光がいくつあるか、これが重要なんです ステージ4の肺がんと闘う、東京プリン・牧野隆志さん

取材・文:吉田健城
撮影:向井 渉
発行:2011年12月
更新:2018年9月

4カ月のブランクで腫瘍の大きさは7センチに増大

これで踏ん切りが付いた牧野さんは、今年2月、都内にある大学病院に入院し、ただちにセカンドラインの抗がん剤治療を受けることになった。2.5センチまで縮小したがんは、4カ月抗がん剤治療をしなかった間に7センチにまで増大し、リンパ節に転移した腫瘍もかなり大きくなっていたからだ。

使用された薬剤は経口抗がん剤のTS-1()で、4週間連続で朝夕服用し、2週間休薬するというパターンを繰り返すことになった。

TS-1を飲み始めてから、がんの増大は止まり、リンパ節に転移したがんの大きな膨らみも消えた。しかし副作用はかなり出た。吐き気はなかったが、食欲不振、湿疹、色素沈着、耳鳴り、口内炎などが次々に出た。

服用を開始して1週間くらい経ったときには腸炎が出て、4日間ほどの入院も経験した。

「腸炎の症状が出たのは3月中旬です。日を追うごとにお腹の調子が悪くなっていったので、病院で診てもらったら腸炎と診断され、その日のうちに入院しました」

とはいえ、TS-1自体、効果は見られていたため、そのまま服用を継続。ただその後、肺にあるがんの大きさが徐々に大きくなっていったため、6月上旬からTS-1に加えて、分子標的薬のアバスチン()が併用されるようになった。

TS-1=一般名テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム
アバスチン=一般名ベバシズマブ

 まだまだある治療選択肢

毎週土曜日の生放送番組『あらあらかしこ』(仙台放送)のメインパーソナリティーを担当

牧野さんは、毎週土曜日の生放送番組『あらあらかしこ』(仙台放送)のメインパーソナリティーを担当している

ステージ4のがんとの闘いは総力戦という信念を持つ牧野さんは、これと並行して最新の免疫療法、温熱療法なども継続しながら、現在も仕事と両立させつつがんと闘っている。

QOL(生活の質)に配慮した闘病を続けているためか、取材をしていても牧野さんには病気をうかがわせる影はまったくない。表情も豊かなので、TS-1の副作用による顔の色素沈着も「ゴルフ焼けですか?」と、こちらが聞いてしまったぐらいだ。

精神的にも落ち着いているという牧野さん。進行しているがんの場合、心のバランスを維持することはたやすいことではないが、牧野さんはなぜそれが可能なのだろう。

1つは治療面で、まだまだいくつも選択肢があることだ。

お手製野菜ジュースを毎日のように飲んでいるという牧野さん

病気をしてから「お手製野菜ジュース」を毎日のように飲んでいるという牧野さん。牧野家の1カ月のにんじん消費量はなんと300本にも及ぶという

「抗がん剤では、タキソール()、ジェムザール()、パラプラチン()をやっていませんし、分子標的薬ではタルセバ()が効く可能性もあると言われています。ファーストラインでやった、アリムタとシスプラチンの併用をまたやるという手もあるんじゃないかとも考えています。ぼく自身、次はジェムザールがいいと思っています。タキソールは髪の毛が抜けるので、テレビに出たとき、痛々しく見えるじゃないですか。ジェムザールは髪の毛が抜けないですから」

心のバランスを失わないもう1つの理由は、2つの大きな光があるからだという。

「がん患者にとって大事なのは、光がいくつあるかということなんだと思います。僕にとってそれは家族と仕事です。この2つが、変わらずあることは何よりも心の支えになってくれます。いつも家に帰ると、女房と小学校3年の息子がいて、他愛のないことを話しているだけで、もの凄くエネルギーをもらった気になります。仕事面で有難かったのは、仙台放送でやっている『あらあらかしこ』という番組が、がんになったあとも司会を続けさせてくれたことです。まだやり始めて1年くらいだったので、普通はがんになったら『この3月で、とか、この9月まで』となるのに、プロデューサーが『がんになろうが坊主になろうが、司会は絶対牧野さんでいきます!』と言ってくれたことは、大きな光になりました。この2つに加え、エールを送ってくれる友人がたくさんいることも、大きな力になっています。ぼく のホームページやツイッターに届くメッセージを1つ読むたびに、悪い細胞が1つずつ消えていくような気になりますから」

タキソール=一般名パクリタキセル
ジェムザール=一般名ゲムシタビン
パラプラチン=一般名カルボプラチン
タルセバ=一般名エルロチニブ

がんをポジティブに捉える

牧野隆志さん

がんという病気をポジティブに捉えていることも、心を強く持つことができる大きな要素になっているのかもしれない。

「語弊があるかもしれないけど、がんはある意味、いい病気だと思います。地震、交通事故、あるいは心筋梗塞などと違って一瞬にして命を奪われるわけではないですから。

ぼくは子供に話しておかないといけないことを、この1年で結構話しているんです。『もし、お父さんがいなくなっても、心の中にはずっと生きているからな。心のスイッチを押せば、いつでも呼び出せるんだからな』ってね。まだ小学校3年生なのでピンと来ない様子ですが、大きくなったときに少しでも思い出してくれればと思っています。もし、がんになっていなかったら、子供とそんな風に接することはなかったですから……。

今は凄く充実しているし、がんになったことで自分にとって1番重要なものが何なのか見えてきたように思います。ちょっといい人過ぎるかもしれないけど、それが現時点での偽らざる心境です」

今後は話す仕事などを通して、色んな人に恩返しをしたいと話す牧野さん。牧野さんの言葉で、心に光が灯る人もきっと多いのではないだろうか。


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