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政治も健康も「あきらめない」精神でがんばりたい 小沢一郎 × 鎌田 實
福島の甲状腺がん検査を全国レベルで実施すべき
鎌田 さて、これからの日本はどうしたらいいのか、という話題に入りたいと思います。4年前の東日本大震災で福島第一原発が爆発事故を起こし、廃炉までには大変な時間を要する見通しです。原発事故に関しては、現実問題としての放射能汚染の問題と、再稼働を含めて今後原発をどうするかというエネルギー政策の問題と、2つの問題があります。
現在、福島では甲状腺がんの疑いがある子供が100例前後になっています。私は、チェルノブイリに101回、医師団を送って、汚染地域の子供たちの救援活動をやってきましたが、チェルノブイリ周辺では、約6,000人の子供が甲状腺がんになっています。それに比べたら、福島の甲状腺がんの疑いがある子供の数は少ないですし、学者の中には、福島の子供たちの甲状腺がんの疑いと原発事故は無関係だと言う人もいます。私は若干、疑っているんですが。
小沢 甲状腺の専門家である、福島県民健康調査検討委員会の清水一雄先生(日本医科大学名誉教授)と、もうお1人がん研有明の先生、お2人に聞いたことがありますが、一般的に甲状腺がんの人は意外に多いけれども、進行が遅いために、気がつかないまま長生きをして人生を終える人が多く、今まで症例はあまり多くなかった、ということですね。
そして、最近、検査する機器も進歩しており、福島では全国レベルの60倍の高さで、甲状腺がんの疑いがある子供たちが見つかったが、同じ機器で全国一律に調査したら、似たような結果になる可能性もあり、福島の子供たちの調査結果が、原発のせいなのか、そうでないかは、年月が経過してからでないと、どちらとも断定できない、という話でした。
鎌田 福島以外の地域では、1万人で1例という結果が出ていますが、検査数が極端に少ないんです。もう少し検査を多くすべきですね。
小沢 私などは、他の地域でも健康診断でどんどん甲状腺がんの検査も進めて、福島の数値と比較すればいいと思うんですが、いろいろ難しい問題があるようですね。
安くも安全でもない原発は早く止めるべき
鎌田 安倍内閣は「原発再稼働ありき」の姿勢で突き進んでいますが、小沢さんは再稼働についてどういうスタンスですか。
小沢 放射能汚染が現実に起きており、廃炉まで莫大な費用と時間を要することが明らかになっているのに、再稼働を推進するというのは、僕には不可解です。ドイツでは、チェルノブイリ事故で原発廃止の議論が始まり、福島事故で原発の廃止を決定しました。ドイツへ視察に行ったとき、関係者は「日本は福島原発事故を起こしたのに、まだ原発を推進しようとしているのか」と驚いていました。
僕は40年以上前に���科学技術庁の政務次官をやったとき、役人から「廃棄物処理にはガラス固化技術があり、地中深く埋めれば大丈夫です」と聞かされていたんですが、いまだにその技術すら完成されていない。また日本のように地震が多く、たくさんの断層が走っている土地では、ガラスで固めて地中に埋めたって、壊れたらどうするという話にもなるんです。大体、最終的な高レベル廃棄物の処理法が、世界各国とも見つかっていないんです。だから、僕は原発は早く止めるべきだと思っています。
鎌田 原発を止めたら電力料金が高くなるとか、工場の海外移転がさらに進むとか、安定供給ができなくなるとか、いろんなことが言われていますね。
小沢 それは、原発マフィアの既得権を守るためのキベンです。日本には電力源はいっぱいあります。ドイツは風力を主にしていますが、日本には風力、太陽光、地熱などがありますし、将来的には資金を投入して掘削技術を確立すれば、近海のメタンハイドレートも期待できます。従来、原発はコストが安く、安全だと言われてきましたが、今回の事故で、安くも安全でもないことが明らかになりました。
鎌田 福島の廃炉は40年後をメドにしていますが、40年でできるのか不安ですね。
小沢 メルトダウンした燃料が格納容器を突き破って、メルトスルー状態になっていくと、放射能汚染は大変なことになりますよ。その部分がどういう状況になっているのか、まだ誰もわからないんです。僕はもう、福島第1の放射能を封じ込めるには、構内全体を厚いコンクリートか何かで遮蔽し、100~200年、放射能が漏れないようにするしか打つ手がないような気がします。
TPP交渉が妥結すれば 農業も医療も崩壊する?
