2年前に腎がんの開腹手術を受けていたお笑いコンビ「はんにゃ」の川島章良さん(34歳) がん、結婚、娘の誕生、すべてが同じタイミングだった
1日1日を噛みしめて生きたい
手術から半年ほど経った2015年6月、妻が無事出産。……だが、そのときも壮絶だった。陣痛より先に破水が起きた妻は、トイレで動けなくなった。見ると、すでに赤ちゃんの頭が少し出ていたという。その瞬間、スポンと産まれ、妻が自分で赤ちゃんを受け止めたのだ。ようやく駆け付けた救急隊員がへその緒を切り、親子とも病院へ。
「生まれた瞬間、妻に『ナイスキャッチ』と叫んでいました」
そのとき産まれた娘も、現在1歳半。川島さんも、今や、すくすく育つわが子に目を細める父親だ。目を細めるだけではない。育児に役立つ知識を片っ端から学び、資格をとってしまった。「離乳食インストラクター1級」、「幼児食インストラクター」、「おひるねアート講師」、「食育アドバイザー」、「ベビーサインパパアドバイザー講師」、「だしソムリエ1級」……その数6個。
「嫁に色々迷惑をかけたので、最初は、俺も育児を手伝えるようにと思って勉強して資格を取り始めたのだけれど、もっともっと娘と関わりたいと思って、拍車がかかりました。気付いたら、副業できるかな?くらいに(笑)」
もうすぐ手術から2年。術後も定期的に医師の診察を受けており、今のところ再発の恐れはない。医師には「術後、このまま5年間、何もなければ卒業です」と言われているという。
「手術直後は、ニュースやCMで『がん』という言葉を耳にするたび怖かった。『がんちゃん』ってあだ名の友達に、意味なくムカついたり。それほど恐怖でした。そんなときに救われたのは、嫁も相方(はんにゃの金田哲さん)も、いつも通り、普通にしてくれていたこと。『大丈夫?』なんて気を遣われても嫌だし、変に優しくされても嫌。変わらないのが1番ですね、家でも仕事でも」
術後はこれといった治療もなく、普段通りの生活を送っている川島さんだが、確実に変わったことがある。
「完璧にタバコを止めました。暴飲暴食も止めた。1年に1、2度は飲み過ぎることもありますが、変な飲み方はもうしない。がんの再発も怖いけれど、がん以外の病気も怖いから」
それまでは、「健康なんて二の次」の生活を送っていた川島さんの日々が、がんを境に確かに変わった。
「いつか終わる、ということを痛切に感じたんです。そしたら、1日1日を、今この時を大事にしたいと思うようになりました。こういうことって今まで何度も聞いたことはあったけれど、全然わかっていなかった。自分の命が終わるかもしれない、と心の奥で感じたとき、初めて知るんだと思います。だから、今はできるだけ早く起きています」
���は、お昼の12時から仕事なら、11時ギリギリまで寝ていたが、今は仕事があろうがなかろうが、朝6時半には起きて、離乳食を作ったり、娘と遊んだりしているそうだ。
公表の意味、これからの自分

2016年4月、テレビ朝日のバラエティ番組『しくじり先生』で、初めて腎がんで手術したことを告白した。それまで公表しなかった川島さんに、どんな心境の変化があったのだろう。
「別に公表する必要もないと思っていたのですが、隠しているのも面倒なんです。楽屋で着替えるときも、手術痕を見せないようにコソコソ着替えたり。なんで俺がコソコソしなきゃならないんだ、って。そんなときに『しくじり先生』の話をいただいて、いいタイミングかな、と。相方と会社(吉本興業)に相談して公表することにしました。公表してからは、堂々と着替えられるようになったし、何よりスッキリした。それにね、ロケ現場などで、思いがけない人が『僕も腎臓やったんだよ』と言ってきてくれたり……。『そうなんですか』と、何かそれだけで、お互い何も言わなくても通じるような気がするんです」
告知されたときには、人生終わりだ……と思った川島さん。でも、今なら「がんになっても、決して終わりじゃない」と言える。若い人にも「検診を受けよう」と、今の彼には実感を持って言える。
「がんを経験して、俺自身が確かに変わりました。再発の不安もあります。再発じゃなくても、新たにまたがんができるかもしれない。1回なったということは、なりやすい体質だろうし。いつまた来るかわからない、という思いを抱えながら、でも、たとえその日が来ても後悔しないように生きたい。だから、毎日が愛おしいんです」
今後は、新たな展開も視野に入れている。
「病気をする前は、〝食生活〟なんて考えたこともなかった。そんな俺が、『だしは昆布からとろう!』なんて言っているんです。面白いですよね。とにかく健康が1番。そのためには幼いころからの食生活が大事です。芸人としてはもちろん、これからはそういうことにも関わっていけたらいいな、と思っています」
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