「食わず嫌い」でなかったから辿り着いた自分にベストな治療法 自らの足で調べ、前立腺がんの治療法を選択した元巨人軍の角 盈男さん(58歳)

取材・文●吉田健城
撮影●向井 渉
発行:2015年1月
更新:2018年3月


悩んだ末に決断した治療法

2014年6月に生まれた双子のお孫さんを抱いて。「この子たちとキャッチボールするのが夢です」と角さん

重粒子線治療とトモセラピー――。色々悩んだ末、角さんは最終的にトモセラピーを受けることを決めた。

理由はいくつかあるが、その1つが、ホルモン療法薬の1種である女性ホルモン薬で、心血管系の副作用が起こる可能性があることを聞いたからだ。

「僕の家系を調べたら、血管系疾患の気があるので、もしかしたら副作用としてそういった疾患が起きる可能性があることを聞かされたのです」

また他にも、ホルモン療法で男性ホルモンが絶たれたため、男性機能の低下という気の滅入る副作用を経験することになったのだ。角さんの場合、ホルモン療法を開始したことで、女性に対する興味が全くなくなってしまったという。

「例えば週刊誌を買えば、ちょっとエッチなページとかがあって、前だったら目を留めていたのに、それがホルモン療法を始めてから全くそういうのに興味が無くなってしまったんです。『あれっ、俺ってオカマだったのかな』って思いました。男としてちょっとショックでしたね。インポテンツではないと割り切っていても、淋しかったですね」

同じ年代の男性は、角さんの言わんとするニュアンスをよくご理解いただけるのではないかと思う。

それに加え、重粒子線治療が始まると飲酒が制限される。お酒を飲むことが大好きな角さんにとって、それも1つのネックだったようだ。

こうして、角さんは進行中のホルモン療法と10月開始予定だった重粒子線治療をキャンセルし、9月からトモセラピーの治療を受けることになった。

治療は横たわっているだけで終了

実際のトモセラピーの治療はどうだったのだろう。

「治療はまず看護師さんから『何分にトイレに行って膀胱を空にしてから、お茶を飲んで下さい。30分後に迎えに来ますから』と言われて、トイレに行った後、カップに300ccくらい入ったお茶を飲むことから始まります。しばらくすると看護師さんが迎えに来るので、装置に横たわってあとは20分位じっとしているだけ。治療している自覚は全くなく、副作用もなし。体調の変化もないので、トレーニングも可能だし、お酒も思いっきり飲めます(笑)」

照射は全部で15回。週に4~5回、連続して4週間ほどクリニックに通院して照射を受けることになる。取材時には、すでに照射は14回目まで終了しており、角さんは「明日最後の照射が終わり、今後は2カ月に1度血液検査でPSA数値をチェックして、とくに異常がなければ治療は終わりです」と明るい声で語っていた。

「食わず嫌いは止めなさい」

角さんのがんとの闘いを見ていて感心するのは、治療法に対する固定観念がなく、いいと思ったら軽いフットワークでどこへでも足を運ぶことだ。多忙な身でありながら、角さんはなぜそれが出来たのだろう?

「現役時代、僕はヒジの故障に苦しめられ、藁にもすがる思いで様々な治療法を訪ね歩いた経験が土台にあるのだと思います。当時は現在のように進んだ治療法がなかった時代です。整形外科、接骨院、カイロプラクティック、鍼灸院から美容目的のレーザー治療まで、ヒジに効きそうなものは何でも試しました。病気をよく治す祈祷師が横浜にいると聞いて、お祓いを受けに行ったことすらあります。それだけ藁にもすがる思いだったんです」

こうした、ヒジの治療法を求めて先入観なしに歩き回った経験が、今回のがん治療でも生かされていると言えるだろう。

角さんが日ごろモットーとしているのは「食わず嫌いは止めなさい」である。「嫌いなものはあってもいい。ただ、食わず嫌いは止めなさいと、いつも言っています」

実際に足を運び、自分の耳で聞いて、これがいいと思ったからトモセラピーの治療法を選んだという角さん。前立腺がんの場合、治療の選択肢は多く、どの治療法にすべきか迷う人は多い。治療を受けるのは自分。角さんの主体的な行動に、学ぶべきところが多いのではないだろうか。

実際に足を運び、自分の耳で聞いて治療を決断した角さん。取材は角さんがオーナーの「m-129 スナック・バール」で行われた
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