がんと闘っていくには何かアクションを起こすこと 35歳で胆管がんステージⅣ、5年生存率3%の現実を突きつけられた男の逆転の発想・西口洋平さん
患者のナマの声を社会に届けたい
「こんな会は絶対必要とされるはずだから、今まで作った人はいるはずだ。ただそれがいま見当たらないということは続けていく資金がなかったからではないか」と思っている。
だから最初は寄付でもいいではないかという意見もあったが、自分のことを考えてみても寄付なんかしたことがない。まして10円20円の寄付でやっていけるのか、寄付は寄付で有難いがそれに頼って運営していくのは難しい、と思った。
「そういう意味でも人に頼るとか善意に頼るとかではなく、この仕組みを続けていくにはビジネスの要素が絶対必要だと思ったんです」
そうはいったものの何がビジネスになるのかは当初は正直見当もつかなかった。
会員数が400人ぐらいに達した2016年秋口、ある調査会社からモニターとして会員にアンケートを頼めないかという依頼が舞い込んできた。
「そうか、そういうビジネスがあるのか」と気づいた。
それが「キャンサーペアレンツ」への企業からの最初の依頼だった。
「キャンサーペアレンツ」を続けていくうち、がん患者に対する世間の誤解や偏見があって、がん患者が容易にカミングアウトしにくい環境にあるということが次第にわかってきた。
その誤解や偏見を取っ払っていくには患者側からの積極的な働きが必要だと感じた西口さんは、患者さんたちのナマの声を必要とする企業にどう繋げていけるのかを考えている。
「例えば介護食を作っている食品会社が病院に行って患者さんのナマの声を聞きたいと思っても接点がとれない。とくに若い患者さんとは接点を持つことが難しい」という話があった。
「なら若い患者さん向けの食品や、子どもと一緒に食べられる食品を開発したいという企業と協力してその商品開発に参加する、といったことを通じて企業にコミットできればビジネスにもなり、その果実は僕らに返ってくる」
だから患者も積極的に参加してくれる。
「昨年あたりから廻り始めたといったところでしょうか。まだまだこれからですが。それと会員さんの気がかりはやはり子どものことです。例えば、乳がん患者会などで子どもの話をするのは憚れるのですね。子どもがいらっしゃらない方もおられるので気を使って話せない。ここは、前提ががん腫を問わず子供のいる患者会なので、気兼ねなく話ができるメリットがあります」

「やるならいましかない」
西口さんが新卒一期生で入社した人材サービス会社のエン・ジャパンは現在、グループ全体で従業員2,000名を数える堂々たる会社だが、入社当時は従業員50人ぐらいの小さなベンチャー企業だった。
「いろんな会社を受けましたが、エン・ジャパンは会社とし��素直なんですね。他の会社は『うちは福利厚生がいいとか、社会に対してこんな貢献をしているとか』そんなことを言うんですが、エン・ジャパンだけは『仕事は99%しんどいよ、福利厚生とか無いけど3年後、同級生と比べて遜色ないどころか成長しているからね』と言うんですよ。『大変忙しいけどやりがいはあるよ』と正直に話してくれる社長だったので何をしている会社かよくはわからなかったんですが、『よし!』この会社で働こうと思い入社しました」
ベンチャー企業に入社した西口さんには、「いつか大きいことをやってやるという気持ちがあった」のだが、結婚し子どもも出来きたことで「いつかやってやる」という気持ちが徐々に薄れてきていた。
そんな時期、胆管がんステージⅣの宣告を受け、5生存率3%という厳しい状況に置かれた。
「やるなら今しかない」という気持ちがすごく強くなって、仕事も絶対に復帰するという強い気持ちが持てたのだ。常に体内に時限爆弾を抱えているようなものだが、「そんなこと考えてもしょうがない」と思っている。

元気でやってこれたのは この活動を見つけられたから

胆管がんを告知されたとき幼稚園の年長だった倖さんも、今年の4月で小学4年生になる。自身の闘病生活も4年目を迎える。
西口さんはいま家族と過ごす時間を何より大切にしている。
「もし私が逝ってしまったとしても、この活動を通して私が残したことを妻や娘に伝えられると信じています。お父さんはこんな活動をしていたんだよ、ってね。そして妻や娘が僕のことを思い出してくれたら本当に嬉しいですね」
「キャンサーペアレンツ」の登録会員は5月10日現在、1,700人を超えた。闘病生活4年目を迎える西口さんの撒いた小さな種は確実に育ち始めている。
「僕がここまで元気で生きてこられたのは『キャンサーペアレンツ』のような活動を見つけられたからだと思っています。だからこそこの活動に参加する人々を増やしていきたいのです」
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