早期発見、治療が1番 先生にタン(舌)キューべろマッチです! 2005年に舌がんを経験した医事漫談の巨匠・ケーシー高峰さん(81歳)
手術後1週間ほどで仕事に復帰
まだ療養中の身ではあったが、ケーシーさんは6月1日の舞台で早くも仕事復帰。最初の仕事となったのは、埼玉県・春日部市で行われた「ドクター・ケーシーの公開診療イン春日部」だった。
「ただ、まだ人前で喋ることができる状態ではなかったので、昔からの仲間である漫才のおぼん・こぼんの2人に来てもらって、僕の台詞を代わりに喋ってもらったんです。僕自身は白衣にマスク姿で、ひと言も発しないまま舞台に上がっていました」
もちろん、ずっとそうしていたわけではない。筆談で笑わせることもちゃんと考えていて、共演のカルーセル麻紀さんから「ドクターは、何がんで入院なさっているの?」と問われると、「私のがんは……子宮がん」と書き込み、「入院中、必ず飲まないといけないお薬は何?」と尋ねられると、「*バイアグラ」と書き込んで、会場から大きな笑いを取っていた。
*バイアグラ=一般名シルデナフィル


「怖がっていたら舞台にならない」
芸能人の中にはがんになると、仕事のことや収入のことで思い悩み、精神的に不安定になる人が少なくない。ケーシーさんの場合、落ち込むことはなかったのだろうか?
「全くなかったです。それまでに色々な病気を経験していたからね。1番きつかったのは、がんになる2年前に患った腰痛です。正式な病名は『脊椎管狭窄症』。背骨の中を通る神経が、変形した骨に圧迫されて激痛が走る病気で、このときは1カ月以上入院したし、リハビリもきつかった。胆石も経験しているけど、あれはあれで、痛み出すと脂汗が出る」
舌がんのあと、とくに他のがんには罹っていない。
「ただ、5、6年前に前立腺肥大で入院をしました。手術はしなかったけれど、前立腺が肥大しておしっこのキレが悪くなっているから、今は*ユリーフという尿の通りをよくする薬と、前立腺肥大を抑える*アボルブという薬を飲んでいます」
アボルブは男性ホルモンの働きを抑える薬なので、服用すると性機能を弱めることになるが、それに対する抵抗感はなかったのだろうか?
「ないです。これまで使いすぎるほど使ってきたからね(笑)。それより、最近ちょっとボケてきて、ステージでネタを忘れちゃうことがある。取り繕うけど、お客さんは、どうしたという顔でこっちを見ているので冷や汗タラタラものですよ」
それでもケーシーさんは、芸人生活にピリオドを打つ気はない。
「誰でも80歳を過ぎればそうなるんだから、怖がっていたら舞台にならないでしょ」
*ユリーフ=一般名シロドシン *アボルブ=一般名デュタステリド
へき地医療に生涯をささげた母
生涯現役を目指すケーシーさんにはお手本になる人がいる。お母さんの門脇シヅエさんである。シヅエさんはへき地医療に取り組んだ女医さんで、山形県の無医村で開業し、99歳で亡くなる少し前まで現役医師として活躍した方だ。強い使命感を胸に、山間部の集落を往診に歩くひたむきな仕事ぶりは住民から高く評価され、第1回医療功労賞を受賞している。
このお母さんには、2代3代にわたって頼ってくる患者さんが大勢いて、それに応えたいという気持ちが、生涯現役を貫くエネルギーになっていた。同様にケーシーさんにも、医事漫談を見て笑い転げるファンが大勢いる。この取材は、東京上野のホテルのレストランで行われたが、ファンだというおばあちゃんのグループが、ケーシーさんに握手を求めに来て取材が中断した。そんなハプニングが起きるのも、ケーシーさんだからこそと言えるだろう。
「予防にまさる治療なし」
母・シヅエさんがよく口にしていた言葉だ。「早期発見が1番。ちょっとおかしいなと思ったら、すぐに医者に行かなきゃ」とケーシーさんは話す。今回の舌がんも早期の段階で見つけて治療できたからこそ、こうして克服できた。
「先生に〝タン(舌)キューべろマッチ〟です」と、笑いながら話すケーシーさん。今後もうまく病気と付き合いながら、このまま生涯現役を貫いていただきたい。
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