日曜日ぐらいはがんばらなくていいや――そう思えるような番組にしたいね 元NHKエグゼクティブアナウンサー・村上信夫 × 鎌田 實

撮影●板橋雄一
構成●江口 敏
発行:2012年7月
更新:2018年9月

絶望は希望に変わる

鎌田  村上さんはラジオで希望を伝えることにもこだわっていたでしょ。

村上  「絶望は希望に変わる」というテーマで「いのちの対話」をやったこともありましたよね。絶望がストレートに希望に変わるのではなく、そこにユーモアが介在するわけでしょ?

鎌田  そう。希望は伝播すると言われますが、誰かひとりが希望を持っていれば、周りにいる人にも希望が伝わるんですね。ただ、絶望から希望に行く前にユーモアとかしゃれがあったほうが、希望が伝わりやすい。

村上  でしょ!

鎌田  だからダジャレにこだわるわけね。

村上  そう。ユーモアと直接結びつくかどうかわかりませんが、骨髄バンクの普及活動をしている大谷貴子さん。彼女の慢性骨髄性白血病は血液がんの1つですよね。今から20年ほど前は、まだ治療法も今ほど整ってなくて、骨髄移植の相手を探してもなかなか見つからない。友だちもダメ、兄弟もダメで、お母さんも1度はダメだったけれど、再検査したら適合して、骨髄移植をすることになった。そのとき医師が7人ほど集まってきて、「あなたがもし移植を受けても、助かる可能性は1%ですよ。それでも移植を受けますか」と言ったとき、周りの人たちは絶望した。

普通、そう思いますよね。希望が1%しかないわけですから。そのとき横にいたお姉さんが、大阪育ちの乗りで、「あんた、1%もあるやん」。その一言で大谷さんは移植を受け、助かった。「1%しか」と思うか、「1%も」と思うかで、エライ違いですよね。

鎌田  その素敵なお姉さんはアメリカに住んでいて、大谷さんが苦労して適合する人を探しているのを見て、「あんた、アメリカには骨髄バンクいうものがあるで。あんたが日本につくったらええ。その途中にあんたが死んだら、私とお母ちゃんが引き継いでつくったる。誰かのために何かをすることは、大事なんやで」と言ったんですね。

村上  肉親だったらオロオロする場面で、そういうことが言えるって、スゴイですね。

鎌田  それで大谷さんは発奮して、移植に成功したあと、骨髄バンクの普及に必死に取り組んだわけですよね。

村上  人のために生きてる。

鎌田  人のために生きることが、また彼女を元気にさせているんじゃないかと思う。

村上  病気の人が元気になっていく姿を見たくて、笑顔になるのを見たくて、一生懸命やっている。

鎌田  大谷さんはまず、自分のいのちを��事にしようと、1%の可能性にチャレンジした。そのあと、こんどは他人のために生きている。最近、他人を幸せにするオキシトシンという幸せホルモンが話題を呼んでいますが、大谷さんはオキシトシンをたくさん出している。要するに、自分と他人、両方考えることが大事なんだね。

骨折して初めて気づいた小さな感動の大切さ

骨折して初めて、小さなことに感動することの大切さに気づきました

「骨折して初めて、小さなことに感動することの大切さに気づきました」と村上さんにしみじみ話す鎌田さん(文化放送スタジオで)

村上  ところで、鎌田さん、今日は車椅子じゃないですね。

鎌田  スキーで骨折してから、ずっと車椅子でしたが、やっと装具を付けて、松葉杖で歩けるようになりました。

村上  なんかロボコップのギブスというか(笑)、長靴の化け物のような装具を付けていますね。患者さんの気持ちがさらにわかるようになったんじゃないですか(笑)。

鎌田  はい。身体が不自由になって、自由の大切さがわかりました。手術もしましたからね。腓骨粉砕骨折です。恥骨じゃないですからね(笑)。

村上  鎌田さんから電話がかかってきて、「のぶちゃん、僕、スキーで骨折したんだよ」「どこの骨ですか」「恥骨!」(笑)。そう聞こえたんです。どういう転び方をしたのかと思った(笑)。

