失敗してもいいから、後悔せずに生きていく 悪性リンパ腫と闘って、見事復帰を果たした人気ロックバンドSOPHIAの都啓一さん

取材・文●吉田健城
撮影●向井 渉
発行:2011年6月
更新:2019年12月

最初に出た副作用は味覚障害

治療法はR-CHOP療法だった。抗体治療薬のリツキサン() とCHOP( エンドキサン()、アドリアシン()、オンコビン()、プレドニゾロン())を併用する治療法である。

「3週間1クールで、CHOP療法は6クール、リツキサンは8クールやるというスケジュールです。1クール目だけは入院して投与を受けましたが、あとは通院での投与です。開始前には脱毛、嘔吐、不快感、倦怠感、手足のしびれなど、様々な副作用が出る可能性があるという説明を受けました」

副作用の出方は百人百様だが、都さんの場合はどうだったのだろう?

「最初に出たのは味覚障害でした。ご飯のにおいがダメで食べられなくなりました。ほかにも食べられないものが増えて、ハンバーガーなど、子供が食べるようなものを食べていました。髪の毛は1クール目の2週目に抜け出しましたが、わかっていたのでとくにショックはありませんでした。心臓が締め付けられるような感じで痛くなったことも2回ありますが、そのときは死ぬんじゃないかと思いました。これは、アドリアシンの副作用だと思います」

リツキサン=一般名リツキシマブ
エンドキサン=一般名シクロホスファミド
アドリアシン=一般名ドキソルビシン
オンコビン=一般名ビンクリスチン
プレドニゾロン=一般名

手足のしびれに悩まされる

CHOP療法は4剤併用なので、それ以外にもつらい副作用が出た。とくに都さんが恐れていたのは手足のしびれだった。

「治療の開始前に説明がありましたが、しびれくらいどうってことないと思っていたんです。でも、いざ始まってみるとこれにはトコトン悩まされました。手がチクチク刺されている感じで痛く、麻痺するような感じもあってもう手が動かなくなるんじゃないかと思いました。キーボードをやっているので、これでは仕事にならないと、しびれを止める薬を処方してもらったんですが、症状が改善されず、結局、お医者さんと相談して、しびれの原因になっているオンコビンを4クール目でやめました」

このように約5カ月間続いた化学療法は決して平坦なものではなかった。精神的に落ち込むことはなかったのだろうか?

「それはなかったですね。3週間おきの投与なので、1週目は投与、2週目はすごく苦しいんですが、3週目は体調がよくなるのでレコーディングとか、いろんな仕事をしました。落ち込む暇がなかったというのが正直なところです」

抗がん剤治療で完全寛解へ

写真:都啓一さん

抗がん剤の副作用に悩まされながらもR-CHOP療法は10月に終了。PET検査の結果、完全寛解()になっていることが確認された。

「PET検査の結果を聞きに行ったときは、家内と父も一緒でした。腹部や鎖骨下にあったがんの病変がきれいに消えていたので、感激しました。家内と父は泣いていましたが、父が泣く姿を見るのは初めてなので、改めて家族に大きな精神的負担をかけていたんだと自覚しました。寛解になったことはブログにも書いてすぐにファンにも伝えました。3月に公表して以来、多くの方たちから様々な形で励ましのメッセージをいただいていましたから」

これを多くのメディアは「SOPHIAの都啓一、がん克服を報告」という見出しで報じた。完全寛解と聞けば、大半の人は完全に治癒したと思ってしまうので、このような見出しになるのだが、前述のようにろ胞性リンパ腫は化学療法でがんの病変が消えたように見えても、再発するリスクが高い厄介な病気だ。

R-CHOPによる化学療法のあとは、リツキサン単剤による寛解維持療法が開始された。2カ月に1度の投与で、期間は2年間。

「QOL(生活の質)をそれほど下げなくても闘病が可能になったのはリツキサンのおかげです。この薬があることで病気と付き合っていけるようになりました」

とはいえ、リツキサンなどでいったん寛解に入っても、中には残念ながら再発する人もいる。それだけに、2年で寛解維持療法が終わることへの不安は否めない。

「リツキサンの投与を受けている間は大丈夫だと思いますが、それが終わったあとは少し不安です。生活習慣や食事をどう変えればいいか誰も教えてくれませんから」

完全寛解=画像診断上がんが消えること

やりたいことはやっていきたい

写真:後悔せずにやりたいことはやっていこうと思うようになった

病気になってから、失敗してもいいから、後悔せずにやりたいことはやっていこうと思うようになったと語る都啓一さん

一方、治療に関しては骨髄移植という選択もあるが、それについてはどう考えているのだろう?

「弟が2人いるのでお医者さんからは再発したら弟たちのHLA型を調べてみましょうといわれていますが、僕自身は、やらなくても大丈夫だと思っています。5年後、10年後には第2のリツキサンみたいな薬や、遺伝子にアプローチするような治療法が開発されていると聞くからです。そうした最新の情報が出ているサイトは、普段からチェックしていますが、見ていると、期待感が湧きあがってきます」

このように言い切ることができるのは、ろ胞性リンパ腫という病気に向き合うスタンスがしっかりできているからだろう。

最後に、病気になったことで変わったことは何か聞いてみた。

「失敗してもいいから、後悔せずにやりたいことはやっていこうと思えたことですね」

都さんからはそんな返事が返ってきた。

「後悔するのが1番つらいと思ったんです。死ぬ寸前まで失敗しようかなと思っているぐらい(笑)。なんかこう、そこに生きている実感が湧く気がするんですよね」

今後は、1人でも多くの人にがんのこと、悪性リンパ腫という病気について知ってもらいたいと都さん。そして、音楽活動においてもこの夏、完全復活を果たそうとしている。

SOPHIAは8月13日、日本武道館でライブを行う予定。タイトルは「HAPPY BIRTHDAY SOPHIA─SOPHIAが生まれ変わる日」。

都さんが悪性リンパ腫とわかった昨年、それは奇しくもSOPHIA15周年というアニバーサリーイヤーだった。

「都の命を持ってして、SOPHIAは生まれ変われたんです」

ヴォーカルの松岡さんはホームページでこう語っている。

都さんの、そしてSOPHIAの新たな第1歩が、ここから始まろうとしている。


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