗り越える 心機一転直後に乳がん
がん保険に入っていてよかった

谷山さんは化学療法が終わった後、乳房再建のため左乳房にエキスパンダーという皮膚を伸ばすための機器の挿入手術を受けた後、2022年4月に下川町に戻り新たな挑戦を始めた。
それは、当初考えていたような固定した場所でのサウナではなく、『いろいろな場所でサウナができないか?』と考えたのだ。軽トラックの上にサウナ小屋を載せるアイデアをさまざまな人に相談した。町内の元建設会社の社長や町の制度の協力を得ながら初めてのDIYによるサウナ小屋が実現した。
「私はもともとサウナが大好きで、全国にサウナ好きの友人がたくさんいます。トラックにサウナを載せている友人もいて、作るときの注意点や困った点などを教えてもらいながら作りました」
サウナ製作にかけられる期間は2カ月。太腿の穿通枝皮弁(せんつうしひべん)による乳房再建術を富山大学附属病院で受ける日が11月に迫っていたからだ。
谷山さんの場合は、将来妊娠出産の可能性があるため、腹部からではなく太腿からの自家組織による乳房再建が必要だった。
超マイクロサージャリーと呼ばれる高い技術と経験を要する手術である。国内で数多くの手術例を誇る佐竹利彦教授らによる大手術を受けた。
「乳房再建術を考えたときに、女性特約付きのがん保険に加入していたことで選択肢が増えたと思います。現在、保険適用になっているとはいえ、乳房再建術を受けるにはそれなりの金額がかかるので、がん保険に加入していてよかったと思っています」
入院中、谷山さんにとってうれしい知らせが入ってきた。元建築会社の社長から移動式サウナが完成したとの連絡があったのだ。
サウナは体の状態と向き合う時間が取れる場所
乳房再建も無事成功し、下川町に戻った谷山さんは2023年1月29日に移動式サウナの営業を開始した。移動式サウナの総費用は150万。3人くらいがゆったり入れる大きさになっている。
「お客さんがサウナに入りたいという場所に軽トラを運んで、体験してもらうというシステムです。料金は2時間で1人4,000円です。始めたばかりですが、いろいろな人が利用してくれています」
そして谷山さんが目指す理想のサウナ��在り方についてこう語る。
「サウナはただの熱い箱なんかではなく、その中で体を温め汗をかくということを通して、いまの自分の体の状態と向き合う時間が取れる場所だと思っています。賑やかなサウナの楽しみ方もあると思いますが、私は自分自身のこころや身体と向き合い、仲のいい友だちと普段あまりできないような話ができる空間にしたいと思っています。サウナは男性の利用数が多く女性が少ない傾向にあるのですが、『どこでもサウナ』は女性の私が運営しているせいなのか、比較的女性の利用者さんが多いのが特徴だと思います」
元気があるうちにやりたいことをやる
谷山さんが乳がんになって、それまでの自分と何か変わったことがあるのだろうか。
「以前の私は前向きに生きていくことが難しく、なんとなく生きづらいと思っていました。でも、いざ本当に命に係わるかもしれない病気の経験をしてからは、いつまで元気でいられるのかわからないのだから、『元気があるうちに、やってみたいと思うことをやってみよう』と思うようになりました」
現在、谷山さんは3カ月に1度、血液検査、腫瘍マーカーの確認、エコーやマンモグラフィ検査、また薬の副作用で肝機能が低下したこともあってそのデータが悪くなっていないか調べるため、下川町から名古屋に通院している。
遠方への通院が必要ながら、サウナ運営や北海道をはじめ全国でジビエ料理家として活躍している谷山さん。乳がんを体験してパワーアップした姿は、周りの人びとに勇気を与えている。
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