「子宮を失うのが君の運命なら、僕も背負う」夫のその言葉に支えられた 子宮頸がんと進行子宮体がんを乗り越えて、芸能活動に見事復帰した タレント・原千晶さん

取材・文:吉田健城
撮影:向井 渉
発行:2011年4月
更新:2018年9月

この人となら生涯をともにできる

写真:原千晶さん

その後、さらに詳しい検査が行われた結果、意外なことがわかった。がんは子宮頸部だけでなく、子宮体部にもあったのだ。

「先生に『併発していますが、体部と頸部にある場合は体部のほうからアプローチをするから、これは体がんだと思ってください』と言われました。あとになってはっきりしたのですが、このがんは子宮体がんで、頸部のがんは体がんが転移したものでした。極めてまれなタイプだったのです」

原さんにとっては朗報だった。子宮体がんということで、手術が広汎子宮全摘ではなく、卵巣を温存する準広汎子宮全摘でいける可能性が高くなったのだ。

「ただし、卵巣に関しては『開けてみなければわからない場合もあるので、取るかどうかは僕に任せて欲しい』と先生に言われたので、了承して手術を受けることになったんです」

原さんは、子宮を失うことに関しては、前回のように心が揺れることはなかった。そのときは、彼が心の支えになってくれていたからだ。

「子宮を失い、子供が産めなくなることについて、2人で話したんですが、彼が『チーちゃん(原さんのこと)が元気でいてくれないと何にもならないから、悲観的に思うことはない』『チーちゃんがその運命を背負っているなら、僕もそれを背負う。君と一緒なら子供のいない人生でもいい』と言ってくれたんです。とてもうれしかったですね。彼の言葉で前向きな気持ちになれましたから。それに、そのときの言葉が、私にとって実質的なプロポーズになりました。彼の真意がわかったからです。『この人となら生涯をともにできる』と確信できました」

手術は予定通りに行われ、子宮と子宮周辺の組織、骨盤内リンパ節39個などが摘出された。しかし、卵巣、卵管は温存され、術後にそのことを聞かされた原さんは、主治医に感謝の念を禁じえなかった。

最もつらかった抗がん剤治療

術後は回復も順調で、あとは生検でリンパ節転移が認められなければ、退院できるというところまできた。ところが、4週間以上待たされてようやく結果が出たが、悪い知らせだった。リンパ節に1個転移が見つかったのだ。これで抗がん剤治療を行うことが決まった。

「そのころは許可を得て外泊もしていたので、本当にショックでした。その後、抗がん剤治療についての説明があり、脱毛することや、便秘や下痢、骨髄抑制などが高い確率で出ることなどを聞かされたので、気が滅入りました。私としては、猛烈な吐き���だけはイヤだったので、そのことを先生に伝えたら、『タキソールとパラプラチンを併用するTC療法で行きましょう』ということになりました」

投与スケジュールは3週間間隔で6回。投与の際は5日間入院する必要があった。

「最初はこんなもんなのかと思いました。食欲もあるし、髪の毛を引っ張っても抜けないですから。でも、2クール目の直前、頭皮が凄く突っ張って髪が急に抜け出したんです。翌日バリカンを買ってきて、男の子のようにスポーツ刈りにしました」

それ以降、手足の痺しびれ、便秘、発熱、下痢、味覚障害のほか、肌が浅黒くなる、爪が黒くなるといった副作用も起きた。3クール目で音をあげそうになったので、4クール目から薬の量を2割ほど減らしてもらったが、それでも副作用は次々に出た。がんの治療の中でも、「抗がん剤治療が最もつらかった」と原さんは振り返る。

5月17日、6回目の投与が終わって退院したときの心境を、彼女は「病院の外に出た瞬間、空気がこんなに美味しいものかと思いました」と語っているが、その心境は抗がん剤治療を経験したものでなければわからないものだ。

その後は月1度の検診を受けながら、経過観察をしていくことになった。

側に寄り添ってくれるだけで心強い

原さんは10月10日、ご主人と一緒に婚姻届を出し、正式な夫婦になった。また、11月には会見を開き、結婚を報告するとともに、自身のがん闘病も公表した。

「夫と暮らすようになってから、心持ちが全然違います。2人で1人の感覚と言いますか、私にとって夫のいない人生は、今は考えられません。夫がただ側に寄り添っていてくれているだけで、こんなにも心強いということを知りました。夫と一緒なら、これからどんな困難があろうと、乗り切れる気がします」

原さんは2度のがん闘病を強いられたが、半面で得たものも大きかったようだ。最大の収穫は人生の伴侶を見出したことだろう。「踏まれた麦ほど大きな実をつける」というが、つらい経験を乗り越えた原さんも今後、ご主人と手を取って人生を力強く歩みながら、きっと大きく飛躍していくに違いない。


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