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5年、10年と節目をつけ、少しドキドキしながら、娘を見守っていく 女優/タレント・麻木久仁子 × 鎌田 實
放射線治療を60回 体調的な副作用はなし

「もう恐いものはないんだから、はじけちゃったほうがいいですよ(笑)」
麻木久仁子さん
「最終的に落ち着けたのは年齢的なものが大きかったような気がします」
鎌田 それにしても、クリニックの先生が、テレビ番組で撮ったデータを保存してくれていたのが大きいですね。前のデータと比べると、変化がよくわかるんですよ。
麻木 運が良かった。ありがたいと思います。前の写真がなければ、「ちょっと気になる部分がありますが、半年後に改めてチェックしましょう」と言われていたかも知れませんね。
鎌田 手術後は放射線治療をやったんですか。
麻木 手術の傷が落ち着いてから、平日に1カ月半ほど通院して、左右両方とも、合計30日で60回、放射線治療を受けました。
鎌田 副作用はあまり感じないで済んだ?
麻木 いや、胸の部分が真っ赤になり、乳頭周りがじくじくした感じになりました。先生も「ちょっと反応がきついねぇ」とおっしゃって、いっときステロイドを塗ったりしました。しかし、体調的な副作用はあまり感じずに済みました。ですから、いまどきの放射線治療は進歩したんだなと感じました。私の母の妹に当たる叔母が35年ぐらい前に乳がんで亡くなっているんですが、今の時代だったら助かったかもしれないと思いました。
鎌田 放射線治療後はホルモン療法ですか。
麻木 放射線が終わってから、毎朝1錠ずつ、ホルモン薬をのんでいます。
鎌田 違和感なくのみ続けられていますか。
麻木 これも人によってはつらいという話を聞いていたので、ちょっと覚悟していたんですが、今のところ自分が感じるのはホットフラッシュぐらいです。急に冷や汗が出てきて、「何だ、何だ」と思ったことがあります。最近は、暑ければ脱ぎ、寒ければ着られるように、薄手の羽織る物を持ち歩いています。しかし、そろそろ閉経期��迎えていますから、そうした症状も薬のせいなのかどうか、判然としない部分もありますね。基本的には、副作用はあまり気にしないようにしています。
鎌田 そうね。できるだけ後ろ向きにならないほうがいいですよ。
娘にはまだ知らせない乳がんの遺伝的可能性
鎌田 ところで、女優のアンジェリーナ・ジョリーが、遺伝子の観点から、乳がん予防のため、両乳房切除・再建手術を受けたことを公表しましたよね。麻木さんご自身はすでに切除されていますから大丈夫ですが、叔母さんが乳がんで亡くなり、麻木さんも乳がんですから、遺伝子的には乳がんの家系かも知れない。まだ早いけれど、娘さんは一応注意したほうがいいでしょうね。
麻木 私もアンジェリー・ナジョリーに関する取材を受けたり、親しいジャーナリストからがんの遺伝に関する話もうかがったんですが、娘はいままだ18歳なんです。そんなに早くから不安を持たせてどうするんだ、という気持ちもあるんです。
また、私自身、乳がんに関しては、検診を受け、早期発見すれば、治療が進歩しているから大丈夫だと、身をもって体験しているわけですから、娘がある年齢に達したときに、一緒に検診を受けるようにすればいいのではないか、と思っています。
鎌田 それでいいと思いますよ。10年後ぐらいに2人で一緒に検診を受ける、というくらいでいいでしょう。
麻木 私が乳がんになって、いろいろ考えたり、悩んだりしましたが、私は私なんだからと、最終的に落ち着けたのは、年齢的なものが大きかったような気がします。しかし、未婚の若い女性にとっては、乳がんになるかも知れないというストレスは計り知れないと思います。
たしかにいのちは大切ですが、その不安感を抱えながら結婚に向かうというのは、あまりにもかわいそうです。いい人と巡り会い、結婚してから2人が助け合い、ぶつかり合いながら、人生を築いていく中で、お互いに納得して検診に行こうというのがいいのではないかと思います。
鎌田 私は麻木さんのその選択でいいような気がしますね。娘さんが自らの意思で検診に行くと言うまでは、娘さんが好きなように生きられるようにしてあげる。それが麻木さんの務めですね。
麻木 私も術後5年、10年ときちんと節目をつけ、少しドキドキしながら、見守っていくつもりです。
「仕切り上手」から発信源として挑戦へ
鎌田 最後に少しだけ仕事の話を。麻木さんは若くしてモデルになって以来、女優をやり、テレビ番組の司会をやり、最近はコメンテーターとしても活躍されていますが、これは何となく流されてきたのか、自分で選んでやってきたのか、どっちですか。
麻木 私が最初に所属した事務所には、同時期に入った歌手がいました。彼女は物心ついたときから歌手を目指し、ひたすらその道を歩んできたわけです。 私は基本的には、何とか生活を成り立たせたいというくらいで、どちらかと言えば、流されてきたと言いますか、人から仕事を与えられてやってきた感じです。司会も「きっとできるから」、ドラマも「きっとできるから」と言われてやってきたんです。
鎌田 どの仕事も面白かった?
麻木 面白かった、とくに面白かったのは司会ですね。芸能界の中で女優とか歌手の仕事は、自分が発信源にならなければなりません。しかし、司会はちょっと違う。発信源がコメンテーターやゲストとして並んでいる中で、時間の枠内でどう組み立て、番組として収めていくか、それが司会の仕事です。ゲストやコメンテーターは、みんなそれぞれに発信したいと思っているのを、上手くまとめていく。
鎌田 なるほど。それが仕切りの本を出すほどの「仕切り上手」につながるんだ。
麻木 最近はコメンテーターとかゲストで出て、司会の手のひらに乗せてもらっていますが、もうこの歳になったんだし、発信源としてもう少しチャレンジさせてもらおうかなと思っています。
鎌田 そう。もう恐いものはないんだから、はじけちゃったほうがいいですよ(笑)。
麻木 最近、よくそう言われます(笑)。
鎌田 病気をして変わりましたか。
麻木 たまたま運が良かったわけですから、とてもありがたかったと思いましたね。そして、いつまでもきちんと仕切られた空間に安住するより、石橋を叩いて渡っても落ちるんだったら、吊り橋でも何でも渡ってみようという気持ちにもなってきました(笑)。
鎌田 いまの日本は活力を失っています。日本が元気になるためには、はじける人が出てこないとダメです。恐いものなしの麻木さんが、元気にはじけるのを期待したいと思います。本日はありがとうございました。
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