鎌田  先日、安奈淳さんに「日曜はがんばらない」にゲスト出演してよ、という電話をしたんですが、「スキーで転んで腓骨骨折しまして……」と言ったら、彼女、唖然として、「どうしてそんな場所の骨……」(笑)

村上  やっぱり(笑)。

恥骨骨折と聞き間違えた

電話で「恥骨骨折と聞き間違えた」と話す村上さんに「腓骨粉砕骨折です」とむきになって訂正する鎌田さん

鎌田  私の発音が悪いのかねぇ。まあ、安奈淳さんは宝塚時代、「ベルサイユのばら」のオスカル役をやった、男性役のトップスターでしたから、さばさばしていて、そんなに気にすることはないけれどね(笑)。

村上  鎌田さん、安奈さんはボクが「いのちの対話」で紹介した女性だということ、忘れてるでしょう(笑)。で、療養中はどうでした?

鎌田  手術をして、患部にプレートやボルトが入っているから、骨髄炎になったらイヤだなとか、いろんな不安もあったんです。そんなとき、たまに窓の外の景色に目をやると、大きな夕日が落ちていくのが見える……。

村上  (小声で)詩人・鎌田實の始まりです。

鎌田  私は、「夕方忙しいサラリーマンや主婦も、たまには5秒間でも夕日を眺めて、ああ、きれいだなぁ、と感動したほうがいいよ。自分を幸せにするセロトニンという幸せホルモンが出るから」と言ってきたんですが、自分自身、それをやっていなかった。骨折をして初めて、小さなことに感動することの大切さに気づきました。

村上  医師として少しはリニューアルできましたね(笑)。

鎌田  3月末に骨折し、4月いっぱい、ほとんどベッドに寝たきり状態でしたが、その間に、木の芽の色がまず紫っぽくなり、次第に緑色になっていくことに気がつきました。

村上  「骨折り損のくたびれ儲け」と言いますが、鎌田さんは骨折り損じゃなく、骨を折ったことによって、いままでがんばって、がんばって、がんばり抜いてきたけれども、ホントにがんばらなくていいことに、心の底から気づいたんですね。

「日曜はがんばらない」を癒やしのある番組に

鎌田  こうしてみると、がんをはじめとして病気と闘うときには、自分を幸せにするセロトニンと、他人を幸せにするオキシトシン、ふたつの幸せホルモンが必要だとわかりますね。さて最後に、「日曜はがんばらない」に懸ける思いを。

村上  世の中では、鎌田さんと村上がNHKから文化放送にトラバーユしたと思われているようですが(笑)、ホントにそっくりそのまま、「いのちの対話」でやってきたことを受け継いで、いのちをテーマに、いのちが喜ぶような番組にしていきたいなと思います。ただ、いのちを大上段に振りかざすよりは、月~金がんばって働いてきた人たちに、日曜の朝10時くらいは、寝坊して起きてきて、ああ気持ちのいい朝だな、ラジオでもつけてみるか、ああ男ふたりが何か面白いことをしゃべっているな、ああそうか、日曜日ぐらいはがんばらなくていいや――そう思ってもらえるような番組にしたいと……。

鎌田  いずれ「がん」をテーマにして、がん患者さんともコミュニケーションを取りたいですね。

村上  「いのちの対話」では、「病気と付き合う」というテーマでやったことがありますね。病気は闘うだけでなく、受け入れて付き合うという考え方も大切だと話し合ったことがありましたね。

鎌田  がんに絶対に負けないとまず強く思うこと。でも進行がんや再発がんの場合は、がんと闘いつつ、付き合い方を再構築していく必要がありますね。いずれにしても、双方向というラジオの魅力を最大限に活かしながら、癒やしのある番組にして行こうよ。

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