検査しないまま収監されていたら、帰らぬ人となっていたかも知れません 鈴木宗男 × 鎌田 實

撮影●板橋雄一
構成/江口 敏
発行:2014年5月
更新:2019年7月


「悪い子は生んでいない。もう1回、国会へ行け」

鎌田 絶対に治ると思ったでしょう。

鈴木 思いました。ただ、がんセンターで手術を受け、病室に戻ったとき、女房が「お父さん、転移はないそうですよ。安心してください!」と呼びかけたら、私は記憶がないんですが、こう答えたそうです。「それなら選挙に出たほうが良かったな」と(爆笑)。

鎌田 鈴木宗男らしいね(笑)。

鈴木 そのとき女房が私をぴしゃっと叩いたそうです。私は全然憶えていません(笑)。政治家の執念というか、選挙に対する強い気持ちがあったんでしょうね。

鎌田 その翌年ですか、参議院選挙に出たんですよね。

鈴木 半年後ですね。参院選前の平成16年4月6日におふくろが死ぬんです。亡くなる1週間前に、おふくろが私に遺した最後の言葉が、「宗男、もう1回、国会に行け。母ちゃんは悪いことする子供は生んでいない。母ちゃんが一番よく知ってる。宗男、もう1回、戦え」と。

鎌田 かっこいいねぇ! いい母ちゃんだなぁ。

鈴木 それで私は平成16年7月の参議院選挙・北海道選挙区に出るんです。勝てる見込みはなかったんですが、50万票近く取れば、次の選挙に活きると考えたんです。そのとき野中広務先生が心配して来られて、「また検察に睨まれるから、出ないほうがいい」と忠告されたんですが、松山千春さんが、「野中先生、恥ずかしい戦いはしません。必ず次につながる戦いをします」とタンカを切って、野中先生を説得してくれました。結果的に落選はしましたが、48万5,000票取り、次の総選挙への基盤ができました。

鎌田 で、次のチャンスがすぐめぐってきたわけですね。

鈴木 そう。本来なら少なくともあと1~2年は選挙がないはずだったのに、参院選の翌年、小泉総理が例の郵政解散をしたんです。そこで私は新党大地を立ち上げ、堂々と「郵政民営化反対」を掲げて立候補し、当選したわけです。

鎌田 北海道には絶対的な鈴木ファンがいるんですね。

鈴木 おかげさまで、北海道だけでなく、全国にシンパがいますよ。昔から付き合ってきた人で、私から離れた人はいないんです。

鎌田 パワフルに本音で生きているから、多くの人が魅力を感じるんでしょうね。

鈴木 愚直に正直に生きてきましたから。佐藤優さんが言うように、正直すぎて足を引っぱられたことはあったかも知れませんけれどね。佐藤さんは外務省から、「鈴木宗男はおまえが撃て。そうすればおまえは助かる」と唆されたそうですが、「鈴木宗男先生は生涯付き合う友人だ」と言って断ったようですよ。

官僚も検察もそういうやり方で人を罪に陥れる。私はまだ元気に発信できるからいいですが、権力に狙われて人生を狂わされた人は、たくさんいますよ。その人だけでなく、家族の生活も無茶苦茶になりますからね。私がいまも再審を求めて闘っているのは、そういう人たちの無念を晴らしたいという気持ちもあるんです。

有罪確定し 収監前にドックで食道がんを発見

鎌田 鈴木さんが逮捕される頃に、女性秘書の方ががんになっていますよね。

鈴木 私の逮捕説が出始めた頃、女性秘書が子宮がんになるんですよ。5年前に乳がんをやっており、転移したんですね。それで入院して手術を受け、術後は入院したまま放射線治療を受けていた。検察はその逃げも隠れもしない彼女を逮捕するんです。彼女は責任ある立場ではないから、逮捕しても起訴できないにもかかわらず。なぜ逮捕したかと言えば、「鈴木の指示です」というような、検察に都合のいい調書を取るためです。彼女は一貫して、「私の単純なミスです」と言い、抵抗したようです。検察は「20日間の勾留延長もできるんだぞ」と脅したそうです。

鎌田 放射線治療を受けている患者さんに、ちょっと酷いですね。

鈴木 それで最後は私が弁護士に、「俺は最後まで裁判で闘うから、俺が不利になってもいいから、彼女を早く出して治療させてやってくれ」と頼み込み、弁護士が彼女を説得して調書にサインさせ、釈放させました。しかし、その彼女も1 年後には亡くなりました。検察のやり方は人のいのちまで奪うやり方ですよ。島田建設事件でも、島田さんという人が私の秘書の裁判に出て、ご自身の記憶に基づいて証言したところ、検察から「偽証だ!」と脅され、その翌日、脳梗塞で倒れたまま、今も寝たきりですよ。

鎌田 鈴木さんは平成15年に胃がんの手術をされたあと、再びがんになりますね。

鈴木 平成22年に食道がんが見つかりました。その年、最高裁で私の上告が棄却され、有罪が確定して、私は国会議員を失職し収監されることになりました。約1年は戻ってこれない。それで私は、収監される前にドックに入り検査を受けたんです。

鎌田 余裕があるというか、偉いねぇ。

鈴木 いや、前回、釈放後のドックで胃がんが見つかりましたから、今度は念には念を入れて、収監される前に検査を受けようと。そうしたら食道がんが見つかった。そこで、食道がんの手術を受けてから、収監に応じたわけです。もし、検査しないまま収監されていたら、今頃、帰らぬ人となっていたかも知れません。

まだまだ残っている政治家としての賞味期限

「いま日本の民主主義が危うい」と日本の政治の現状について熱く語る鈴木さんに「国会に戻っていただき、日本の政治にカツを入れてもらわないとダメですね」と応じる鎌田さん

鎌田 最後に現在の日本の政治状況に関して、言いたいことを披瀝してください。

鈴木 今の政治家は、自分が政治家だという気合いが足りない。例えば、安倍総理に対して、「安倍さん、特定秘密保護法は急ぐべきではありません。強行採決は間違っていますよ」と、はっきり言える人がいない。あるいは国家安全保障会議の設置についても、本来、もっともっと議論すべきだったと思います。民主主義で大事なことは、きちんとした手続きを踏むことですよ。次が中身です。手続きに対して何ら発言がなく、中身についてもしっかり議論しない。これでは日本の民主主義は危ういと、私は心配していますよ。

鎌田 鈴木さんに国会に戻っていただき、日本の政治にカツを入れてもらわないとダメですね(笑)。

鈴木 私は今、再審が認められることを最優先に考えていますが、仮に再審が認められなくても、3年後には公民権が返ってきます。そのとき私はまだ69歳です。先般の都知事選挙に出た細川護煕さんは76歳でした。それから、日本維新の会共同代表の石原慎太郎さんは84歳です。あの歳まで私はまだ18年あります。また、亀井静香さんの77歳、平沼赳夫さんの76歳までは、まだ10年から11年もあります。そういった諸先輩から考えれば、私にはまだまだ賞味期限はいっぱい残っていると思っていますよ。がんばりたいと思います。

鎌田 サムエル・ウルマンの「青春」という詩に、「青春とは人生のある期間ではなく、心の持ちようをいう」という有名な一節がありますよね。鈴木さんはまさにいまなお青春なんですね。日本の政治を活性化するために、もうひと働きも、ふた働きもしていただきたいと思います。

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