誰の命でもない自分の命だから、納得いく治療を受けたい 私はこうして中咽頭がんステージⅣから生還した 俳優・村野武範さん
涙が出るくらい嬉しかった
4日後、村野さんと奥さんは東北の病院に紹介状と検査資料を持って向かった。
検査資料を渡し医師がそれを見ている間、村野さんは「ここで断られたらどうしよう」と一抹の不安があった。それは病院のHPに他に転移していたら陽子線で治療が出来ない場合もあると書かれていたからだ。
検査結果を見終わった医師から、「うちで治療できます」と言われたときには、涙が出るくらい嬉しかったという。
村野さんの場合、数カ所にがんが転移しているのだが、いずれも中咽頭に集中していて他の臓器への転移が見られなかったのが幸運だった。
友人の勧めで、がん保険に先進医療の特約を付けていた
主治医から中咽頭がんの治療は、陽子線と動注抗がん薬療法の併用で行うとの説明を受けた。
動注抗がん薬治療が9回、放射線の治療が37回で、その内訳は通常方法が5回、IMRT(強度変調放射線治療)が15回、陽子線が17回、ということだった。
「ただし、陽子線治療は先進医療といって、健康保険が効かず自費で受けなければならないのです。私の場合、陽子線治療は240万円でした。私は若い頃からがん保険に加入しており、数年前に懇意にしている保険屋さんに見直してもらい、先進医療特約を付けていたので陽子線治療は無料で済みました。
別に保険屋さんに頼まれているわけではないのですが、せっかくよい治療法を見つけても高額のために受けられないことがないよう転ばぬ先の杖で、先進医療特約を付けることの重要性をお伝えしたいです。ついでに言いますが、先進医療特約の部分の掛け金は、私の場合、月99円程です」
陽子線治療は2017年4月より小児がん、2018年4月から前立腺がん、骨軟部腫瘍、頭頸部腫瘍が保険適用になっている。
「ステージⅣの患者さんでも、通院している人も多数います」
ある日、主治医が「うちには村野さんと同じステージⅣの患者さんは多数います。近隣の患者さんで通院している人もいます。1日に陽子線を照射する時間はせいぜい10分ぐらいなので、通院治療が可能なのです」
治療し始めて2週間ぐらい経過してから口内炎ができて通常の食事は摂れなくなったので、おかゆを摂ったり栄養ドリンク剤を飲んだりしていた。
前の病院で告げられた副作用はそれくらいだった。別段体力も落ちないし、治療以外は、読書をしたり病院の周りを散歩したりして過ごしていたという。
唯一の副作用である口内炎の痛みは、退院してからも3カ月ぐらい続いた。前の病院で20㎏ぐらい落ちると言われていた体重も、退院したとき5㎏ほど落ちていただけだった。
体重が減ると脅かされていた村野さんは、入院する前に奥さんか���「どうせ痩せると思うから、今のうちに食べられるだけ食べといたほうが良いわよ」と言われて、2~3㎏太って入院したという。賢明な判断だ。
村野さんは2015年6月5日に入院して、8月17日に退院した。
決して諦めないで、自分が納得いく治療法を選んだほうがいい
村野さんは中咽頭がんステージⅣaと診断されて、今年(2019年)で4年になる。毎年2、3回、検査に行っている。その検査結果では今のところ再発の心配はないそうだ。
ただ、がんを患ってから村野さんは健康には人一倍気を遣うようになった。
若い頃は所謂、新劇青年で、毎日仲間と煙草の煙のなかで酒を浴びるように飲んでは演劇の話に花を咲かせていたものだ。
煙草も1日、100本は吸っていたが、50歳のときそれが原因で緊急入院して以来喫煙は止めていた。
東北の病院の医師からは「やはり、今回のがんの原因は過去の無茶な喫煙とお酒ですね」と言われたという。煙草を止めて20数年も経つのに、過去の喫煙の量×年数で、すっかり中咽頭にダメージが及んでいた。
