子どもの誕生が治療中の励みに 潰瘍性大腸炎の定期検査で大腸がん見つかる

取材・文●髙橋良典
写真提供●いのけん/太田プロダクション
発行:2024年10月
更新:2024年10月


ストーマであることを公表

いのけんさんは2回目の手術後、2カ月ほどで舞台に復帰する。2度目の退院の際にSNSに直筆の手紙をアップして、「やはりがんは強かったです。完全勝利とはなりませんでしたが、引き分けぐらいには持ち込めました」と、含みを持たせた書き方をした。

「すると芸人仲間や作家さんから『どういうこと?』という連絡があったりしました。その方たちには、『実は人工肛門になってしまったので、僕は勝ちではなくて、引き分けかなと思ってそのような表現をしました』という返事を出して理解してもらいました」

舞台に立つにあたって、パウチを装着していることに問題はなかったか訊ねた。

「そうですね、やはりお腹の辺りに突起物というか、ふっくらしているので、どうしてもタイトな服は着れない。また『それ何?』とお客さんから聞かれたときにちゃんと説明する自信もなかったので、極力わからないように、ダボッとした少し大きめの服を着て目立たないようにしています。だから、以前やっていた全身タイツで行うネタなどは今はできなくなりました」

手術後の肉食ライブでのいのけんさん

「知っている人は知っていると思いますが、ストーマと聞いてもわからない人もいると思うので、僕が自分で明るく伝えていたとしても、見ているお客さんの中で身内にそういう方がおられれば〝不快な思いをされる方がいるかな〟と極力、舞台上では出さないように努力はしていました。別に隠しているつもりはないのですが、〝この人は人工肛門なんだという余計なフィルターがかかっちゃうかな〟という気がして、しばらく積極的には発表に踏み切れなかったですね。でも、時間が経過してみんな明るく受け入れてくれ、〝ストーマであることを公表しても大丈夫〟と思えてきて、〝知らない方に知ってもらうにはいい機会かな。いまストーマの方も日本でも増えてきているという話を聞いたりしたので、知識として知ってもらっていてもいいことなのかな〟と思って公表することにしました」

いま、いのけんさんは「ストーマって何?」と聞かれたときには、ちょっと笑いを込めて、「お腹からうんちしています」と説明しているという。

さらに、「どういうこと?」と訊かれたら、「お尻に近いところががんになっちゃって。そこを取り出したから肛門は閉じて、お腹から便を出す袋を装着してその袋に出している」と一歩踏み込んだ説明もしているという。

「それを聞いて『ええ~』と驚いたり、人によっては『もう便座に座ってうんちしないんだ』とか切り返してくる方もいたり、さまざまな反応が返ってきて楽しいです」

手術後も「プライムお笑いライブ」で熱演

ストーマならではの苦労も

しかし、日常生活ではストーマになったものでしかわからない苦労もある。

「いまは多少慣れてきただけで、やはり一生不便だと感じるとは思いますね。暑い日など家に帰ってすぐにシャワーを浴びたいのに、やはり袋があるからそんなすぐには濡らせない。パウチを取り外したりする手間がかかる。また〝銭湯にも、海やプールにも行けないというストレスは多分一生あるのかな〟と思っています。でも少しずつでもそのストレスを減らしていきたいですね」

そして「当初はパウチを装着するときに爛れたりすることはありましたが、いまは自分に合った装具が見つけられて、そんなに爛れたりすることはなく、付け替えは出来ている状態です」とも話してくれた。

家族がみんな元気で過ごせますように

現在は血液検査などの定期検診を3カ月に1度受け、半年に1度CT検査を受けている。

「2022年5月の転移なので、2027年5月までは一応治療中ということになるとのことだったので、症状はないのですが、いま現在は治療中ということになります」

手術後、サッカークラブイベントのライブで

2度のがんを経験して、彼の生き方はどう変わったのだろうか。

「大きく変わりましたね。まず、人に優しくなったかなと思います。また、他人に自分の経験をもとに『健康診断を受けてください』と言えるようになりました。また2回死にかけた経験をしているので、〝やりたいことがあったら、全部やってしまおう〟という考えになりました。いままでは無駄な付き合いをしてしまっていた自分がいましたが、〝どうせ限られた時間なら好きな人たちだけと一緒にいよう〟と思うようになりました」

そしてこう続けた。

「明石家さんまさんがよく言われる言葉に『生きてるだけで丸儲け』というのがありますが、いまその言葉の意味がよくわかりますね」

2023年10月に次女が誕生し、2児の父親となった彼に今後の夢を訊いた。

その問いにかなり時間を置いて言葉を選びながら、「夢ですか、それはもう自分のことではなくなっています。〝家族がみんな元気で過ごせますように〟といったことですね。いい意味でそんなに欲はなくなりました」

いのけんさんにとって、家族と一緒に元気でいることが夢になった。

1 2

同じカテゴリーの最新記事