死からの生還に感謝感謝の毎日です。 オプジーボと樹状細胞ワクチン併用で前立腺PSA値が劇的に下がる・富田秀夫さん(元・宮城リコー/山形リコー社長)

取材・文●髙橋良典
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2018年7月
更新:2019年7月


免疫チェックポイント阻害薬とは

ここで、免疫チェックポイント阻害薬について若干の説明を加えておこう。

がん細胞にはがん細胞を攻撃する細胞傷害性T細胞(CTL)に殺されないようT細胞の活性を下げてしまう「免疫チェックポイント」という仕組みがある。

この免疫チェックポイント阻害薬には異なる作用機序によって2種類に分けられる。1つはオプジーボに代表される抗PD-1抗体だ。

T細胞の表面にはT細胞の抑制に関わっているPD-1という部位が存在している。またがん細胞にはPD-L1やPD-L2と呼ばれるPD-1と結合する受容体が存在している。これらが結合することでT細胞の働きが抑制されるのだ。

ならT細胞の抑制に関わるPD-1を阻害できればT細胞は元通りがん細胞を殺すことができるようになる。このような考えにより開発されたのが抗PD-1抗体オプジーボだ。

もう1つはヤーボイに代表される抗CTLA-4抗体。がん細胞を認識した樹状細胞のB7とT細胞のCD28が結合しT細胞の表面にCTLA-4ができ、T細胞を活性化させてがん細胞を攻撃しようとする。しかし、CTLA-4が樹状細胞のB7と結合すると、がん細胞を攻撃しなくなる。抗CTLA-4抗体はこのCTLA-4がB7と結合するのを阻害し、T細胞ががん細胞を攻撃するよう働きかけるのだ。

来年は生きていないかもしれない

富田さんは12月1日、以前から面識のあった免疫治療に理解のある国立病院の先生を久保田さんから紹介され13日からホルモン薬のゴナックスとゾメタの投与、それとクリニックで投与されたオプジーボの副作用チェックを行った。クリニックでもゾメタは投与していたのだが、保険適用を受けるため国立病院での治療を受けることにしたのだった。

12月1日国立病院で測ったPSA値は894といままで最高の数値を示していた。

そんな高い数値が出たこともあり2017年の暮れには年賀状は出せないだろうと思った富田さんは病気療養中なので来年からの賀状は失礼させてもらう旨の賀状を友人たちに出してもいた。この時点では富田さんはまだ、免疫治療にも確固とした確信がもてないでいたのだった。

最高894もあった2カ月半でPSA値が0.076に

12月21日クリニックで樹状細胞ワクチンとオプジーボの投与を受ける。12月27日国立病院でゾメタとゴナックスの投与を受ける。

このころから免疫療法の効果も出てきたのか、痛みも消え食欲も戻ってきた。

富田さんを驚かせたのは、年明の2018年1月5日にクリニックで測ったPSAの数値がなんと1ケタの3になっていたことだった。久保田さんもPSAの数��はまだ3ケタはあるだろうと思っていたので1ケタの数値に正直驚いたという。

さらに1月18日にはPSA値は0.6に、2月16日にはPSA値は0.11まで落ち2月21日にはなんと0.076まで落ちていた。

富田さんのPSA値の推移

久保田さんは言う。

「免疫チェックポイント阻害薬が出てきたことで、樹状細胞ワクチン療法と併せて、やっと免疫治療が完結することになったのではないかと思います」

富田さんは現在月1度、国立病院でゴナックスの投与を受けている。前立腺にあった4㎝位の大きさのがんが消え、富田さんを悩まし続けた痛みがすっかり消えた。とくに頭痛が消えたのは地獄から天国に来たようだった。

富田さんは言う。

「素晴らしい名医の先生に出会えたことが、私の人生での最高の出来事でした。もし、免疫療法に出会えず、あのまま大学病院で抗がん薬治療を受けていたらと思うと恐ろしくなります。死から生還できたことに感謝感謝です」

ただ富田さんは最近、厚労省が2019年度から全国に400以上あるがん治療の拠点病院の指定要件を改め、免疫療法を規制強化するという新聞記事に心を痛めている。保険適用外の免疫療法は原則として薬事承認を目的とした治験や法律に基づく臨床研究に限るとし、事実上、自由診療での免疫療法はがん拠点病院では受診できなくなるからだ。

「私の症例もあるのだから、免疫治療がなんとか日の目を見て欲しい」

富田さんはいま切実にそう願っている。

オプジーボ=一般名ニボルマブ ゾメタ=一般名ゾレドロン酸 ヤーボイ=一般名イピリムマブ ゴナックス=一般名デガレリクス

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