継続は力なり、がんとは統合療法的に闘う 大腸がんと肝転移と24年間闘った精神科医・星野仁彦さん(66)
続けるために考えた「星野式ゲルソン」
ゲルソン療法を、その通りにするのはとても難しい。例えば、特製の野菜ジュースを1日13回飲む、コーヒー浣腸を1日5回する、など。星野さんは、仕事をしながら無理なく継続できるように「星野式ゲルソン療法」にアレンジした。
「星野式では70%に緩めました。継続は力なり。続けることが大事なんです」
特製ジュースは朝晩2回とし、昼間は缶の野菜ジュースを飲んだ。また、“本家”の療法に加え、ビタミンのサプリメントを取ったり、薬草茶の飲用や尿療法を行ったりもした。
都さんの協力も大きかった。クリスチャンの都さんはゲルソン療法のメニューを「聖書に書いてあるような料理ね」と言いながら、2時間半かけて作り、一緒に食べた後、1時間半かけて片づけたという。「鳥のエサみたいな料理」(星野さん)もありがたく、おいしく食べられた。
しばらくすると、星野さんの腫瘍マーカーの値は下がり始めた。数カ月おきに撮るレントゲンやCTでも、始めてから現在まで四半世紀近く異常は見られていない。おまけに、78キロあった体重は62キロに落ち、肥満も解消された。
「がんの再発を抑えるだけでなく、以前よりはるかに健康になりました」と笑う。

医科栄養学と心のケアと

星野さんは、自らゲルソン療法を継続するとともに、医療現場での指導にも力を入れている。福島県郡山市駅前にある*ロマリンダクリニックでの診療を主体に、全国各地での講演や執筆活動を続けている。
「ロマリンダクリニックの富永国比古院長は、米国のロマリンダ大学で医科栄養学を研究して博士号取った方です。米国では医学生に広く医科栄養学が教育されていますが、日本ではまだ珍しい分野です。加えて、我々は、総合的な治療アプローチを取っています。漢方薬、免疫療法、そして心のケアを大切にしています。もちろん、抗がん薬や放射線治療の指導もしています」
がんの経験が治療にもいい影響を与えたという。
「人間は心と体を両方持った存在だということがよく分かりました。自分が、がんになった精神科医だからよく分かる。医者であると同時に患者ですから。両方を経験して、日本の医療の弱点がわかってきました」
*ロマリンダクリニック= 電話:024-924-1161
「星野式根掘り葉掘り」診察法

星野さんの診察の特徴は、患者に尋ねることだ。
「『あなたはなぜがん���なってしまいましたか?』。患者さんにとっては聞かれるのはイヤでしょうが、私は根掘り葉掘り聞きます。みなさん、特有の苦笑いをする。過去を反省するように。健康的ではない食事をしていた。ずいぶんお酒を飲んだ。たばこを吸っていた。睡眠不足、ストレス――。いろいろ出てきます。『あ、だからなったんですね』と気づいてもらうためです」
食事だけが原因ではないこともたくさんある。
「玄米を食べて、菜食主義、酒もたばこもしないのにがんになったという方々もいます。乳がんなど女性の内分泌系のがんに多い。“星野式根掘り葉掘り”で聞いていくと、ストレスに突きあたります。そして、『どんなストレスですか』とさらに聞く。夫婦間の不仲、姑問題、子供の非行などが出てきます。20年間も悩むとがんになってしまうのです」
心療内科医ならではのがん治療へのアプローチだ。
「脳の視床下部というわずか4グラムのところに、免疫中枢、内分泌ホルモン中枢、自律神経中枢、睡眠中枢、食欲中枢、性欲中枢、体温調節中枢などがあります。そのすぐ上にあるのが大脳辺縁系で、ここは心(情動)の中枢です。そして、視床下部は体の中枢。
心が病むと体も病みます。心と体は切り離せないのです。がん患者は告知されると、当然心が落ち込みます。心のケアをすると全然違う。若い医師はわかっていない。がんは体の病気、うつは心の病気と思っているからです。国立がんセンターが調べたら、がん患者の50%はうつ状態だったといいます。私もそうでしたからよくわかります」
ロマリンダクリニックで行う講習会で、朝にとぼとぼ歩いてきた参加者が、気持ちの持ち方が変わり、夕方には「これから頑張ります」と生気をみなぎらせて帰っていくこともしばしばだという。
「イギリスでは、心の状態で治療の効きが4倍違うという説があります。懐疑的に治療を受けるのと、頑張ってやろうというのでは違ってきます。日々の問診の最後に短い時間でもいいから『調子はどうですか?』『心配事はありませんか?』と聞くべきです」
がんと闘おう 前向きに、積極的に
現代医学による手術や治療を経て、余命を期待できないほどの転移を経験し、医科栄養学で乗り切った精神科医の星野さん。
「ゲルソン療法も万能ではない」と言い、それに加え心のケアを含めた様々な分野の治療法を統合的に患者さんに届けるのが目標だ。
「どんなに薬を飲んでいても、悪い食事していたらだめなのです。私も栄養療法には苦労しました。食べることが生きがいだったから。だけど死にたくないと思った。だから、鳥のエサみたいなのでも食べたんです」
クリスチャンの妻・都さんがあるときに言ったという。
「あなた、42歳でがんを与えられたのも神のお導き。ゲルソン療法に出合ったのも神様のお導き。こうして元気に生きている。仕事もできている。本もたくさん書いた。あなたはそれを忘れないでね」
著書の印税の半分は妻の勧めで教会に寄付している。最後に、自身に言い聞かせるように言った。
「あきらめないで。患者よ、がんと闘おう。前向き、積極的に、くじけずに。七転び八起きですよ」
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