肝内胆管がんを早期発見し、摘出手術も見事成功した大谷昭宏さん(70歳) 1人のジャーナリストががんになって思う、患者としての生き方とは?

取材・文●吉田健城
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2016年7月
更新:2016年6月


手術後に抗がん薬の臨床試験に参加

術後の回復も順調で、スケジュール通り9月中旬に退院できる運びとなった。

術後2週間ほど経ったころ、正確な病理検査の結果が出て、リンパ節も含めて転移は見られなかったことがわかった。しかし肝内胆管がんの治療は、これで終わりにはならなかった。再発する可能性が否定できないため、主治医からそれを防ぐ目的で半年間、抗がん薬を使った術後補助化学療法を行うことを勧められたのだ。

「手術が上手くいったあと、医師からは抗がん薬による治療を開始したいと言われました。ただし、その際に100%完璧に再発を抑えられるわけではないことも説明を受けました。自分としては、たとえ少しの確率でも効果があるのなら、それを積み重ねていけばいいと思ったので、抗がん薬治療を開始することにしました」

現在、肝内胆管がんの術後補助化学療法については臨床試験中で、治療法についてはきちんと確立されたものはない。大谷さんは主治医から、臨床試験への参加をお願いされた。

「臨床試験を行っていても、症例数が少なく、なかなかデータが集まらないそうです。主治医から協力してくれませんかということだったので、それならばと参加を決めました」

コンピュータによる無作為化、いわゆるくじ引きで、大谷さんはTS-1による飲み薬(経口薬)のグループに入り、退院後に半年間にわたって薬を服用した。

副作用はどうだったのだろう?

「服薬を始める前に、医師からはめまいや倦怠感、だるさなどが出るかもしれないと、色々説明があったのですが、簡単な話、全部二日酔いの症状なんです。こっちとしては『そんなもん、しょっちゅうやっていて慣れとるわい』という感じで(笑)。もちろん薬ですから、飲んでいて気持ちのいいものではないですが、とくに副作用で仕事に支障が出たということもなかったですね。強いて出た症状と言えば、爪が黒くなったりする着色ぐらいです。他にも、口にヘルペスのようなものができたことがあったけれど、それも1度だけでした」

こうして無事に3月末までTS-1を服用し続け、治療はひと段落、現在に至っているという。

TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム

一患者として考える大谷さんの生き方

現在は3カ月おきに大学病院に行き、術後の経過観察を受けている大谷さん。再発への恐れはないのだろうか?

「もちろん再発は1番気になるところではありますが、ただ心配していても仕方がない。まさに早く見つけて、早く叩く以外に方法はないので、そこをいちいち気にしていてもしょうがないと思っています」

今回、ジャーナリストである大谷さんが〝がん〟になって思ったことは何だったのだろう。

「我々の仕事って、日々人の〝死〟に関わりがあって、〝死〟というものを割と客観的に捉えているかと思うんです。その〝死〟というものが、いよいよ自分にも近づいてきたのかなと、思うようになりました。

ほぼ毎日人の〝死〟に関わる報道をしている中で、自分がその枠の中に入って来たことへの驚きと、その一方でそれって当たり前のことなんだという、二律背反するような話ですが、そういったことを思いました」

大谷さん自身、がんであることを隠すつもりもないが、積極的に語っていくつもりもないと話す。ただし、一患者として、自分の体験談が少しでも医療の発展に結びつくのであれば、そのための協力は惜しまないつもりだ。

「自分が参加した臨床試験のような話をすることで、少しでも認識を深めて薬の開発が進むのであれば、いくらでも協力するつもりです。『俺も頑張っているから君も頑張れ』というのは患者にとって迷惑な話で、そういう話をするつもりは全くありません。そうではなくて、私自身が急速に進む医療技術の恩恵にあずかったわけですから、同じように自分が何か協力することで、1人でも多くの患者が救われるのであれば、そのための協力は是非したいと考えています。それが罹患した人たちの1つの生き方ではないでしょうか」

最後に大谷さんはそう語ってくれた。

2011年10月の講演会にて
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