神が私を見捨てないから 難治性乳がんにもへこたれない ゴスペルシンガー・KiKi(ゲーリー清美) × 鎌田 實

撮影●板橋雄一
構成/江口 敏
発行:2014年2月
更新:2018年9月

再発手術の3日後に 地方コンサートで熱唱

鎌田さんが魅了されたKiKiさんが熱唱するステージ『SAPPORO CITY JAZZ IN TOKYO』(2013年10月27日明治神宮外苑)

鎌田 それはいいスタンスですね。いつも柔軟に考えていたほうがいいですよ。トリプルネガティブだから抗がん薬治療をやらないという選択肢もある。それぞれの人生観の中で、私が言う「○に近い△」という選択があってもいいと思います。

KiKi 本来こうしなければならないという、マニュアル的な治療法があるんでしょうが、基本的に自分の感覚、感性で生きていると、まずこの10年間は乗り切れたことで納得し、今後の10年間においては、状況によってまた別の選択をすることもあり得ると考えています。

鎌田 それでいいんじゃないかな。それで、再発が見つかったのはいつでしたか。

KiKi 最初の手術から間もなく5年という2008年で、同じ右側でした。放射線治療をした部分のぎりぎりの場所でしたから、もしかしたら取り残したものかも知れないということでした。

鎌田 その部分だけなら、再発ではなかったかも知れないね。

KiKi そして2012年にまったく別の再発が見つかり、2013年に手術をしました。

鎌田 まだ温存ですか。

KiKi そうです。私、再発が見つかるのはレコーディングのときとか、スケジュールがストップできないときなんです(笑)。ですから全部日帰り手術で、翌日には秋田へ飛んでいたりします(笑)。

鎌田 いやぁー、大変だ。まぁ、歌を仕事に選んだんだからしようがないような気がするけど、それでいいと思ってる?

KiKi 私に与えられた仕事を、自分の都合でキャンセルするなんてことは、私の中では考えられないんですよ。実際、私が行かなければ成り立たないと、自分で思っている仕事があるんです。それで、管を付けた胸にテープを巻いてもらって歌うわけです(笑)。

鎌田 乳がんの手術の3日後に、よく歌いますね(笑)。

KiKi スーツケースは右胸が痛くて持てないんですが、歌っているときに撮った写真は両手を挙げて熱唱してましたね。人間って不思議ですねぇ(笑)。

神は私を見捨てない がんにはへこたれない

鎌田 歌っているときは幸せなんだね。セロトニンという幸せホルモンが出ているんですよ。乳がんを繰り返しているのに、全然負けていない。

KiKi 私も再発した直後は、子どもの前でも泣きますよ。

鎌田 それでも手術の3日後には秋田で歌ってるんだ(笑)。

KiKi 2013年の手術は、��田先生に観ていただいたDVDの公演の10日前でしたよ。

鎌田 そうなの! それであれだけ観客を酔わせるんだから、すごいね。乳がんの再発手術から10日目の歌手が、舞台の共演者を引っぱり、ホール全体を揺さぶっている。

KiKi 病気のことを口に出さない人がいますが、私はありのまま、何でも話します。ありのままの自分をさらけ出して生きていると、がんばらなくていいんです。そして、そのとき、そのときの自分の気持ちに合った歌を歌ってゆく。

鎌田 KiKiさんは歌に救われているね。

KiKi そうですね。ゴスペルのメッセージの中には、苦しみを歌うものが多いんです。普通、苦しみを歌うということはあまりないんですが、それをあえて歌い、そこから一筋の希望を見いだしてゆく。そして、目に見え、音に聞こえる世界に信頼を置くのではなく、その先の見えない、聞こえない世界に希望をつないでいく。それがゴスペルです。それを一生懸命歌っていると、自分が励まされ、その歌っている自分を見てくださっている人たちが励まされるんじゃないかと思います。

鎌田 今、がんは消えているんですか。

KiKi 症状がないということは、そういうことだと思います。

鎌田 3回乳がんになったわけですが、こうしてお話をうかがっていても、全然へこたれていない。

KiKi 基本的には、へこたれていません。

鎌田 支えているのは?

KiKi 家族を含めて、私の周りの環境の中に支えてくれているものがたくさんあります。しかし、根源的には人間はひとりです。そして、私のパーソナルな思いを言えば、そのひとりの人間である私を見捨てない神がいるということが、何よりも私の支えになっています。こんな私を救ってくださった神がいるのだから、私にも生まれてきた意味があると信じたいと思います。

鎌田 こんど機会を見つけて、KiKiさんのコンサートを是非観に行きます。ありがとうございました。

「今度機会を見つけてコンサートをぜひ見に行きます」とKiKiさんに約束する鎌田さん

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