子どもの成長を見守りながら毎日を大事に生きる 30代後半でROS1遺伝子変異の肺がん

取材・文●「がんサポート」編集部
発行:2025年1月
更新:2025年1月


「ROS1ポジティブ♪」の患者会に支えられて

ザーコリは入院して飲み始めた。そのときに、非公開SNS患者会「ROS1ポジティブ♪」に入会した。

「患者会にはザーコリを7年くらい飲んでいる人もいる。そんなに長く飲める人がいること知り、心に余裕ができました。また、さまざまな相談に対して、『私の経験ではこういうことがありました』などと会員同士で情報交換をしています。100%の回答は出てこなくても1人で悩まないですみますし、患者会の皆さんに支えられた部分は大きいですね」

2024年11月に横浜で開催された日本肺癌学会の後の親睦会で

もう1つ吉野さんの力になったのは、病院の「がん相談支援センター」だ。

「再々発したときさまざまな情報に振り回され、それこそ寝ても覚めてもがんについて調べていた一番つらいとき、相談員のサポートも大きかったですね」

「ネットに振り回されちゃうから、あまり見ないほうがいいですよ」とか、「食事も気にし過ぎても良くないですし、心が落ち着いたら食べられるようになります」などとアドバイスをもらった。

「それが本当に大きかったですね。今も病院に行った帰りに必ず寄って話をしています。今では世間話になっていたりしますが、話すことで自分の考えがまとまることもあるし、思いの丈を口に出せるのでとても助かっています」

もちろん家族にも支えられている。最初の手術をしたときは、子どもは5歳。だから「まだこの子を残して死ねない。早く死んじゃうと自分がこの子の記憶に残らないから生きなきゃと強く思いました」

奥さんは治療法などにあまり干渉しなくて、「感情の起伏が穏やかでいてくれるので助かっています。腫れ物に触るような応対をされても困るし、今まで通りに接してくれているのがありがたいですね」

患者会では、冗談半分に仲間同士で「もっと大事にしてほしいという会話も出たりしていますけどね、いや本気半分かな」

闘病中に仕事はリモートワークになる

がん患者にとって、仕事をしながら療養することは大変なことも多い。ところが、吉野さんの場合、手術をした2019年6月からコロナの流行により会社は完全リモートワークになった。

「通勤の負担がなくて、非常にやりやすかったです。上司の理解があったのもありがたかったですね。とは言っても仕事は仕事としてあるので大変なことはありました」

薬の副作用がそれほど強くなかったことも助かった。実はザーコリ服用中に副作用の下痢に悩まされていて減薬するまではつらかったそうだが、「いいタイミングでリモートワークになり、下痢でもすぐトイレに駆け込めるし、自分は運が良かった」と、がん闘病とコロナ流行が重なったことについて語った。

コロナ禍でリモートワークに移行して、療養しながら仕事中の吉野��ん

諦めずに前向きに

今、吉野さんは「普通のありがたさをしみじみ感じています。普通に毎日生活できていることが非常にありがたく、毎日を大事に生きたい」と、自分の望みは平凡ですがと語る。

それまでは帰宅が毎日8時、9時で、平日は子どもの寝顔しか見られない生活だった。現在はリモートワークになったことも大きいが、ワーカホリックを卒業して、子どもや家族の時間を大切にしている。がんによって当然失ったものもあるが、得るものもあり、人生が豊かになった。

長年行ってみたいと思っていた2024年「さっぽろ雪まつり」で

「家族との時間は、病気になってから増えたかな。子どもは今11歳で、そのうち親離れをしていくでしょうが、それまでの時間を大事にしていきたい。今はいい薬も開発されているので、子どもが成人するまで一緒にいられたらと思っています」

また、物事を先延ばししなくなったという。「じゃあ行こう、じゃあやろうと。今までは仕事が忙しいこともあり、どちらかといえば腰が重い人間でした」と、明るく笑った。

そして、吉野さんから肺がん患者さんへのメッセージを託された。

「1つは、日々医療の進歩もあり、新薬も出てくるので、自分を含めてですが、諦めずに前向きに生きることが大事です。もう1つは、肺がんについて勉強して知識を高めることです。今から考えると知識がなかったため『あの選択はどうだったんだろう?』という疑問もあります。ですから知識をつけていくことはとても大事なことですから、一緒に知識を高めていきましょう」

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