病気になっても、今まで通り、普段通りに――。 大腸がんの肝転移が見つかった、元プロ野球選手の大島康徳さん(66歳)

取材・文●吉田健城
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2017年5月
更新:2019年7月


手術は無事に成功

大学病院では、まず各種の検査が行われ、大腸がんの肝転移であることが確定。その後、主治医から治療方針に関する説明があり、S状結腸にできたがんは、いつ腸閉塞が起きてもおかしくない状態なので、すぐに手術を行って切除する必要があること、また腫瘍の状態によっては人工肛門となる可能性があること、などの話があった。

「人工肛門だけは嫌だったんですけれど……、先生からは手術をしてみないと、どうなるかわからないと言われました」

大島さんは11月中旬に大学病院に入院、腹腔鏡下による手術を受けることになった。

手術ではS状結腸が10㎝ほど切除され、腫瘍部分は全て切除された。

懸念されたのは周辺組織への浸潤・転移だったが、幸いそれも見つからず、人工肛門を造設する必要もなし。手術は6時間ほどでつつがなく終了した。

腹腔鏡下手術は体に与えるダメージが開腹手術に比べて小さいと言われるが、術後の経過はどうだったのだろう?

「手術後、そのまま集中治療室に移されて一晩過ごし、翌日病室に戻ったのですが、体をストレッチャーからベッドに移す際、激痛が走ったのを覚えています。手術直後は硬膜外麻酔をしていたのですが、血圧が低下して麻酔を外すことになってしまい、それで強烈な痛みを感じたのだと思います。幸いその後はとくに痛みに悩まされることはなかったのですが、あの時の痛みは耐え難いものでした」

大島さんは2週間ほど入院し、その後ほどなく退院する運びとなった。

化学療法しながら、仕事にも復帰

手術後12月に入ってからは、今度は肝転移に対する抗がん薬治療が始まった。肝臓に転移している腫瘍を縮小させ、手術に持ち込むためだ。

行われているのは、ゼローダとエルプラットを組み合わせたXELOX(ゼロックス)療法。3週間を1サイクルとした投与スケジュールを繰り返し行い、現在に至っている。

抗がん薬の副作用はどうなのだろう?

「僕の場合、冷たいものに触れると手足の先端のほうにビリビリッと痺れがきたりします。目の周りや瞼(まぶた)がひきつる、手がピーンと突っ張る、足の裏がつる、といった症状が出るときもあります。それと冷たいものを飲むと、喉(のど)に刺激がきて飲みづらい時もありますね。ただ副作用と言えるのはこれくらいで、吐き気、食欲不振、発疹などは出ていません。軽く済んでいるほうだと思っています」

抗がん薬の影響からか、味覚が少し変わったなと思う時もあるが、「今は食べ過ぎと言われる」ほど、食欲もある。さらに大腸がんの術後には、下痢や便秘に悩まされる人も多いが、そういっ���後遺症もなく、仕事も徐々に再開。雑誌の連載を始め、ラジオへの出演、開幕したプロ野球の解説にもすでに復帰している。

ゼローダ=一般名カペシタビン エルプラット=一般名オキサリプラチン

今まで通り、普段通りに

病気を経験して、大島さんが声を大にして言いたいこと。それは「決して、特別扱いしないで欲しい」ということだ。

「もちろん、周りの気遣いはとても嬉しいのだけれど、『そんなに気を遣うなよ~』と思ってしまうことがあります。腫れ物に触るような感じ、それはなしにしようぜ、と。そういう心境にならないのが、この病気だとは思うのですが……普段通りに接して欲しいですね」

病気になったとしても、何も変わらない。今まで通り、いつも通り――。だからこそ、病気についても公表した。2月に新たに引っ越したブログには、仕事のこと、治療のこと、その日に感じたことなど、大島さんの日常が綴られている。

「がんになったらなったでしょうがない。誰のせいでもないし、自分だってなりたくてなったわけでもない。だからこそ、うつむかず、顔を上げて、自然体で病気と向き合うのがいいんじゃないかと思っています」

大島さん自身、口にはしないが、家族も含め、色々な葛藤があった中で出た言葉だと想像する。心配しても、恐れていても、仕方がない。その時その時で、1番良い選択をしていけば良い――。病気と向き合うその姿からは、腹が据わった覚悟のような、そんな大島さんの強さが垣間見えた。

東京ドームの記者席で。開幕したプロ野球の解説者としても早々復帰した

週刊ベースボールの取材中。3月からは同誌にて大島さんの連載が開始している
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