また、1年365日、酒を飲まない日はなかったが、がんを患ってから「酒は、がんのエサですから」と言われてピタリと止めた。365日飲んでいた酒をがんに罹ったとはいえ、よく止められたと思うのだが。
「私、自分で言うのもおかしいですけど、酒飲んでも飲まなくても馬鹿ばっかり言ってたので、飲まなくても同じなんです」(笑い)
「酒を止めてからも友人とよく居酒屋に行くんですが、みんな『悪いね、あんた飲めなくて、飲みにくいな』と最初は言ってるんですが、途中から私に関係なくみんなガンガン飲んでますよ」(笑い)
村野さんは、酒を止めた以外に日常生活で気をつけていることがある。
①ペットと遊んだり散歩したりと、過激ではなくほどほどに体を動かすことを心掛けている
②入浴は浴槽に1日2~3回入り、温まるようにしている
③食事は緑黄野菜や海藻、キノコ類、大豆食品、エゴマ油か亜麻仁油等を摂るようにしている
④歌を歌うこと。歌を歌うことでストレス発散や免疫力強化にもなりますから
ステージⅣのがんから生還したご褒美なのか、2017年9月に39年ぶりにリリースしたのが昭和の香りが色濃く漂う抒情演歌「ハマナス」だ。作詞・作曲は、しいの乙吉さん。
「この歌は同世代への応援歌であると同時に、中咽頭がんステージⅣになってもこんなに歌えるんだということを見てもらうことで、同じ病で苦しんでいる人に元気を届けたかったんです」
インタビューの最後に、村野さんはがん患者の応援エールとして次のように話してくれた。
「私は4年前には亡くなっていてもおかしくないがんに罹りました。もうダメだろうと思っていた矢先、女房が陽子線治療とその病院を見つけてくれてこうしておしゃべりもできています。
あのまま前の病院にいたら、今こうしていることはできなかったでしょう。がんの治療法は日進月歩です。それは東京に限らず、地方の病院でも効果的な治療法を確立しています。インターネットもあり情報を得やすい時代です。だから1つの病院だけで決して諦めないで自分が納得いく治療法、病院を選ぶべきだと思います。
セカンドオピニオンの制度を活用し、より良い病院で治療を受けることこそ、今私たちに求められていることなんだと思います」
同じカテゴリーの最新記事
- 人生、悩み過ぎるには短すぎてもったいない 〝違いがわかる男〟宮本亞門が前立腺がんになって
- がん患者や家族に「マギーズ東京」のような施設を神奈川・藤沢に 乳がん発覚の恩人は健康バラエティTV番組 歌手・麻倉未希さん
- がん告知や余命を伝える運動をやってきたが、余命告知にいまは反対です がん教育の先頭に立ってきたがん専門医が膀胱がんになったとき 東京大学医学部附属病院放射線治療部門長・中川恵一さん
- 誰の命でもない自分の命だから、納得いく治療を受けたい 私はこうして中咽頭がんステージⅣから生還した 俳優・村野武範さん
- 死からの生還に感謝感謝の毎日です。 オプジーボと樹状細胞ワクチン併用で前立腺PSA値が劇的に下がる・富田秀夫さん(元・宮城リコー/山形リコー社長)
- がんと闘っていくには何かアクションを起こすこと 35歳で胆管がんステージⅣ、5年生存率3%の現実を突きつけられた男の逆転の発想・西口洋平さん
- 治療する側とされる側の懸け橋の役割を果たしたい 下行結腸がんⅢA期、上部直腸、肝転移を乗り越え走るオストメイト口腔外科医・山本悦秀さん
- 胃がんになったことで世界にチャレンジしたいと思うようになった 妻からのプレゼントでスキルス性胃がんが発見されたプロダーツプレイヤー・山田勇樹さん
- 大腸がんを患って、酒と恋愛を止めました 多彩な才能の持ち主の異色漫画家・内田春菊さんが大腸がんで人工肛門(ストーマ)になってわかったこと