鎌田 TPP(環太平洋パートナーシップ協定)の協議が間もなく妥結する見通しですが、国会での論議が十分でなく、国民に知らされていない部分も多々ありますよね。医療がアメリカナイズされたら、国民皆保険制度が崩され、アメリカ的な民間医療保険制度に変質する恐れもあります。
また、日本の文化を育み、豊かな自然を守ってきた農業も、厳しい国際競争社会に組み込まれる可能性があります。
小沢 今の内閣の政治を続けていけば、完全にそうなるでしょうね。アメリカ人は常に、アメリカのシステムがベストだ、という考え方をとりますが、それは誤解もはなはだしいことです。僕も彼らと何度も政府間交渉を行いましたが、彼らが主張するグローバリゼーションはアメリカナイゼ-ションなんです。僕は自由貿易の重要性は否定しませんが、医療にしても農業にしても、セーフティネットはしっかりと作っておく必要があります。
彼ら欧米人について僕の経験からいえば、筋道を立ててきちんと説明し、それが論理的に正しければ、欧米人は理解してくれますよ。いずれにしても、今の政府のやり方では、日本の農業の自給体制を完全に崩壊させると同時に、日本の地域社会、伝統社会を完全に破壊してしまいますね。また、おっしゃる通り世界に誇ってもいい国民皆保険制度も崩壊の危険があります。
鎌田 アメリカ国民の破産原因を調べてみますと、高額な医療費で破産に追い込まれた例が多いんです。日本は高度医療でも健康保険が利けば7~8万円で済みますが、アメリカでは何百万円も取られます。その裏では製薬会社や生命保険会社が利益を上げている。
小沢 アメリカもロシアも中国も大変な格差社会になっていますが、日本も急速に格差社会になっています。これ以上、格差が進めば、日本の将来は暗澹たるものになりますよ。
集団的自衛権容認より怖い 個別的自衛権の拡大解釈
鎌田 最後にうかがいたいのは、衆議院で強行採決された安保法制の問題です。
小沢 僕は日本国憲法の理念と憲法9条は、しっかり生かして守っていくべきだという考えです。即ち自衛権を行使できるのは日本が攻撃を受けたときだけで、日本とは関係のない国際紛争に自衛権を発動してはいけない。それが日本国憲法の理念であり、憲法9条の定めるところです。その原則をうやむやにしたまま議論しているから、国民にも国会審議がよく理解できないのです。
鎌田 安倍さんは「丁寧に理解を求める」と言っていますが、国民の多くは「理解できない」と感じていますね。
小沢 僕の持論は、自衛権は個別的にも集団的にも、正当防衛として当然持っている。ただし、それは日本が攻撃を受けたときだけです。しかし、それだけでいいかとなると、憲法の精神はそうじゃない。国際社会の平和を願っており、国際社会の平和に貢献しなければならない。それは日本が勝手にやる話ではなく、あくまでも平和を守る機構である国連を中心に行うものである。それが憲法の理念であり、原則なんです。
鎌田 小沢さんは『週刊朝日』で、先の大戦で日本が戦線を拡大していったのは、個別的自衛権の論理を拡大していったものだとして、集団的自衛権の影に隠れた形になっている個別的自衛権もきちんとさせる必要がある、と警鐘を鳴らしておられましたね。
小沢 そこが日本人のいい加減さなんですよ。安倍さんの言葉の中にも、法案の中にも、個別的自衛権の拡大解釈ができる余地を残しているんです。海外で日本人の生命が危ないとか、国益が損なわれるとかいう場合、世界中どこでも個別的自衛権で兵を出せることになる。今や世界中に日本人がいるわけですから。だから僕は、「集団的自衛権は仲間がいるから、まだいい。個別的自衛権の拡大解釈ほど怖いものはない」と言うんです。
鎌田 お話をうかがって、やはり小沢さんには自民対立軸としての野党をまとめる重責を担ってもらわねば、と実感しました。
小沢 まだ日本には真の民主主義が定着していない。今の日本のままでは、待っているのは悲劇です。僕はいつも言うんです。「今の状況は小沢一郎が大変なのではなく、あんたがたが大変なんだよ」と。選挙で棄権するのはダメで、大事な1票を野党のどこかに入れれば政治は変わるんです。僕たちも鎌田さんじゃありませんが「あきらめない」精神でがんばりたいと思います(笑)。
鎌田 小沢さんの野党の〝接着剤〟としてのご活躍を期待します。

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