大腸がんを患って、酒と恋愛を止めました 多彩な才能の持ち主の異色漫画家・内田春菊さんが大腸がんで人工肛門(ストーマ)になってわかったこと
身体障害者の認定を受け 経済的に助かる
人工肛門造設は、腹部に穴を開けて腸を外に引き出し、便の出口を作る。その穴に専用フィルターと排せつ物を入れる袋などの装具を取り付け、排せつ物が溜まった袋ごと交換する。そのため術後、病院で「すぐに身体障害者手帳の手続きしてください」と言われたのだが、「それ、どういうこと?」という疑問が湧いただけで、最初は何を言われているのか頭がついていかなかった。
人工肛門に装着するストーマ装具は、使い捨てで費用もばかにならない。
身体障害者の認定を受けるとストーマ装具を購入する際、自治体からその費用の支援が受けられるのだ。
「私は身体障害者4級の認定をもらっていますので、本当に助かります。ストーマ装具はこの先、私が死ぬまで必要なものですから。こんなことも本当に人工肛門になるまでは知りませんでした」
内田さんは周囲にがんに罹った人がたくさんいてその人たちから話も聞いていたり、がんに関する本も読んでいてがんについてそれなりに知っているつもりになっていたが、がんの当事者になってみて「なんて何も知らないことばかりだろうと思った」という。
便意を感じないだけで 日常生活にはさほどの不便はない
内田さんが人工肛門になって約1年10カ月。最初は人工肛門の装具はワンピースを装着していたのだがそれをツーピースに代えてから快適になってきたという。
ストーマの装具は大きく分類すると面板とストーマ袋が一体になっているワンピースと面板とストーマ袋がわかれているツーピースとがある。
「ワンピースは中を捨てて掃除をしなくてはなりませんが、ツーピースだと排せつ物が溜まってきたらその都度捨てて、新しい袋を面板に装着すればいいので助かっています」
人工肛門に装着している面板が弱ってきたら面板ごと交換する。面板はだいたい4~6日ぐらい使用可能だという。
また、いま使っている装具には活性炭の装置が袋と面板の両方に付いておりニオイ対策も万全で、「舞台やバンドのライブなどこれまでやってきた仕事は問題なくできています」と内田さんはいう。
自分が人工肛門になって初めてわかったことは、肛門がないので便意を感じないのだということ。
でも食事をした後など腸が動くので、だいたいの予測はつくそうだ。ただ、おならは制御できなくて勝手に出てしまうので、音は小さいのだが、やはり静かな場所だと少し気になるという。
1週間止めてみよう
そんな内田さんだが、大腸がんになって止めたことが2つあるという。
1つはお酒だ。昨年の3月20日でキッパリ止めたという。がんになってからも���酒を飲んでいた内田さんだが、お酒は腸に悪いと感じていた内田さん。なんとか止めることはできないものかと日々思っていた。
「悩みがあるとつい飲みすぎてしまっていることが多くて、こんなことを続けていたら体にいいわけはない」と思っていた内田さんは3月20日に1冊の本と出会った。
その本には「あなたがいつでも酒を止められると思うならまず1週間止めましょう」という文言が書かれていた。
その文言に誘われるように「じゃぁ、1週間止めてみよう」と思い、そのまま現在まで止めているのだという。
主治医は「がんになるとへこむことがあるので『お酒を止めろ』とは言えない」と言っていたのだが、内田さんとしてはいろんなことに無理をしていて、それらを紛らわすために飲んでいたお酒をなんとしても止めたかったのだという。
お酒を止めた当初はノンアルコールも一通り試してみたが、今ではそれも一滴も飲んでないという。
がんを体験して 死が身近になったような気がする
もう1つ止めたのは恋愛だ。
がんが発覚する前の7月20日にボーイフレンドと別れたのだが、そのとき「もう男はいいや」と内田さんは思ったそうだ。
内田さんの望む恋愛関係は頼ったり頼られたりする間柄ではなく、その相手と対等に付き合いたいと望むのだが、付き合う期間が長くなるにつれそういう関係を維持していくことが難しいとわかってきた。
がんを経験して、内田さんは「死ぬ」ということがこれまで以上に身近になったような気がすると話す。
実は、内田さんは27歳のときに一度「死」を意識して遺言状を書いたことがある。それは内田さんを虐待した母に彼女が死んだらお金がいくのが嫌で書いたのだという。
そんな内田さんが大腸がんを発表したのは、自身のがん体験を描きたかったからだという。
「同じ病の人を励まそうなどという余裕はありません。ただ私が大腸がんになって、痔持ちの同業者が『ひぇー』となって、『検査に行かなきゃ』と言っているのを聞いてると面白いですよ」(内田さん)
自身の大変な体験を漫画に描くことで笑い飛ばしてみせる内田さんは、やはり只者ではなかった。


*写真撮影は清水大輔さん!
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