想像を絶する体験をしたからこそ言える「子宮頸がんは撲滅できると思います」 子宮頸がん予防の啓発を続ける女優・仁科亜季子さん

取材・文●「がんサポート」編集部
撮影●向井 渉
発行:2013年6月
更新:2018年10月

立っていられない氷のような冷え症

後遺症は、さらにある。リンパ節切除に伴うリンパ浮腫も深刻だった。脚が、つま先が見えないほどの太さに腫れ上がった。見た目だけではなく、「立っていられない」「氷のような冷え症」にも悩まされた。当時よりはとても良くなっているものの、現在もマッサージや運動、投薬などで日々ケアしている。

そのような中で迎えた46歳の夏、さらなる病魔が襲い掛かった。もともと胃に粘膜下腫瘍(SMT)があったが、それが大きくなっていることがわかった。

「子宮頸がんとは関係ないと思います。99%良性と言われていましたが、それが悪性化してしまったようです。がんではなくジストということでした」

最近では、腸閉塞にも見舞われた。

「大きな外科的な手術をすると腸の癒着が起こりうるということと、放射線の影響で腸壁がむくんでたりということが原因だと聞きました。ここ1、2年頻発していたので、このままいつ起きるかとドキドキしているよりはということで、内視鏡で癒着をうまく剥がしながら悪いところを切除してもらいました」

女優復帰舞い込んだ講演依頼

子宮頸がんの啓発として講演する仁科さん

1999年、仁科さんは離婚を経て芸能界に復帰した。そんなとき、新聞社から講演の依頼を受けた。子宮頸がん検診の啓発イベントだった。

当時の日本は、がん検診の中でも子宮頸がんの受診率は20%に届かず、80%にも達する欧米とは大きな差があった。子宮がんに「子宮頸がん」と「子宮体がん」があること、頸がんは若い世代で増加傾向にあることなど、知識の面でさえ社会に知られているとは言い難い状況だった。その啓発活動で大きな役割を果たしてほしいとの依頼だった。

講演などしたことがない。始めは大いに悩んだが、こんな自分にもできることはたくさんあるのだと、自身の役割に目覚め、引き受けることにした。それをきっかけに、ドラマや舞台での女優業とともに子宮頸がんの予防・検診促進の啓発活動が仁科さんのライフワークになっていく。

「当時は子宮という言葉を出すことなど、周囲から受け入れていただけませんでした。性行動にオープンな女性がかかるものという誤った俗説もありました。まずは、子宮頸がんとはどのように発症するのかという点から発信しなければなりません。そして、どのように進行するのか、どうすれば予防できるのか――皆さんに知っていただきたいのです」

検診の呼びかけ

一部を除き、子宮頸がんはヒト・パピローマ・ウイルス(HPV)という、ほとんどの女性が一生のうちに1度は感染するありふれたウイルスが原因である。感染後ほとんどは免疫の力で排出されるし、残ったにしてもがん化するまでに数年かかるため、その前に検診で「前がん症状」として発見されれば、がん化の前に対処できる。

「検診をすれば見つかるのに、日本の受診率は欧米に比べて極端に低いんです。若い人は自分のこととは思っていないのでしょう。しかし、1度がんになってしまうと、一生涯ひきずっていくことになります。肉体的にも。精神的にも」

厚労省も2000年代初頭は、検診を呼びかけることが主旨だった。そして、2009年には日本でもようやく子宮頸がん予防ワクチンの接種が始まった。ウイルスが原因である数少ないがん種であるがゆえに可能になった予防法だった。

「私の経験をお話しすることにより、シンポジウムに参加してくださった方々から『励みになった』『前向きに頑張ります』というお言葉をいただき、私のほうが勇気づけられています。講演では子宮頸がんの恐ろしさや検診の有効性を知ってもらえるよう、専門家に確認しながら、科学的にも説明するようにしています」

女優復帰直後に、講演を依頼されたときの不安は一掃され、自らの言葉で情報発信を続けている。

見つかってよかったじゃない

仁科さんは講演活動などを通じて、相談を受けることも多い。あるときは、地方での講演後、スタッフを務めてくれた30歳代の女性が仁科さんの前で突然泣き出したという。「子宮の異形成(前がん症状)になり、治療しました。その後検診を続けていましたが、最近、初期の乳がんも見つかったんです」

仁科さんは、彼女の肩に手をまわして言った。

「早く見つかってよかったじゃない。検診を受けていなかったら、自分の体を守るとか愛するという気持ちには気づかなかったんじゃないですか? 見つかってよかったと考えようよ」

彼女は、赤くした目を仁科さんに向け、「そうですよね」と白い歯を見せた。

「検診は、健康でなければできないんです。健康じゃなかったら治療となりますからね」

子宮頸がんは撲滅できると思います

女優になった娘の仁美さんも、仁科さんに協力して啓発活動を続けている。もちろん、自身も検診を欠かさないという。2011年の東日本大震災の直後、民放テレビがCMの時間帯に流した仁科さんが娘の仁美さんと共に出演するAC(旧公共広告機構)の映像を覚えている方々も多いだろう。

「子宮頸がんは撲滅できると思います。早いうちから定期的に健診などを受けていただき、予防をすることで未然に防げる病気なのですから」

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