闘病で実感した命の大切さを、歌に乗せて伝えたい 更年期障害、子宮筋腫、そして子宮頸がんを乗り越え、歌手として新境地を開いた森昌子さん

取材・文●吉田健城
撮影●向井 渉
発行:2011年1月
更新:2018年9月

子宮全摘手術では内出血のために再手術

写真:森昌子さん

森さんが子宮全摘手術を受けたのは2010年5月。森さんは、余計な気遣いをさせまいと家族に詳しいことは伝えず、バッグに必要なものを詰めて1人で入院した。

通常、子宮全摘手術はそう面倒な手術ではない。しかし、森さんの場合、子宮が周辺の臓器や組織に癒着していたため、通常1時間から1時間半で終了する全摘手術が、癒着部分を剥がす作業に手間取り、その3倍近く時間がかかった。

しかも、手術は1回では終わらなかった。

「病室に戻ってお腹を触ってみたら、ものすごく膨らんでいたんです。すぐにナースコールを押したら先生が駆けつけてきて、お腹の中で出血しているから、すぐに血抜きをしなくてはならないということで再手術になったんです。あれよ、あれよという間にストレッチャーに乗せられた感じでしたが、ショックはなく、『また切るんだ』という感じで冷静に受け止めていました」

出血は、子宮を腸から剥離した際に小さな傷ができたのが原因だった。全身麻酔で行われたため、彼女は知る由もなかったが、出血量が多かったため、止血だけでなく輸血も行われた。

術後は3日間、40度の高熱が出た。

「私は平熱が35度8分なので、天井がぐるぐる回っている感じでした。首、わきなど体中を氷で冷やし、解熱剤も投与されていたと思いますが、熱はなかなか下がりませんでした。それに、麻酔が切れて2時間後くらいから痛みが出たんですが、頭も胸もお腹も痛い。足も背中も痛くて、もう全身が痛いという感じでしたね。ナースコールをして何度も背中(脊髄)から麻酔を入れてもらいました。5日間はそんな状態が続きました」

痛みはなかなか引かなかったが、熱は4日目に37度台まで下がったので歩行を開始。その後、2~3日リハビリを行ってから無事退院した。

退院1週間後にステージに復帰

主治医からは3カ月静養するように言われていたが、森さんは1週間静養しただけで歌番組の収録から仕事に復帰。6月19日には早くもコンサートでステージに立つことになった。しかも、その日は昼の部と夜の部が予定されていたので、1日で50曲くらい歌わねばならなかった。

「前日に検診があったので、主治医の先生に『明日、コンサートなんです』と言ったらビックリされて、『やめたほうがいいです』と言われました。でも、どうしてもやりたかったんです。病気を公表したあと、ファンの皆さんから心配するお便りやメールをたくさんいただいていたんですが、その中には同じ病気の方たちから来た励ましのメッセージもたくさんあって���それがすごく心の糧になっていたんですね。ですから、『とにかく早く皆さんの前に出て、元気な姿をお見せしなきゃ』という気持ちが強かったんです」

しかも、前日の夜、ちょっとしたアクシデントがあった。帰宅後に傷口を見ると、傷口を縫ったところが一部切れて、血の混じった体液が出ていたのだ。放置はできないので、タクシーを飛ばして病院の夜間外来に行くと、医師が傷の開いた箇所を縫い直し、その上にガーゼを当ててベルトのようなもので固定してくれた。

「どうなるかと思ったけど、これでステージに立てるようになり、翌日2回のステージをこなしました」

ファンや家族の有難さを実感した

写真:森昌子さん
「ファンの皆さんや家族の有難さを実感しました」
と語る森昌子さん

森さんにとっては、病魔に立て続けに襲われたこの3年間はつらい日々だったが、得たものも大きかったという。

「まず、支えてくれるまわりの人たち、ファンの皆さんや家族の有難さを改めて実感しました。母や息子たちは、私が何も言わなくても心配して私に手を差し伸べてくれました。『家族はわかってくれている。自分は1人ではない』と救われる気持ちでした。病気のことも思い切って公表してよかった。応援してくださるファンの方だけでなく、『勇気づけられた』といってくださる方もいて、私の体験が少しでもお役に立ったんだと思うとうれしくなります。それに私自身、肩の力が抜けたというか、これからは等身大の、ありのままの姿を、皆さんにお見せできるような気がしています」

同じ病気に悩む人たちへのアドバイスを森さんに求めると、明るい声で答えが返ってきた。

「今は子宮頸がん予防ワクチンも開発されたので、若い女性にはこうした手段でぜひ、がんから大事な体を守ってもらいたいですね。更年期障害やホルモン療法の副作用に悩んでいる人は、お母さんやお姉さんにためらわず打ち明けてください。お友達と30分話をするだけでもだいぶ違うと思います。出口のないトンネルはないから、決して諦めないでほしい。でも、トンネルはなるべく短いほうがいいですから」

彼女の笑顔には、長いトンネルを抜け出した喜びがにじみ出ていた。それだけに今、トンネルの中にいる人たちの力になりたいという気持ちが強い。

「これからはもっと命の大切さを歌に乗せて伝えたい。『あなたは1人じゃない。みんなで力を合わせて生きていこう』――そんな心に届くメッセージソングを歌っていきたいですね」

力強く語る森さんの瞳には、闘病体験をバネに歌手として新しい境地に達した清々しさがあった。


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