胃がんになったことで世界にチャレンジしたいと思うようになった 妻からのプレゼントでスキルス性胃がんが発見されたプロダーツプレイヤー・山田勇樹さん

取材・文●常陰純一
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2018年4月
更新:2019年7月


本場イギリスで活躍したい

副業で始めたサンドイッチ屋で。右端が山田さん

家族と一緒に

がんが見つかってから4年、山田さんは「もう、がんは全く怖くない」と言い切る。

「トーナメントに出場しているときも、日常生活を送っているときも、がんのことは完全に忘れています。食事のときに、ついつい食べ過ぎて、ダンピング症候群で苦しむことになるのも胃をとったことを忘れているせいでしょう。がんになったら、また同じように戦える自信もあります」

逆に、がんになったことに感謝していると山田さんはいう。

「がんになったことで1人の人間として成長できたように思うんです。例えば、それまでは、気づかなかった嫁さんの存在にはっきりと気づくようになった。自分は嫁さんに支えられて生きていることに気がついた。そして、もう1つはダーツプレイヤーとして、より大きな世界に目を向けられるようになったこと。『生き死に』を考えるようになったことで、たった1度の人生を以前にもまして大切に思うようになった。その結果、大きな世界にチャレンジしたいと考えるようになったんです」

ダーツの本場はイギリスで、かの地では日本では考えることもできないダーツの1億円プレイヤーも存在しているという。その本場で実力を磨き、日本に本物のダーツブームを起こしたいと山田さんはいう。

「例えばテニスの世界では、錦織圭選手がグランドスラムで活躍し、日本にテニスブームを巻き起こしているでしょう。同じように、ダーツでも世界レベルで活躍できるプレイヤーを輩出したい。自分がその先駆けになれればと思っているんです」

その言葉通り、山田さんは昨年(2017年)、1カ月ほどイギリスで武者修行の日々を送っている。今年はその期間を3カ月程度に伸ばす予定だ。今はイギリスのランキングで500位程度の選手とプレイするレベルだが、もちろん、どんどん強い相手とも対戦したいという。

――幼少時、山田さんの自宅が火事になったことがある。その自宅は3階建てで山田さんの部屋は3階にあったが、そのときは山田さんはたまたま1階にいた。もし3階にいたら逃げ遅れていたことだろう。そのときから山田さんは自分自身の強運を確信しているという。あるいは短期間でダーツの世界で第1人者になれたことも、さらに言えば、がんになってもすぐにダーツの世界に復帰できたことも同じ強運の賜物かもしれない。

あるいは現在の山田さんには、その強運に人間としての円熟味が加わり始めている。それが山田さんの生き方にどんな変化をもたらすことになるのだろうか。がんになったことを契機に、山田さんの新たなチャレンジが続いていく。

ダンピング症候群=胃切除を受けた人が食後に起こすことがある吐き気、めまい、脱力感、発汗、心悸亢進などの症候群

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