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原稿も旅行もゴルフもできるうちは好きなようにやって生きていきたい 作家・高橋三千綱 × 鎌田 實
女房も賛成してくれた「もう手術はしない」決断

鎌田 がんの話に戻しましょう。食道静脈瘤の治療をし、食道がんを内視鏡手術で切除して、がんはもう大丈夫だと思っていたところで、胃がんが見つかったんですか。
高橋 昨年6月に食道がんの内視鏡手術を受けたとき、手術そのものは上手く行ったんですが、思っていたほど簡単ではなかったんです。また、術後の調子が良くなく、少し苦しかったものですから、「もう手術はイヤですね。内視鏡でも」って言っていたんです。その後、11月頃になって、「胃にも静脈瘤があるから、大きくならないうちに固めましょう」ということで、手術をするために入院したんですよ。
ところが、血糖値が高くなり過ぎていたので、手術ができないということになり、外科の先生は内科の先生に、血糖値を下げる治療を頼んだんです。しかし、内科の先生は消化器系が専門で、糖尿病は専門外ですから、何もやってくれないわけです。毎日、病院のまずい飯だけを食べさせられ、もう帰ろうかと。家で女房がいろいろ計算して作ってくれるご飯のほうが、100倍もうまい。それで病院の了解も得て、自宅に帰った3日後に、肝性脳症を引き起こし、意識不明になって救急車で運ばれたんです。
鎌田 アンモニアの数値が上がったんですね。
高橋 上がってましたね。病院は血液検査でそれを知っていたのに、何も言ってくれなかったんです。さらに、ぼくが救急車で運ばれると、「いまウチでは急患は受け入れられないから、他へ行ってくれ」ですよ。3日前まで入院していた患者ですよ。さすがに温厚な女房も怒りましたよ。
鎌田 それはちょっとひどいね。
高橋 だから、ぼくも女房も、こんど入院するときは、もう手術はやめようと決めたんです。胃がんは他に転移しているかも知れない。それが動かなければ、それはそれでいいし、がん細胞が内ゲバするなら、それも運命だ。これまで好きなように生きてきたし、原稿も旅行も��ルフも、できるうちは好きなようにやって、いよいよ痛みが増してきたら、ホスピスに入って痛み止めだけは頼もうと。
鎌田 奥さんも賛成だった?
高橋 しばらく青い顔して考えてましたけど、賛成してくれました。ただ、内科の先生は「手術しろ」と言うんです。しかし、今年、内視鏡検査をしたとき出血して、胃の中が血だらけになったんです。
鎌田 肝臓が悪いと血小板が下がったりしますから、血が出やすいんですね。
高橋 ぼくは血小板が通常の3分の1なんです。
『ありがとう肝硬変、よろしく糖尿病』執筆中
鎌田 今、胃がんは早期がんがあるということですか。
高橋 (持参したカルテを見せながら)こういう診断で、がんは2つあるんですね。
鎌田 なるほど。病理診断はグループ5ですから、がんに間違いないわけですね。胃のどのあたりにあるんですか。
高橋 入り口のところです。ちょっと形が悪いんです。でも胃がんより、肝硬変のほうが面倒くさいですね。
鎌田 肝性脳症を1度、やっているわけですからね。
高橋 ぼくは医師を疑っている訳ではないんです。でもがんのモグラ叩きみたいなことをして、部品交換してもしようがない。それに肝硬変は、ある意味、もう死刑宣告ですからね。ただ、肝硬変は山口大学の再生医療の開発に期待しています。それが間に合って、肝硬変が良くなったら、もう1度、旅に出たいと思っています。
鎌田 それが正解かも知れませんね。そして、もう1度旅へ出たら、またいい作品が書けるでしょうね。
高橋 手術は何が何でもしないというわけではないんです。今は長編を書いていますから、手術をして体力が落ちたら困るということです。
鎌田 どんな内容の長編ですか。
高橋 『ありがとう肝硬変、よろしく糖尿病』ってタイトルです(笑)。もう300枚書きました。がんも追加して、上・下巻にしなくてはならないかも知れません。内容はユーモア小説です。
鎌田 楽しそうですね。
高橋 運筆には少し痛みもありますが、心地よい痛みです。
鎌田 苦しみながら書くとしても、書くこと自体は面白いでしょう。
高橋 ぼくは人を幸せにする役には立っていないし、人生は短いけれど1人で生きるには長すぎるから、少しでも長い間楽しみたい。そんな気持ちですかね。農家の人は作物ができないと、がっかりし、つらい思いもします。しかし、小説家は何ができるかわからないけれども、作品を作るのは楽しい。そういう便利で気楽な仕事ですよ。
鎌田 病気がおさまっていてくれるといいですね。
高橋 いい風が吹いてほしいです。
鎌田 ユーモア小説、楽しみに待っています。ありがとうございました。
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